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第0章 4話 入試(または崩れ往く秩序)

 華は戒厳令が解除された二日後の4月7日、国連学校の入試実施日の早朝に気持ちよく目を覚ました。
 外はよく晴れており、町のシステムはすでに復旧していたが、駐屯部隊は依然として常駐していた。

「おはよう、華ちゃん。ついに今日だね」

「うん、おはよう」

 起きた華と優香は、家が爆破されたため仮設住居で暮らしていた。
 生活は以前ほど苦しくはなかったが、家を破壊されたショックはまだ抜けきっていなかった。
 能力主義に対する憎悪が心に芽生えそうになることもあった。

―—あいつらを憎むのは違うぞ。

 あるとき、祖国防衛隊の朝雲は華に教えてくれた。

 仮設住居内での勉強や、地域内を走り回る訓練の合間に、非番中の隊員から話を聞くことが多かった。

「え?」

一瞬、何を言われているのかわからなかった。

「あのテロリスト、能力主義者がなぜ動いているか知っているか?」

 考えたこともなかった。自分や他の数百人の命を奪った張本人たちのことなど。

「知らないです」

「まあ、中学生のガキは知らなくて当然か」

「ガ、ガキって、もう15歳ですよ!」

 ムッとした表情で華が言ったが、朝雲は無視して続けた。

「この世の中は、軍事国家といわれる列強国が支配している。
大ドイツ国、イタリア社会主義共和国、ソ連などがユーラシア大陸のほぼ全域を占めている。各国の首脳は民主主義化に向けて動いていたが、能力者の登場により治安が危ぶまれ、民主化は進まなかった。特にアフリカの植民地では独立運動が弾圧されている。」

 華や優香が住む大倭帝国は、もともとドイツの日本統治機構であり、現在でもドイツの属国的な位置にあるため主権回復には至っていない。

―—独立したいが、軍事力で制圧され準備すらできない。

 この状況で、能力主義という思想が生まれた。能力者の権利を向上させ、無能力者がそれを支援するというものだ。
 この思想は列強諸国では弾圧され禁止されたが、日本ではドイツの影響で禁止され、能力主義者によるテロが発生している。

「つまり、彼らが人々に危害を加えるのは、弾圧され続ける能力社会の訴えと日本の主権回復を訴える行動なんだ」

「へえ、難しいですね」

 まだ14歳の華には、この話は理解しづらかった。

「まあ、あっちにも考えがあるってことだ。この話は誰にも言うなよ?変な目で見られるからな」

「は、はい。」

 戒厳令が解除された後、朝雲は別の部隊に移動となり別れることになっってしまい、華はその時とても悲しんだ。


 6時に起床し、7時に出発、2時間かけて試験会場に到着した二人は、その壮大さに圧倒された。

「私、昔連れて行ってもらったことがあるけど、復興が進んでるね!」

 東京は、華と優香が住む場所のような仮設住居で溢れていたが、数十年の復興で大倭帝国で最も栄えた都市となっていた。
 ちなみに帝都は奈良県で、東京とは対照的な落ち着いた雰囲気の観光名所が多い。

「落ち着いて、私…」

 華は落ち着こうと自分に言い聞かせた。

「さぁ、早く行って、今日の17時まで入試があるから、お互い頑張ろう!きっとできる、きっとできる!」

 優香が励ました。

「うん。優香さんも頑張ってね」

 あの凄惨なテロ事件から数か月が経過し、担任の先生や優香以外の生徒とは再会できていないが、志望校に向けて努力してきた。

「多分大丈夫」

「なら大丈夫だね」

 華は微笑みながら指定の場所に移動した。


 基礎学力を問う試験は軍事目的もあり、実質中学生卒業程度の実力を持つ華は問題に答えられた。

「わかる…わかったよ!勉強していてよかった!」

 華は半分泣きそうになりながら思った。

 14時の昼休み。

「疲れたぁ」

第一次試験が完了し、15時からの面接まで休憩だった。

「華ちゃん、どうだった?」

 会場の屋上で涼しい風にあおられながらベンチに座り二人は話していた。

「結構うまくいったよ!いつも教えてくれた優香さんのおかげだね。ありがとう!」

 華は感謝を伝えた。

「えへへ」

 優香は微笑んだ。

「これなら面接も突破できるかもね。お互い頑張ろう!」

「優香さん、この入試は簡単だった?」

「うん、あんまり難しくなかったかな。基礎学力に関しては心配無用だった」

「嘘ぉ!私はわからないところもあったよ?」

「そう?」

「本当に頭がいいんだね」

華は感心した。

「あはは」

優香は苦笑しながらうなずいた。

 ちなみに少し前、固有能力を調べるということがあった。

 固有能力を知るのは偶然ということしか知らなかったが、華と優香が入学するころには技術の進展でわたるようになっていた。

 華は精神の高揚で、いついかなる時も物怖じずに冷静に行動できるようになるという特徴的な能力だった。
 しかしこの精神の高揚と彼女の計画的な性格、能力者になったことによる身体能力の向上はこの能力と相性が良いといわれた。

 優香は身体能力の超強化と最適な判断が自然に導かれるという能力。
 優香は『これでもうパニックになって華ちゃんに置いて行かれることがなくなる…!』
  といった。


 面接の時間が来た。

「あなた方がこの現状を目の当たりにしたわけですね?」

 面接官の質問に緊張した。

「はい。凄惨な状況を見て、国際的な協力を行いたいと思い、本校を志望しました。」

「君たちは国連軍事学校で何を学びたい?この学校に何を望んでいるんだ」

優香が答えた。

「広い世界で真実で客観的な歴史を学び、その場での判断に役立てたいです。それこそ、大倭帝国のような狭い世界ではなく広い世界から見た壮大な歴史を」

華も続いた。

「世界平和という理想に少しでも近づけるために、能力者と無能力者の共存を目指して――」

「本当に実現可能だと思っているのか?」

 この時華はとても動揺したが、すぐに落ち着きを取り戻した。

「もちろんです。実現に近づけ、国家や人を護るために、軍人として貢献したいです」

 華は考え抜いた先に答えを出して話す。

「なるほど」

 数分後、数回の質問に答えられた二人の緊迫の面接は終了した。


17時。

「どうだったんだろう?」

合格か不合格かの緊張に包まれながらも、結果は明日メールで届く。優香は今日の入試に釈然としない感じだった。

「面接は緊張したなぁ」

「華ちゃんの理想が実現すればいいね!」

「するさ!させるんだよ!絶対!」

「皮肉だったんだけど…」

「ひどーい」

ハイテンションな華だった。
 駅の前に到着し、これから電車で仮設住居に戻る。
次に東京に来るのは入学式の時だろう。二人は合格した時の想像に胸を膨らませながら道を進んだ

 17時半 駅前で、二人はアレを目撃してしまうのだった。

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