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メロンパンナといつまでも

全く同じぬいぐるみを2回買ったことがある。メロンパンナのぬいぐるみだ。

理由はわからないが、アンパンマンのぬいぐるみの中で、長男はメロンパンナがお気に入りだった。長男が1歳のころ、私は外出時にメロンパンナを持ち歩くようにした。長男はベビーカーが苦手な赤ちゃんだったため、移動の際は常に抱っこをしていた。抱っこひもで長男を抱っこし、長男と自分の体の間に、メロンパンナを差し込む。そうすると長男はごきげんだったし、私自身も、自分と長男とメロンパンナと、3人で歩いている感覚になり、そんな自分たちがかわいく思えた。

その日もいつものように3人で外出した。自宅から少し遠くにある商業施設まで歩いた。商業施設へ行く途中には、歩道橋があった。私と長男とメロンパンナと、3人での楽しいお出掛けなのだから、1歳児を抱っこしながらの歩道橋の階段は、全く苦ではない。商業施設に到着し、館内をウロウロする。雑貨屋やスーパーを見てまわるのが楽しい。ふと気がついた。メロンパンナがいない。

どこかで落としたらしい。何分か前に訪れた雑貨屋の店員さんに聞く。メロンパンナを見かけませんでしたか。雑貨屋にはなかった。きっとここまで来る道のどこかで、落としてしまったのだ。抱っこひもの中で眠りに落ちた長男と私の体の隙間から、ポロッと落ちてしまったのだ。商業施設まで来たときと、同じ道を通って家まで帰ったが、結局メロンパンナは見つからなかった。

メロンパンナを失い、パニックに陥ったのは、1歳の長男ではなく30歳の母親である私だった。メロンパンナはあの子のお気に入りなのに。メロンパンナがいなくなったことを知ったら、あの子ががっかりするに違いない。

そして私は、2代目メロンパンナを購入した。値段は800円位だったと思う。少し高い出費ではあったが、これでもう大丈夫。近所へお出掛けするときも、遠出をするときも、なにも心配することはない。

メロンパンナが好きだった長男は、乗り物好きでもあったため、トミカも常に持ち歩いていた。メロンパンナとトミカがあれば、外出先でも長男はごきげんだった。

現在11歳の長男は、メロンパンナやトミカを持ち歩いてはいない。今彼は、ルービックキューブを持ち歩いている。電車に乗るとき、歯医者に行くとき、散髪屋に行くとき、祖父母の家に行くとき、旅行に行くとき、彼はルービックキューブを自分のカバンやポケットの中に入れている。ちょっとした空き時間に、カチャカチャと、ルービックキューブを回している。メロンパンナやトミカは、もう彼には必要ない。肌身離さず持ち歩きたいものは、人の成長とともに変わるのだ。

あのときはメロンパンナが絶対に必要だった。私と長男とメロンパンナと、3人でお出掛けした思い出は、自分の心の引き出しの中にそっとしまい、私はその思い出を持ち歩くことにする。

アンパンマンの仲間たち
アンパンマンは大きいサイズのものを買った

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