見出し画像

第0章(終) 最初の戦い 

 そのとき、華が歩いている駐車場に一両の車が止まっていた。

「――!?」

 …黒いボディに真っ白な窓のカラー。

「(に、逃げなきゃ!)」

 そう、止まっている車はあのテロリストの乗っていた車に酷似していて、一般の人がこんな車に乗っているはずがない。

 さらに心なしか中にいる人が黒く見えてしまう。

 ここは東京。 
 大倭帝国一番で警戒される場所でもあり、どこにでも警察がいるような警戒度だが、あいにくそこは人通りが少なく17時半で警察は非番中だった。

「(17時半…前と同じだ…!)」

「とにかく、行けるね? 私は前とは違っていけるよ!」

 華が落ち着きを無意識に能力で取り戻し、二人は走り出した。

「うん。 もうパニックになってまともに動けなくならないようにね…」

「大丈夫!」

 優香はこの前のことをかなり気にしているようだ。

「優香さん、、いいね?」

 華は優香に用意しているあれを呼び掛けた。

「わかってるよ」

 優香は電話を介して警察もとい祖国防衛隊に緊急電話を行う。

「事件、、テロです! うっ、、 今逃げてます! そうです!」

「大丈夫だった?」

「うん。 まえよりは早く来ると思うけど、、」

 すでに二人は距離を取っており、まだあちらはこちらの気づいていない。

 しかしテロリストは徐々に準備を終えて車を飛び出してまたしても破壊工作を行う。
 ズガガガガという音が響き渡り爆風は隅々まで届いた。

 入試会場が破壊されかけ、テロリストの狙いが国連学校の校舎の破壊にあることは確かだった。

「――!?」

「そうじゃん! まずいよ! ここが破壊されたら入学式できない」

 華はそういうなり足を止めて振り返って向かおうとする。

「あ...」

「でも……あれに撃たれたらいくら相手が無能力者だったとしても確実にやられるんだよ!?」

「大丈夫…..朝雲さんいってたじゃん。 能力者の強さを」

―—『能力者は奇襲での近接戦で最も効果を発揮して銃火器などを実質無力化できる。 例えば俺がお前を打つために照準を合わせる間にお前は俺を倒すことができる。 速度的にはな』

