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雑談 発音の幅、綴りの揺れ インドネシア語の場合

 前回、日本語の発音の幅や綴り(というか発音と表記)の揺れについて、触れました。
 しかし、おしなべていえば、日本語は実際のところそんなに発音の幅は大きくないと思っています。
 たとえば、秋山(あきやま)を絶叫しながら発音して「あきゃーま!! 」に発音するような場合でさえも(そもそもまともな状態ではないですね(苦笑))、「あ・き・や・ま」という文字の並びは変わっていません(アルファベット表記ではA KI YA MA とA KYA A MA で変わっていますが)。

 インドネシア語はどうかというと、かなり幅があります。
 その要因が出身地方、いわゆる方言によるものなのか、単語の綴り(スペル)のせいなのかは様々に考えられますが。
 例を挙げます。
 「とうがらし」を意味するという単語は、インドネシア語で「チャベ」といいます。
 ところが、実際の発音を聞くと、「チャベッ」と撥音(小さなツで表記される撥ねる音)がついていたり、「チャバイ」と発音する人もいます。
 「チャベ」と「チャベッ」はまだ分かるとして、「チャバイ」はおかしいだろと思いますが、原因はその綴り(スペル)にあります(と断言していいのかな?)。
 唐辛子はcabai と書くのです。
 インドネシア語のai の綴りは「エ」と発音するのですが、いくつかの例外をのぞき、原則的にローマ字読みするという規則からするとai は「アイ」と発音するという意見もあります。
 ここではどちらが正しいかではなく(言葉に関しては、過去にどうであったかよりも、現在多数を占める意見が正しいとされることが多いですから)どちらも間違ってないのです。
 そのため、cabai は「チャベ」「チャベッ」そして「チャバイ」の読み方が混在しているのですが、今度はこの発音に引っ張られて、綴りが変化してしまいました。
 つまり、「チャベ」の読み方から綴りがcabe になり、「チャベッ」からcabek になり、元々のcabai もそのまま残っています。
 実際にスーパーマーケットのちらしや商品名、食堂のメニューなどでもcabe 、cabek 、cabai が混在しています。

 同様に「届く」「到着する」「(場所や時間に対して)~まで」を意味するサンペという単語も、本来の綴りはsampai ですが、cabai と同じく、サンペとサンパイという読み方と「sampai 」と「sanpe 」「sampek 」の綴りが混在しています。

 さらに地域特性によるものもあります。
 例として、ジャワ(ジャワ島東部)の人たちはb の発音が強く、他の地域の人たちがba くらいの普通のバの発音で済ますところを、小さくてもBA くらいに強く、そいて割にVA ヴァッくらいにとても強く発音する人も少なくありません。

 これらの発音の幅や綴りの揺れは、初学者にとって多少間違ってても会話が通じる(ことがある)というメリットにも思えますが、個人差が大きなことでもありますから、会話の障害となることもあります。
 綴りも、辞書によって掲載していたりしていなかったり(先ほどの例では、sampai 、cabai 、cabe はどの辞書も掲載していますが、他の綴りは辞書によるという感じでした)しますので、特に母語と学習している言語との間に1対1の関係があると嬉しい(学びやすい)時期に、どの綴りが正しいのだろうか?そもそもこの中に正しいものがあるのだろうか?とか、余計なことで悩んでしまったり、この辞書はいくつも綴りがあるから良い辞書、ないから悪い辞書などと変なレッテル張りをしてしまう危険性もあります。

 インドネシア語に限った話ではないでしょうが、言語を学ぶ上で、文法や単語練習などきっちりとした知識の枠組みをつくりながら、同時に実地での運用やこのくらいのいいかげんさでも(場面によっては)通じる、この場面では通じないという個々の状況に対して、やわらかに応変していく技術の双方をバランス良く身に付けていくことが重要なのでしょうね。

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