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【短編】真夏の午後のひまわり

ジリジリと音が聞こえるような暑さを感じる
庭に咲いているひまわりも心なしか、暑さに辟易して、うなだれているように見える
軒先に吊るした風鈴が、申し訳なさげに軽くチリンチリンと音を立てる
風鈴が鳴ったぐらいでは、涼しさを感じることは 難しい暑さが襲ってくる
こんな暑さでは、何もやる気が起きず、ただ、ただ時間が過ぎるのをやり過ごしてしまう
本当は、片付けないといけない仕事があるが、脳みそも、この暑さとともに溶けてしまったと感じるぐらい、やる気がでない
ただ、でくのぼうになったように部屋の畳の上に
転がっていた
時々、自分の体温で温まってしまった畳から逃れるために、少しでも 冷たく感じる畳の場所を探して横になったまま転がりながら、移動するぐらいだった
古い扇風機が、ガタついた音をたてて回る音が聞こえる
でも、そこから出てくるのは、ぬるい風だった
ないよりマシな程度だな
と、古い扇風機を横目で見ながら、そんな事を感じていた
そして、恨めしそうに壁のエアコンを見上げた
そう、このクソ暑い中、うちのエアコンが故障したのだ
しかも、修理を頼むと、この暑さでエアコンの売れ行きがいいようで、予約がいっぱいで、すぐには修理に来れないといわれてしまったのだ
申し訳なさそうな電話口の担当人の声を聴きながら
「本当についてない」
と思った
動いていないのに汗がジワジワと体から染み出してくる
庭のひまわりも更にうなだれてきたように見える
そんな時の止まったような真夏の午後を過ごしていた
もう、何かを考えることも面倒くさくなってくる
そんな時、不意に玄関のチャイムが鳴ったのが聞こえた
重い体をのっそり起こして、インターフォンごしに出てみると宅急便やさんだった
玄関を開けると、元気な配達員の声が飛び込んできた
配達員の暑そうな吐息を感じる
荷物を受け取ると、玄関をしめた
荷物は、昔の同級生からだった
段ボールを開けると、とてもみずみずしい美味しそうな桃が、きちんと整列して並んでいた
この美しく、美味しそうな桃の登場で、でくのぼうと化していた僕に少しだけ人間らしい感覚が 戻ってきた
僕は、この目にも美味しい桃を今すぐにでも食べたいと思った
そこで、急いで、桃を段ボールから取り出すと桃を冷蔵庫にしまった
バタンと冷蔵庫のドアをしめる
まだ、桃の産毛の感触が手に残っている
桃が、食べごろに冷えるまであと1時間
すっかり、やる気を取り戻した僕は、庭に出て ひまわりをはじめとする庭の草木に水をやった
そして、桃を食べる前にひと仕事してしまおうと
デスクに向かってパソコンを開いた
かちゃかちゃというキーボードを叩く音も心なしか楽しげに聞こえる
桃ひとつで簡単な性格だな
と、自分で自分をおかしく思った
軽く一仕事終えた後に、ほどよく冷えた桃を 冷蔵庫から取り出した
ひんやりとした桃の感触が伝わる
なんとも言えない幸福なひんやり感と重さだった
軽く水道の水で桃を洗うと、僕は縁側に出た
縁側に座りながら、桃の皮を剥き、そのまま桃に
かぶりついた
甘い桃の果汁が口一杯に広がる
やわらかい 桃の果肉が、口の中を冷やして行く
あっという間に桃をひとつたいらげた
そして、桃の果汁のついたベタベタとしたてのひらの感覚と夕暮れを告げるひぐらしの声が耳に 残っている
庭のひまわりも、さっき水をやったからなのか
少し日差しが優しくなったからか
少しだけ、シャッキリとしてきたように見えた

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