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「不動産投資」個人事業主としての節税

前回は「個人事業主」として不動産投資をする際に課税される以下4種類の税金についてお話をさせていただきました。

・所得税
・特別復興所得税
・個人事業税
・住民税

特に所得税については個人のサラリーマンの場合、給与所得から様々な控除を差し引いて「課税所得額金額」を求めることもお話させて頂きました。

ここでは不動産投資における「課税所得金額」についてお話させて頂きます。

個人で不動産投資をおこなう場合、

・給与所得から生じる「課税所得金額」
・不動産投資から生じる「課税所得金額」

の合計に対して課税されます(累進課税制度)

そして、不動産投資の税金を考える際には「収入」「所得」を別のものとして考える必要があり、税金は不動産収入から必要経費を差し引いた「所得」に対して課せられますので、これが不動産投資の「課税所得金額」となります。

・家賃収入-必要経費=「課税所得金額」

そして、不動産投資で税金を抑える為には「課税所得金額」を少なくする為、必要経費を多くすることが求められます。

不動産投資の必要経費とは何でしょう。種類は様々ですが代表的項目を下記に記載します。

【必要経費】
・固定資産税都市計画税
・管理費
・修繕費
・原状回復工事費
・減価償却費
・借入金の金利 等々

中でも
「固都税や都市計画税」
「借入がある場合は金利」

のように、毎年かかる必要経費の計上金額は簡単ですがこれとは別に・・・

「管理費…稼働中の家賃に対して発生」
「外壁/屋根塗装等の修繕…経過年数によって発生」
「原状回復工事費…退去によって発生」

のように、予想が難しい経費もあり、またそこまで高額な経費にもならないので、大幅な経費計上を期待するのは難しいです。

そこで登場するのが「減価償却費」です。

~減価償却について~

不動産は年数が経つごとに価値が下がると解釈され、下がった分の価値を経費として計上できるのが「減価償却費」です。

「現金支出のない経費」とも言われますが、「減価償却」の対象となるのは「建物」のみで「土地」ではありません。

その為、1億円の物件を・・・

・土地価格7,000万円/建物価格3,000万円、

で購入するよりも・・・

・土地価格3,000万円/建物価格7,000万円、

で購入したほうが減価償却費は多く計上できますので「税金を抑えられるかも」ということになります。

故に、投資家様は収益不動産の売買契約前に「建物」「土地」の案分交渉を希望されます。

投資家様にとっては建物の割合が大きければ「減価償却費」も多く計上でき、所得は赤字でも収支上は黒字という「形」を作ることができるからです。

【 例 】
・家賃収入: 700万円
・諸 経 費:△200万円
・借入返済:△400万円
・利  益: 100万円➡「収入」は黒字
・減価償却費:△1,000万円
・課税所得額:△900万円➡「所得」は赤字

また、建物価格を大きくしても減価償却の計上期間(いわゆる償却期間)が長ければ効果は薄く、償却期間が短いほど効果は高くなります。

どういうこと?ということで、まずは償却期間について見ていきましょう。
償却期間は建物の構造ごとに異なりこれを「法定耐用年数」と呼びます。

【法定耐用年数】
・鉄筋コンクリート造(RC造):法定耐用年数47年
・重量鉄骨造(S造):法定耐用年数34年
・軽量鉄骨造(S造):法定耐用年数27年
・木  造 (W造):法定耐用年数22年

よく住宅を検討する時に住宅展示場に行くとハウスメーカー営業マンから
「重量鉄骨造は耐用年数が長いから丈夫です」
「鉄筋コンクリート造はどの構造よりも法定耐用年数が長く国が丈夫さを認めています」
という営業トークをお聞きすることがあると思います。
営業マンの言いたいことは分かりますが、あくまでも法定耐用年数は減価償却を計算する為の数字であり、構造が強い、弱い、の「指標」ではありませんので法定耐用年数に惑わされないようご注意を!

さて、中古物件の償却期間の計算は以下のとおりです。

例)築後10年経過の木造物件の場合・・・
(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2
➡(22年-10年)+10年×0.2=14年
例)法定耐用年数を過ぎている場合・・・
・法定耐用年数×0.2
➡ 22年×0.2=4年 (小数点以下切捨)

となりますので、償却期間が長ければ効果は薄く、償却期間が短いほど効果は高くなる、というわけです。

~損益通算について~

冒頭で、個人で不動産投資をおこなう場合、給与所得から生じる「課税所得金額」と不動産投資から生じる「課税所得金額」の合計に対して課税されます、と申し上げました。
簡単に表すと・・・

(【給与所得の「課税所得金額」】+【不動産投資の「課税所得金額」】)×税率

となります。ということは・・・

(【給与所得「100万円」】+【不動産投資「△100万円」】)×税率

という計算式があてはまれば、税金はかかりません(ちょっと大袈裟)。

これが「損益通算」です。

不動産投資においては、不動産所得の赤字を自身の所得と相殺することが可能なのです。

例えば、年収2,000万円のサラリーマンが、
・価格10,000万円
・築25年
・建物価格4,000万円
・土地価格6,000万円

の一棟アパートを購入したとします。この場合の所得は以下のとおりです。

・家賃収入:700万円
・諸 経 費:△200万円
・借入返済:△400万円
・利  益:100万円➡収入は黒字
・減価償却:△1000万円
・課税所得額:△900万円➡所得は赤字

この会計上の赤字△900万円と年収2,000万円を損益通算すると、最終的に納める税金額は年収1,100万円(2,000万円-900万円)のサラリーマンと同等、ということになり節税効果が高まりますので、多くの高額年収サラリーマンは建物価格を高くできる物件を不動産会社さんへ依頼されます。

でも本当に減価償却を大きく計上することが節税に繋がるのでしょうか?

