シェアハウス・ロック0421
世界
「世界」は、福澤諭吉が明治2年刊の『西洋事情』において、worldの訳語として用いたのを嚆矢とする。ウソウソ、口から出まかせです。でも、本当にそうだったとしても、それは単なるマグレ当たりだ。
世界は明治以降の言葉と思われるかもしれないが、実は江戸時代から使われている。私は、渡辺保さんの『東洲斎写楽』でそのことを知った。
話がちょっと横道にそれるが、あるキーワードが本のタイトルにあると、私は必ず読むようにしている。「写楽」も、そのキーワードのひとつである。
こういう本の読み方をしていると、いいことがひとつはある。それは、こういう読み方をしないとおそらく一生読まないだろう人の本を読むことになることだ。杉本章子さん、松井今朝子さんという素晴らしい書き手に巡りあったのも、「写楽」の縁である。
杉本さんは亡くなってしまったが、松井さんはご健在で、いまでも新作を発表されており、可能なら必ず目を通すことにしている。
杉本章子さんに関しての私の自慢は、『新東京大橋雨中図』を直木賞を取る前から、何人もの人に「これ読め」と勧めていたことである。
さて、
江戸の歌舞伎では、(中略)9月に座頭(ざがしら)と座元と狂言作者が集まって「世界定め」を行い、10月に新しい題名が書かれた看板を掲げるのが大きな年中行事だったのです。そのために狂言作者たちが代々秘蔵してきたのが『世界綱目』という覚え書きです。その中には100以上の「世界」とそれぞれの登場人物の役名、義太夫節の作品名、引書が書き込まれていました。(浅原恒男)
「世界」のおおどころは、たとえば、六歌仙、伊勢物語、太平記、将門記、平家物語、太閤記、お染久松といったものである。世界によって基本的な設定と登場人物がほぼ決まり、そこに新たな「趣向」を加えて、客を驚かせることになる。
たとえば、大南北の『東海道四谷怪談』は、忠臣蔵(実は太平記)の世界、怪談は趣向ということになる。まあ、趣向にもほどがあるけど。世界は、そのストーリーも登場人物もよく知られていることもあり、それがマイナスに働くこともあるかもしれないが、それが逆に働くこともあるはずである。
ハリウッド映画のアクションものなど、世界は完全に固定されてるもんなあ。それでも、「趣向」によっては面白くないこともないものもある。
次回は、今回の「積み残し」のようなお話をする。「積み残し」なんで、あまり実のある話にはならないと思うが、もともと当『シェアハウス・ロック』の暇ネタはどうでもいい話ばっかりなんで、まあ、いつも通りである。
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