グレリア第一章 国際連合軍事学校
四月九日
「はっ! あいつら……本当に理想主義も大概にしてほしかったね」
外はすでに真夜中で緊迫した空気の会議室、国連学校の受験が終わり合格不合格の決定を下す場所で、『いい加減にしろ』といわんばかりの表情をした面接官。
「お前は何をそんなに不満げにしているんだ。 情けないぞ」
そういったのは不満そうにしていた面接官の隣にいた別の先生だった。
「申し訳ありませんねイレス先生。 今、判定しているこの生徒の面接中での回答が、少々気になるものでしたので」
目上の存在だったのか敬語になったその面接官は、判定している生徒の紙と情報を「イレス」といわれた先生に見せた。
「理想主義者」というキーワードがつけられたメモ用紙に移っていたのは「世界平和や国際協調」を唱えた華と優香の物だった。
「ほう…….」
最初は半信半疑だったが、徐々に表情を変えていくイレス先生。
数秒後、見終わった彼の顔には困惑の表情しかなかった。
「ま、まあその夢自体は間違ってないが、それをどうやって行うなどは聞かなかったのか?」
彼は世界平和の夢は間違ってないが、その方法がないことにはどうしようもないことを知っていた。
「も、申し訳ないことに聞きそびれてしまいまして……」
イレスにきかれた面接官は少し体を震わせた。
「あ、でももう一人の歴史を学ぶという入学理由は納得しました。 なんせ大倭帝国の歴史の半分は嘘を教えているので…」
状況が「まずい」と察したのか話をそらし、優香の解答の話をした。
「ふんっ、この国もだいぶやばいな。 テロ続きで…それにしても、この者たちは立ったさっきのテロ犯を二人で押さえたのだろう?」
華と優香の闘争はすでに報道されていたのでここにいる二人は事件を知っていた。
「ええ、まあそうですけど…」
面接官は、極度な現実主義だったので、『正直合格にしたくない』という気持ちが垣間見えていた。
「それで、このものの国連学校の受験自体はどうだ?」
面接内容が他と比べて壮大だったため話題がそれてしまったが、それではいけないとイレス先生は面接官に受験の合格かどうかを聞いた。
「基礎学力と体力、能力どれも高水準で、これなら合格にしても何も問題はないと思われます」
イレス先生に突然聞かれ慌てたのか面接官は不満そうだったが事実をイレス先生に述べて、合格という判断を出した。
「うむ、では合格な。 生徒はこいつらだけじゃないんだ。 早めにしないと後に響く」
「そうですね......次行きましょう」
華と優香は合格した。
「まさか…本当に受かるだなんて…」
合格の報が届いた仮設住居含めた多くの人が驚いた。
「まさかそんな絶対合格するって言ってたのに『マジか』みたいな顔しないでよ!?」
合格する気しかなかった…というよりしないと困る華は盛大に突っ込んだ。
しかしそれでもうれしかったのか華も優香も外で盛大にガッツポーズを決めていた。
「ところで二人とも、今から準備していかないと、明日に間に合わないって書いてあるわよ?」
「「え?」」
突然、華の母親がそんなことを言い出すので、二人はきょとんとなる。
「い、いいやいくらなんでも早くない? さすがにさー」
「で、でも書いてあるから……」
華が紙を確認すると『東京から遠いかたは前日で今すぐにでも出発することを推奨します。 今日の宿泊費はこちらで負担します』 と、まっとうな理由でばっちりと書いてあった。
「マ、マジスカ……」
びっくりしすぎてこんな反応になってしまったが、それならそうと二人に残っている時間は少なかった。
「い、いそごっか…」
驚きを通り越して頭が痛くなってきた華は命の危機とはまた違う意味で体を震わせてオロオロしながら動き出した。
「あははは! そんなことだろうと思ったから、私が準備しといたわよ?」
と華の母である加奈は教えた。
「ど、どうして教えてくれなかったの」
むっとした表情でにやにやする加奈に詰め寄る。
「面白かったから?」
よっぽど面白かったのか座っていたにもかかわらず肩が震えていた。
「ちなみに優香さんのもあるから」
「あ、ありがとうございます! 私の分まで……」
「ちょ、ちょっとー」
などと、家族との時間は過ぎていくのだった…
「よし、じゃあ行ってきまーす!」
華は母親に別れを告げて仮設住居を飛び出た。
「行ってらっしゃい!」
それを母親は見えなくなるまで見守った。
「お世話になりました~!」
優香はそんな風景を見て二人にお礼を伝えるのだった。
13時に出発した。
数時間後
「数日ぶりだねぇ……東京」
博多から数時間かけて、東京に新幹線で移動後、入試を行った会場とはまた別の…本物の国連学校への移動を行う。
近くでは多くの人が集まっていて、誰もが国連学校のことは気にしているようだった。
そこから数十分かけてバスに乗り、東京のど真ん中から少し離れた郊外へ移動した。
「こ、これが本物の学校!?」
生まれてからこれほどの巨大な構造物を見たことがない華は大きな歓声を上げた。
