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潔く悔しがる人を見た話

とある冬の日、車で信号待ちをしていたら、
横断歩道の信号が点滅をしだして、向こうの方から30代位の男性が
結構なスピードで駆けてきました。雪道で路面はツルツルだったので、
転んでしまうのでは?と心配になるくらいの勢いでした。

しかし男性の健闘むなしく、ギリギリ、本当にギリギリで
信号は赤になってしまいました。
男性は、ピタっと止まり、両ヒザに手を当て肩で息をしながら、
かなり、それはそれはかなり悔しそうな振る舞いをしていました。
声は聞こえませんでしたので、以下は想像です。
「くっそおー!あとちょっとだったのになぁ~!他に渡れそうなとこないかなぁ~。歩道橋とかねえかなぁ~!いやー雪道じゃなかったら絶対行けたわ今ー!!」
といった様子でした。

私の他にもその様子が目に入ったであろう車は多数いました。
そう、割と大多数の人の目にさらされながらも、
男性は、実に堂々と悔しがっていたのです。
私は思いました。
「何て潔い人なんだろう。」
と。

私ならどうするだろう。想像してみました。
まず、無意味なプライドが邪魔をして、
点滅信号に向かって走る事ができないでしょう。
それは、この男性のように間に合わなかった場合、
「あの人走ったのに間に合わなかったね、ママ。」
という、架空のファミリーの会話が聞こえてきそうだからです。

仮に走ったとして、ギリギリで赤になってしまったらどうするでしょう。
恐らくは、「私、そんなに急いでませんから。」と、
人生で1番か2番くらいのすまし顔で佇むでしょう。
一体誰のために?
車の中から見ているであろう架空のファミリーのためにです。

しかしそれは全て無駄な事。
人生は一度きりです。
どんな時も全速力で駆け抜けねばなりません。
全身全霊で駆け、全身全霊で悔しがる。
人の目なんて気にしない。
オレは渡りたいんだ、あの横断歩道を。
その先にはオレの人生があるんだから!
オレは諦めない、歩道がだめなら歩道橋があるじゃないか!!

人生の折り返しを迎えた自分が失いかけている何かを、
ほんの数分で教えてもらったような気がして、
明日も頑張ろうとアクセルを踏んだある冬の午後。

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