【文献レビュー】先進国の成人における自家製野菜の栽培・摂取と野菜摂取量との関連に関する系統的レビュー

著者:町田大輔、吉田亨
キーワード:系統的レビュー、自家製野菜、野菜摂取量、成人

要約
・目的:先進国の成人における自家製野菜の栽培・摂取と野菜摂取量との関係について、今までに行われてきた研究の動向を把握し、自家製野菜の栽培や摂取を促すことが野菜摂取量の増加に効果的であるかについての知見を得る。
・方法:データベースには、Pub Med、AGRICOLA、J-STAGEを使用。検索語は、「”vegetables”,”nutrution”」,「”home grouwn”,”gardening”,”community garden”」とした。検索された文献は566件あった。そのうち採択基準と一致した11件を採用した。
・結果:調査が行われていた国は、アメリカが8件、日本2件、イギリス1件であった。調査地域は、農村部4件、都市部5件であり、野菜栽培の場所としては、家庭菜園、コミュニティガーデン、貸し農園、空き地があった。野菜摂取量の評価方法は、食物摂取頻度調査が8件、食事記録法2件、野菜の入手機会の認識と食品摂取の多様性得点の組み合わせ1件であった。自家製野菜の栽培と野菜摂取量との関連を示した文献8件、自家製野菜の摂取と野菜摂取量との関連を示した文献3件であり、正の関連や有意な関連を示していたが、今回採択した文献は、横断研究と対照群のない介入研究のみであり、因果関係を明確にしたものは見当たらなかった。
・結論:自家製野菜の栽培及び摂取と野菜摂取量との間に正の関連があることが示唆されたものの、因果関係を明確にしたものはなかったため、今後、因果関係を明らかにする必要がある。

緒言
我が国の成人における1日の平均野菜摂取量は、目標を満たしていない。
・健康日本21(第二次)では、体重コントロール、循環器疾患及び2型糖尿病の一次予防、各種の癌の予防に効果的であるという観点から、野菜摂取量の増加を目標としている[1]。
→1日当たりの平均摂取目標量を350gとする。
・平成24年国民健康栄養調査では、1日当たりの平均野菜摂取量は286.5gにとどまっている[2]。
→野菜摂取量を増やすための戦略が必要である。

野菜摂取量を増やすための戦略として、自家製野菜の栽培や摂取を促すことの有効性を示唆する文献が複数ある。
・梅沢ら[3]:自家製野菜の摂取量と総野菜摂取量との正の相関関係を報告。
・Kamphuisら[4]:成人における果物及び野菜摂取量の環境的決定要因についての系統的レビューにおいて、菜園の所有[5]や自家製野菜の摂取[6]が、果物や野菜の摂取量と正の関連や有意な関連を示しているという文献を採択している。
・McCormackら[7]:コニュニティガーデンへの参加と野菜摂取量との関係について系統的レビューを行い、採択した4編の文献[8-11]全てにおいて、コニュニティガーデンhwの参加と野菜摂取量との正の関係を示している。
→自家製野菜の栽培や摂取が野菜摂取量と正の関連や有意な関連を示していることから、自家製野菜の栽培が多くの場合自家製野菜摂取量を増やし、その結果、野菜摂取量の増加に繋がることが推察される。

・菜園を拠点とした子供への栄養教育の効果についての系統的レビュー[12]
・開発途上国での農業的介入の栄養改善効果に関する系統的レビュー[13]
→我が国における成人の野菜摂取量を増やすための戦略として、自家製野菜の栽培や摂取を促すことが有効であるか否かを検討するためには、先進国の成人における自家製野菜の栽培や摂取と野菜摂取量との関連についての系統的レビューが必要であると考えられるが、そのような文献は見当たらない。

本研究では、先進国の成人における自家製野菜の栽培または摂取と野菜摂取量との関係について報告した文献を系統的にレビューすることにより、現在までに行われてきた研究の方法、結果、因果関係についての考察などについて把握し、自家製野菜の栽培または摂取を促すことが野菜摂取量の増加に効果的であるかについての知見を得ることを目的とする。

方法
文献の収集は、米国立医学図書館のPub Med、米国立農業図書館のAGRICOLA、独立行政法人科学技術振興機構のJ-STAGEの3つの文献データベースを用いて、平成26年11月13日に検索をおこなった。

文献採択基準
1) 先進国について報告されていること。
2) 対象に健康な成人を含むこと。
3) 野菜摂取量について量的に検討していること。
4) 自家製野菜の栽培または摂取について検討していること。
5) 査読のある学術雑誌に掲載された論文であること。
6) 1991年以降に発表されていること。
7) 英語または日本語で書かれていること

