夢の続きを君と①

「あの日の鍋」

「今終わった!」君からのLINEが来た。
僕は見ていた動画を止めキッチンに向かった。最近は本格的に冷えて来て冬の足音が鮮明になって来たように感じる。
こんな日は体の芯から暖まるものが良い。という事で今日は、冬の定番、お鍋だ。
材料は定番の白菜とネギにキノコ類、お豆腐、鶏肉だ。そうそう忘れちゃいけないのが我が家の定番である葛切り。彼女のイチオシ具材なのである。
野菜の切りつけが終わった頃タイミングよく玄関が開いて、「ただいま〜、疲れた〜」と聞こえた。ご帰宅だ。キッチンに入ってくる彼女を横目に「おかえり〜今日は鍋だよ」という。
目を輝かせるとはこの事を言うんだなというぐらいにキラキラさせて喜んでくれる。嬉しい限りだ。
その年の初鍋をする時はいつも思い出すことがある。それはまだ僕らが付き合う前の事だ。
大学で同じ学科だった僕等は下宿同士で互いの家も近かった事から2人鍋パをする事があった。彼女のことが好きだった僕からしたら、それは嬉しく同時に少し緊張もしていた。
後に彼女にこの時のことを聞くと、「僕の作ったご飯食べれる♪」と嬉しく思ってくれていたのと同時に、「色々あったけどその日お鍋を食べに行って、ポカポカ湯気が出ている好きな具材がたくさんはいったお鍋を見た時温もりを感じてすっごく幸せな気持ちになりました。」と話してくれた。
私はなんて幸せ者なのだろう。
確かに抜け目がないように好きだと話していた葛切りを入れたり、石川出身の彼女に合わせて石川名物「とり野菜味噌」を使うなどしたが、今でも思い出すぐらい貴重な2人の想い出になっているのだ。
そして、もちろん今年の初鍋も「とり野菜味噌」である。
締めは味噌ベースのタレに野菜と鶏肉の出汁がしっかりと出た汁に白米と卵を入れて雑炊にしよう。お腹いっぱいなはずなのにスルスルと入っていく雑炊は悪魔的な味である。
「ご馳走様でした!」
2人で後片付けをしながら当時のことを話す。これも毎年恒例なのだ。
住む場所が変わっても、僕等2人は変わらない。変わらないものがある方が帰るべき場所だと分かるから良いのだ。
僕の帰る場所は君のいる場所だから。あの日から今日もこれからもずっとそう思ってる。

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