 その時、カーンと音がして駅の措置に火炎瓶が投げられていた。

 しかし、それはテロリストの中に能力者がいないことを意味していた。

「(能力者だったらそんなことしなくても破壊して証拠隠滅までできるはず!)」

 それは華の推測に過ぎなかったが、優香もあの中に能力者がいないことを確信していた。

 さらにテロリストは近くに人少ないことに油断してか銃を持っていない。

「私は行くから、待ってていいよ」

「そ、そんなぁ…」

 しかし、そんな優香を置いて華は走り出してしまった。
 彼女は無意識のうちに自分の精神を制御して「あの事件を繰り返したくない」という意思に負けていた。

「相手は持ってるんだよ?? 銃」

 結局優香は気おされてその場に留まってしまった。


 華はあの日の被災以来の全力疾走で走っていた。

「(どうする? 銃を所持している相手に単身で飛び込むのは絶対いけないが、かといってほかに突入口があるわけでもな、、)」

 前とは比べ物にならないほどの体力がついていたのか、前は考えることもできなかったが今はこうして考えることができている。

「( ! あった! これだ!)」

 華は突然2階に上がって、テロリストのいる階の真上に行き、いつでも飛び降りて交戦できるようにする….いわゆる奇襲だ。

 すでに駅にも飛び火していたが、可燃物が少ない駅の中ではそこまで燃え広がない。

「16….20人もいる」

「よーっし…」

 その間、受験者だろうか。 奇遇…あるいは不運にも華と同じ道で帰っていた人は戦慄するが、その人に向けてテロリストが銃口を向けようとしていた。

「…..!」

 しかし、ドサッ!という音に一度テロリストの注意は落ちてくる華に向いた。

「ッタ!」

 素早く立て直した華はいまだに驚くテロリストに向かって瞬間的に近づくと腹部に向かって思いっきり殴った。

「っぐう!?」

「あああああああああ!」

 能力者になって強化された力に一心不乱に迫って殴ってくる華にテロリストは動揺した。

 テロリストは銃を手に取っているが、彼は能力者に対して照準を合わせることは至難の業ということをこの時に知ることになる。

「次っ!」

 驚くべき形相ですでに7人近くを昏倒させた。

「これも、、」

 華は優先して破壊工作を行う人を倒して建物の保全を優先した。


「いまさらここでおじけづいたのですか?」

「え…?」

 優香の後ろには薄水色の髪をした女性が立っていた。

「あの中に一人で飛び込んだら、間違いなく負けますよ」

「 ! 」

「それをわかっていて助けに行かないのですか? あの中に単身で飛び込んだのは確かに悪手ですが、そうしてしまった友を一人でも助けるのもまた軍人になるものとしての使命なのではないですか?」

「で、ですが」

「ここでどれだけ暴れてもこの大倭帝国はいま非常に治安が悪い。 今この学校が破壊されたらどうなるか? 国際的な被害は計り知れない。 この学校を復興させるためにどれだけの苦労があったのか」