検索語
・事前に把握できた研究のMeSH Termsおよびキーワードを参考にした。
・研究のアウトカムに対応する語:”vegetables”,”nutrition”
・自家製や野菜栽培に対応する語:”home grown”,”gardening”,”community garden”
・日本語での検索語
・“野菜”,”栄養”,”自家製”,”菜園活動”,”市民農園”を使用した。

そのことから、検索された文献は延べ566件であった。
・Pub Med 125件
・AGRICOLA 229件
・J-STAGE 212件

・一次スクリーニング(表題及び抄録の精読)で採択基準に合わない文献を除外し、重複文献を除外した。
・2次スクリーニング(本文の精読)をかけた。
→採択基準と一致した11件を採択した。

結果
採択された11件の文献の概要を表1に、調査地域、自家製野菜の栽培場所、野菜摂取量の評価方法についてまとめたものを表2に示す。

調査が行われていた国
・アメリカ 8件[5.8.9.14.15.17.18.19]
・日本 2件[3.16]
・イギリス 1件[6]

調査地域
・農村部 4件[3.14.15.19]
・都市部 5件[5.8.9.16.17]

自家製野菜の栽培場所
・家庭菜園 [3.15.16.17]
・コミュニティガーデン[8.9.14.17]
・貸し農園[16]
・空き地[16]
なお、採択分研究の記載を整理し、農業を含めて家の庭や畑で野菜の足倍を行うものをまとめて家庭菜園とし、米国を中心に展開されている地域の緑化や食糧自給を目的とした庭づくり活動の場所をコミュニティガーデンとした。

Table 1 自家製野菜の栽培または摂取と野菜摂取量との関係についての研究

野菜摂取量の評価方法
・食物摂取頻度調査法 8件[5.8.9.14.15.17.18.19]
・そのうち、米国疾病予防管理センターが開発した健康関連行動の調査法である、Begavioral Risk Factor Surveillance System (BRFSS)の果物及び野菜の摂取頻度についての項目の利用が見受けられた。→4件[5.8.14.17]
・食事記録法 2件[3.6]野菜の入手機会の認識と食品摂取の多様性得点の組合せ1件[16]

関連性
・今回採択した自家製野菜の栽培と野菜摂取量との関連を示したもの 8件[5.8.9.14~18]
・自家製野菜の摂取と野菜摂取量の関係を示したもの 3件[3.6.19]
→正の関連や有意な関連が確認された。


Table2 調査地域・自家製野菜の栽培場所・野菜摂取量の評価方法

交絡因子
・年齢
・性別
・教育
・身体活動量
・社会参加
・収入 等が調整されていた。

因果関係についての考察は、有意つ介入研究を行っているCarneyら[15]の文献のみ、コミュニティガーデニングプロジェクトは、野菜摂取量を増やすことができたが、その他の10件は全て横断研究であったため、明確に因果関係があるとしたものは見当たらなかった。

考察
本研究では、先進国の成人における自家製野菜の栽培・摂取と野菜摂取量との関係についての文献を、系統的にレビューした結果、11件が採択され、全ての研究において自家製野菜の栽培または摂取と野菜摂取量との間に正の関連や有意な関連が確認された。調査は、都市部・農村部ともに行われており、野菜栽培の場所についても、コミュニティガーデン、家庭菜園、空き地、貸し農園と知った様々な栽培場所において調査が行われていた。
→地域や栽培の場所に関わらず、自家製野菜を栽培することや、自家製野菜の摂取頻度が高いことが野菜摂取量全体の多さに関連することが示唆された。

しかし、Kamphuisら[4]のレビューでは、地域のスーパーマーケットや食料品店の存在と野菜摂取量との間にも関係があることを示しており、その点に関して調整した者は、今回のレビューした文献の中には見当たらなかった。
→今後、野菜摂取に関わるその他の地理的要因についても考慮する必要性がある。

今後の課題
・調査が行われていた国は、アメリカが多く、日本は2件だけであったため、国内で更なる研究を行う必要がある。
・研究デザインについては、横断研究が多く、1件あった介入研究に関しても対照群を設けていない前後比較研究であったため、明確な因果関係を示したものはなかった。
→対象群を設定した介入研究を行う。
・単純な因果関係だけでなく、どのようなプロセスで自家製野菜の栽培または摂取が野菜摂取量を増やすのかを明らかにしていくことも重要である。

結論
本研究では、先進国の成人における自家製野菜の栽培・摂取と野菜摂取量との関係についての文献を、系統的にレビューした結果、11件が採択され、全ての研究において自家製野菜の栽培または摂取と野菜摂取量との間に正の関連や有意な関連が確認された。しかし、因果関係について明確にした研究がないことが明らかとなったため、今後は因果関係を明らかにしていく研究を進めていくことが必要である。

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