答えはNOです。

ここで、課税所得額から一旦離れて「不動産の譲渡所得税」について考えてみましょう。

~不動産の譲渡所得税~

譲渡所得税とは、購入した物件を売却した際に課せられる税金のことです。
計算方法は以下のとおりとなります。

【計算方法】
譲渡価格(売却価格) – (取得費+譲渡費用)=譲渡所得
譲渡所得×税率 =税金

税率は短期譲渡所得税39%と長期譲渡所得税20%に分かれ、保有期間5年目が分かれ目になります。

そして、この公式の中で一番重要な要素は「取得費」です。

なぜなら「取得費」が多ければ譲渡価格を圧迫できるので納める税金が低くなるからです。

「取得費」の内訳は以下のとおりです。

取得費=(A)+(B)+(C)
(A)土地取得費
(B)建物取得費 (建物取得費-減価償却累計)
(C)諸経費(売却時諸費用)

たとえば

・価格10,000万円の一棟アパート
・築25年
・建物価格4,000万円
・土地価格6,000万円

を購入し、購入時の諸費用が400万であった場合・・・

【取得費1】
(A:6,000万円)+(B:4,000万円)+(C:400万円)=10,400万円

となります。

よって、この物件を4年後に11,000万円で売却をした場合・・・

【譲渡所得税1】
譲渡価格(11,000万円) – (取得費10,400万円+譲渡費400万円)=譲渡所得(200万円)
譲渡所得(200万円)×短期譲渡税率39%=税金78万円(譲渡所得税)

となりますが、建物取得費は (建物取得費-減価償却累計)なので、仮に1年間の減価償却費が1,000万円で4年の減価償却費累計4,000万円であった場合、正しくは以下の計算式となります。

【取得費2】
(A:6,000万円)+(B:4,000万円-減価償却費:4,000万円)+(C:400万円)=6,400万円

よって、この物件を4年後に11,000万円で売却した場合・・・

【譲渡所得税2】
譲渡価格(11,000万円) – (取得費6,400万円+譲渡費400万円)=譲渡所得(4,200万円)
譲渡所得(4,200万円)×短期譲渡税率39%=税金1,638万円(譲渡所得税)

減価償却費を建物価格から4,000万円差し引くことで、譲渡所得税に約1,000万円以上の差異が発生しますので、取得費=(A)+(B)+(C)がいかに重要な要素なのかが分かりますね。

「減価償却をすることによって譲渡所得税が多く課せられることは分かったけど、損益通算の還付(利益)があるから問題ないのでは?」と思われた方、鋭いです。

そこで、年収2,000万円(税率40%)のサラリーマンが、毎年1,000万円損益通算をした場合のシミュレーションしてみました。

【還付金1】
損益通算1,000万円×40%=400万円(還付金)
400万円×4年=1,600万円(4年間の還付金合計)

損益通算で1,600万円の還付が受けられますが、譲渡所得税は△1,638万円なので、結果△です。

税率45%であれば1,800万円の還付なので譲渡所得税を上回りますが、そこまで大きな利益とは言い難いですよね。

でもここで朗報です。

今まで短期譲渡税率39%で計算していましたが、長期譲渡税率20%を狙い5年以上保有した場合・・・

【譲渡所得税税3】
譲渡価格(11,000万円) – (取得費6,400万円+400万円)=譲渡所得(4,200万円)
譲渡所得(4,200万円)×短期譲渡税率20%=840万円(譲渡所得税)

4年間の還付金合計:1,600万円-譲渡所得税:840万円=760万円のプラスとなります。

所得税率と譲渡所得税率のギャップを利用すれば損益通算の意義がある、と言われる所以はここにあります。

そうであれば「還付をもっと受ける為になるべく大きく建物価格を得よう」と考えますが、ここでも注意が必要です。

たとえば年収2,000万円(税率40%)のサラリーマンが・・・
・価格10,000万円
・築25年
・建物価格7,000万円
・土地価格3,000万円

で一棟アパートを購入し、

・購入時の諸費用が400万で4年後に11,000万円で売却した場合・・・

【取得費3】
取得費=(A:3,000万円)+(B:7,000万円-減価償却7,000万円)+(C:400万円)=3,400万円
【渡所得税4】
譲渡価格(11,000万円) – (取得費3,400万円+譲渡費400万円)=譲渡所得(7,200万円)
譲渡所得(7,200万円)×短期譲渡税率39%=税金2,808万円
【還付金2】
減価償却:1,750万円×40%=還付金700万円/年
700万円×4年=4年間の還付金合計2,800万円
【結果】
4年間の還付金合計:2,800万円-譲渡所得税:2,808万円=△8万円

ということで、建物価格を多く計上しても節税に繋がったとは言い難い数字です。

それでは、税率が45%で、長期譲渡税率20%であればどうでしょうか。

【譲渡所得税】
譲渡所得(7,200万円)×短期譲渡税率20%=税金1,440万円

【還付金】
減価償却1,750万円×45%=還付金787万円
787万円×4年=還付金合計3,150万円

【結果】
4年間の還付金合計:3,150万円-譲渡所得税:1,440万円=1,710万円の節税

この内容であれば損益通算の意義がありますよね。

ということで損益通算をするには

・1,000万円以上の所得の赤字を作ること
・所得税率が45%以上であること
・長期譲渡税率20%に切替わるタイミングで売却すること

が必要となり、それ以外の方が損益通算をしても節税には繋がらず、多額の譲渡税を支払うことになるのだけなので注意が必要です。

ここで誤解しないで欲しいことが1点、今までのお話はあくまでも「個人事業主」として不動産投資を行った際の税金についてです。

それでは「法人」で不動産投資を行った際の税金はどうなるのでしょうか?

それは次回にお話をさせていただきますので、本日はここまでです。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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