「だがそれよりも重要なことは、あの人を死なせていいんですか?」

 ―—! はっ! となり優香は話もせずに突っ込んでしまった。

「(なんで、忘れていたんだろう? 大事なことだったのに、、)」

 優香は走りながらふがいなく思っていた。

「私もいけたらいいのですが…ダメですね。 『ばれてしまう』 よし瑠衣、行きますよもう」

 瑠衣と呼ばれた彼女の弟は顔を隠すように立っていた。

「ええ、わざわざ気遣ってくれてありがとう」

 スタッと現れお辞儀をする。
 周りは静まり返っており、落ち着いていた。

「ふふふっ! あの調子なら一人でも勝てるかもしれませんね。 でもどこかで躓くはずです」

「頑張ってほしいな。 ここを防衛したら名声が一気に飛び込んでくるよ」

「大丈夫、二人ならやれるはずだとおもいます。 それにどのみちもうすぐ祖国防衛隊が到着してここは戒厳令が敷かれます。私たちは早く立ち退くことですね」

「わかったよ」



「くらえ!」

 テロリストの一人はもともと強かったのか華に向かって的確に殴りかかる。

「あなたに能力が発現していたら勝てたかもしれませんが….」

 華は素早く反応し振りかぶった瞬間によこばらに手刀を入れ、また昏倒させた。

「(なぜだろう.....銃を持ってるこの人が全く怖くない)」

 能力によって体が軽くなってなぜかどこを殴ればいいかが間でわかる。

「ふっ! お前は強いな。 お前のような能力者が近くにいたとは不運だった。 だが最後に戦った相手がお前でよかったぞ!」

 ここまできたら華に勝っても負けても捕まって死んでしまうことを悟ったテロリストは、爆弾を華に投げつけた。

「…え!?」

 ここで爆弾が爆発したら間違いなく全員良くて負傷、わるかったら死んでしまうのに――という感情が横切り一瞬動きを止めてしまう華。

 シューッ!っと音がして煙が発生し、華の視界を遮った。

「あ、危ない!」

 すると、まじかになって気づいた優香が華を突き飛ばし、自身も飛び出すようにジャンプして押し出す形で退避する。

 バーン!っと音がして二人が地面に着地する前に爆発して華と優香は爆風に巻き込まれさらに遠くに飛ばされる。

「きゃあああああっ!?!?!」

 今までに経験したことのない熱さに驚く。

「ケホッケホ!」 

 数秒後、モアモヤと煙が明け、華と優香は状況を確認した。

「だ、大丈夫?」

 華は助けてくれた優香に聞いた。

「うん。 これであのときのこと……チャラだね」

 あのときとはあの大逃走のことだろう。

 しかし華は左腕、優香はかばった影響で背中に熱風を浴びて火傷する。 さらに服がボロボロになっていた。

「……」

 先ほど襲われて華に助けられた生徒はそこをずっと傍観していたが、すでに歩いてその場を離れだした。

「はっ!」

 姿を現したテロリストは照準を華と優香ではなくその生徒に向けた。

「うう......」

 いつでも打てるぞとばかりに銃をちらつかせる。

「(…っ! またこの状況! どうしたらいいかわからない!)」
 
 喉が干上がり、汗が体中から出てくる。

「(でも、それでも、この建物を建設するために多くの問題を乗り越えて玄人妥協の結晶! この建物が壊されたら私たちは世界から信用されなくなるかもしれない! だからこの建物と人をやらせるわけにはいかない!」

 体中から危機感がわいてくる。
 この国連学校の設立には、世界中の民主主義国家が、全体主義国家が、能力主義国家が、共産主義国家が妥協の末にたどり着いたところなのだ。

国連学校は一つの町というほど広い。 そこが破壊されたら、いや
「はい壊れました」ではすまされないほどの責任が国家に問われる。

 そうなればこの国の信用は落ち、二度とこの学校は再生できないだろう。

 さらに今まで止まっていた国際紛争が再開して、だ。

 このことを朝雲の入れ知恵で知っていた華はどうしてもこの学校の破壊だけは許せなかった。

―——「動くな!」

 突然華の前方から声がしてびっくりするが、その声はテロリストのものではなかった。

 ダンッ!という 躊躇ない発砲が行われ、テロリストは新造が後ろから貫かれ即死する。

 後ろ、横、前からどんどん入り込んでくる人々、全員軍帽と軍服をまとっていて統制の取れた動きで銃を構えていて、さらに華と優香が気絶させた人を拘束している。

「朝雲さん……動くなといった数秒後に撃つのはどうなんですか?」

 数秒後、華はあきれた様子で眺めていた。

「さぁな」

 そんな視線を無視して排除する祖国防衛隊の朝雲。

「それはそうと.…これ、お前がやったのか?」

 朝雲は倒れた人々を指さす。

「違うって言ったらどうなりますか?」

「信じられないな。 ではだれがやったというのかね」

「そうでしょうそうでしょう」

「私はまだ帰れませんか?」

 華はもうとても疲れているので早く帰りたいと思っていた。

「ああ。 少し残って話を聞きたいな。 別に悪い話じゃないから」

「あ、はい」


「それじゃあ…..お前は実質一人でテロリスト集団を壊滅させたということ?」

 華と優香は朝雲に職質にちかい形で質問を受けていた。

―—お前、あの女性と会ったことあるんだろ? ならお前が行くのがいいだろう。

 そんなことを言われてきてしまった。

「そう、、かもしれませんね」

「はぁ! 危ないな」

「ちなみに……あの方々は」

「ああ。 もうすぐ裁判行われるけど確実に死刑。 最悪公開処刑だな」

 淡々とそんなことを話す。

「ええ…….これじゃあ何のために気絶させるのか」

(本当に…..これでいいのかな?)

 華はそう思ったが所詮一人がそう思ったところで大して変わらない。

「はぁ……」

「そんな顔すんなって、お前らはこれから無償で貸してくれる電車に乗ってあの場所に変えれるんだ。 そんなことよりも自分が生き残ったことを喜ぶんだな」

「(もし、こいつらが二人でここを防衛したとすれば、勲章ものだがまあ他人から見ればただの喧嘩だよなー、ここを防衛で来たということは、こいつらは国際社会の緊張を防いだ。 これが一人の人間で、しかも平民だ)」

「で、大丈夫なんだな? その、体のほうは」

「え、ええ。 そこまで大きくはならなかったですから」

 とたんに気にされて頬を赤らめる優香。

「よーし。 じゃあもう俺があとは何とかするから、お前らはここでまっていろ」

「は、はーい」

 といって退出する朝雲。 

 二人はずっと、手を握っていた。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?