「(大きい……すごい!! これが国際連合の力なんだ!)」
気分が一気に高揚して思わずスキップをしだす。
「見た感じ西洋風かな? ここにあるのはすごい違和感だけど、それでもすごいよ」
「ははは……でもすごいよね」
しかし二人にはいまだに筋肉痛と疲労がたまっていたのですぐに落ち着きを取り戻した。
「あ! おーい! 生徒か? 生徒だな? 随分と遅かったけど!」
と、建物の方から声がかかる。
すると、赤い髪をしたいかにも『厳しいけど優しい先生』だとわかる人が出てきた。
「そ、そうです! はい!」
いきなり声をかけられてとても焦ったが、華は応えた。
「おそらく君達はかなり遅れてるけど、まあ今日は大丈夫! 私は
水落音瀬木(みらね せき)っていう名前で、この学校の先生だけど早速で悪いけど名前教えてくれる?」
『先生だけど』の部分でなぜか胸を張って自慢げに言っているような気もしたが、
「わ、私は清原華(はる)です」
「私は碇山優香です」
―—聞かれたから答えるしかなかったのである。
「あ、その名前何処かでぇっ! ってことは君たちは私の担任するクラスだね! やったね!」
「は、はぁ…」
妙にテンションが高い先生についていくことはできなかった。
「ついてきて。 私がこの学校を案内するから」
そうして、瀬木という先生に案内される華と優香だった。
その日の真夜中
「疲れた…」
二時間近くかけて案内してもらったが、すでに20時を回っておりさらに案内してもらった場所で風呂と食事を済ませ、優香はすでに華と同じ部屋に用意された布団を敷いて寝ている。
「zzz…」
「(そうだ…行く前に持ってきた日記表に日記を残すって決めてたんだったよね)」
これからの時間は大切になると考えていた華はドサドサっ! と荷物から取り出して書き始めた。
気になって部屋のドアを開けると、さきほどまで明るかった廊下の照明は消されていて、ほかの部屋はすでに就寝している様子だった。
「これでよし…寝よ」
といって優香の隣に入り込むと以外にもすぐに睡魔が包み込み、眠りにつくのだった。
4月10日
「うーん…眠たい」
「大丈夫? でもまあ早くいかないといけないし……」
昨日からずっと動きっぱなしで明らかに疲労がたまっているが、それでも今日は入学式があり、遅刻するわけにはいかない。
重い腰を上げて起き上がり、準備を進めた。
学生にはバッチがつけられ、大倭帝国の人である華と優香にはピンクのバッチがつけられた。
「うんうん。 早めに行けば食堂は空いてると思うし、いっちゃおう」
「わかった!」
と、華は部屋を出て案内され『遅れたら食べられなくなるから早くいけ』といわれた食堂に向け歩き出した。
道はまっすぐのはずなのだが華は疲労が本当にたまっていたのかなぜか壁のあちこちにぶつかってしまう。
「(あ、アレ? なんだろう…すごく視界がぼやけて)」
「…….」
優香も優香でどうしたのか下を向きながら歩いていたため華が壁にぶつかるまでは気が付かなかった。
「だ、大丈夫?」
「ど、どうだろ――あいたっ!」
「ぐっ!」
曲がり角で華が振り向いた瞬間にこっちにきていたのか曲がり角から人が出てきてぶつかってしまった。
「ああすみませんすみません! 前を見ていなくて…」
「あ、ああすまない。 私も少し考え事をしていて下を見ながら歩いていたものでな……」
華はすぐに謝ったが、すぐに許してもらえて安堵した。
華がまじまじと見ると、その女性はピンクの髪に黒い制服を着ていて、胸には褐色のバッチをつけている。
「あ! この人もしかしたらドイツ人かも」
「う、嘘!?」
「私はドイツ人だ…」
日本語に成れていないのか話すのが少し遅いがそれでも話せていた。
「なんていう名前ですか!? 日本語うまいですね!」
外国人に今まであったことのない華は興奮しながら聞いた。
「ちょ、ちょっと失礼だよ」
同じく初めてあった優香は気にしていた。
「大丈夫だ。 えっと名前はエルンスト ・マルティナだ」
優香の考えは杞憂だったのか以外にもあっさりと教えてもらえたのだった。
「ありがとうございます 私、華ってなまえです よろしくお願いします」
「はっはっは! これも何かの縁だ。よろしくな!」
「(気前がいい人だなー)」
これが華のマルティナに対するファーストの印象だった。
「もうすぐ入学式があるだろう? 入学式は早朝の10時から始まるんだ。 今からでも急いだほうがいい」
時間をかなり気にしているのか、マルティナは急ぐことを進めてくる。
「そうですねー。 じゃあ一緒に朝食どうですか? どうせ私たちは暇ですし」
優香はもともと興味のあった外人ということもあり声をかけた。
「…いいのか?」
少し驚いた表情をしながら真顔で見つめてくるマルティナ。
「問題ありません!」
華は即答ですぐに答えた。
「それじゃ、行きましょっか」
三人は食堂へと歩みを進めるのだった。
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