夢で煙草をやめました

煙草を吸わなくなって七年ぐらいになる。
何度かやめてはを繰り返して、37歳の時にやめた。
しかし、この先ずっとやめ続けられるかどうかは現時点では判らない。
やめたのに再開する時と言うのは納得できる言い訳を思いつくからだ。
その代表作が「一度やめることができたのだから、またやめることができる」という不可思議な思考である。
七年やめた今、その言葉を振り返ってみるとこの言い訳は明らかに間違っている。冷静に考えれば「またやめる」という行動そのものがおかしい。
やめるのに、またはないのだ。「やるか、やめるか」の二択だけのばずだが、どういう訳だか「またやめる」という選択肢が増えている。
マーク・トウェインの有名なジョーク「禁煙なんて簡単さ、俺は何千回もやめたよ」を違う言い方に変えただけで中身は同じだ。
やめないという前提で、やめるという行動が存在している。
七年たってすっかりやめたと思っている今も、次の瞬間には吸い始めているかもしれない。第一、この文章を書いている時点で煙草のことを考えている為、あっさりと起こりうる話だ。では、仮にまた吸い始めたとしたら?
きっとこう思うだろう「またやめよう」と。
それでは一体、こんな堂々巡りをどう解決すればいいのかと問われれば、生きてる間は解決はしない、死ぬまでこれに付き合えということになる。
身も蓋もない言い方だがそうなのだろうと思う。
だが、生きながらにして何か解決策はないものかと考えていると、そんな日は寝ていると煙草を吸う夢を見る。確かやめていたはずなのだが何故吸っているのだろうかと混乱しながら、まぁいいかなとなって吸い続ける。
驚いて目が覚めると、先ほどのは夢だったことに胸をなでおろす。
そんな悪夢が続くと、ある日気づいたことがあった、そう、これはひょっとしたら良い夢なのかもしれない。というのも、起きてる間は禁煙しているが、寝ている間は喫煙している。
つまり、生きてる間には永遠に解決しなさそうだった「やめる、吸う、またやめる」という問題が夢の中での喫煙によって、現実にはやめていても寝ている間だけ吸えるので目が開いた途端、またやめることができる。
なんという大発見であろうか、煙草を吸いたくなったら、寝ればいいのだ。
凄いことに俺は気づいたぞと、その日から俺は「夢煙草」を実践してみた。
そんなに都合よく煙草の夢を見るものかと思ったが、意外とこれが高確率で夢に現れた。
しかもそれは、今、夢の中なのだという認識までできる時もあった。
そんな時はチャンスとばかりに、コンビニで煙草を買って吸って吸って吸いまくる。夢の中だと判っているから何をしてもよさそうなものなのに、ちゃんと喫煙所にだけは行って吸う。マナーを守らないと、煙草に火をつける前に夢が覚めてしまいそうだと、慎重に行動している。
充分に吸いきって気が済んだ所で、気持ちよく目が覚める。
俺は布団の中にいる。唇には煙草の感触がまだ残っている。脳にはタールとニコチンが巡っていた感覚もある。実にいい気分だ。俺は煙草を一本も吸ってない。ホッとしたら一服したくなってきた。


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