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予測不能にもほどがある 26 旧ユーゴ|イタリア編 (3 昭和的実録 海外ひとり旅日記

       



日記_028 生きているということ

 

   01-(2 / 02 / 03 / july  1978  「ドコデモ ドア」

01 / 晴れ  02 / 曇り  03 / 晴れ
Dubrovnik

pension 100Din×2


Dubrovnik この街は生きている。

観光地(旅の通過点のつもりで立ち寄ろうとした街であり、聞き知っていた訳ではない)という名声に胡座をかくでもなく、その遺産に寄り掛かるでもなく、そんなことに意を介しない人々の暮らしが普通に見える街というだけ。
比喩に例えられるような“中世が生きている”などと云う意味ではない)

Athensのgrass Barで"安い授業料"で見聞した感覚とは確かに違って、心が救われる。


観光地故とはいえ、道路の大理石は今竣工したかのように光輝いているし、建物の石壁も(14・15世紀頃造られた街か)くすんではいない。
モスグリーンに統一された観音開きのガラリ窓でさえも、ピカピカの街なのである。

屋根裏部屋の小さな明かり窓の鉢植えだったり、洗濯物を干すことですら美意識の内にコントロールされているかに思える人々の納得の暮らし方・そのココロまでも見せ付けられているようで、眩しいほどなのが、この街だ。


 コラム_51  暮らし|公共の分別


ギリシャのSyrosでもそうだった。

”黄昏につれ、ゾロゾロと村人が集まって、忽ち広場は一杯に・・・乳母車に子を乗せた人も、行きつ戻りつ何をするでもなく唯、黙々と広場を・・・”

” 広場 ” は一日の終わり、人々の暮らしをねぎらっている。


Dubrovnikはリーガルなルールではなく、暮らしの”しつらえ”の中で、それらの歴史遺産を光り輝かせる術を持っているかのようだ。

街の維持、屋根裏部屋の鉢植え、洗濯物の干し方・・・美意識の成せる業


はじめに自然があって、ヒトが割り込んで社会をつくったんだから、お返しもする、それを日常の暮らしの中に仕舞い込んでいく、それが共生

70年代は大阪万博「人類の進歩と調和」で明け、そしてオイルショックによるトイレットペーパー騒動・・・。

街角の木立にだって、活かし方|使い方はあるのだ。




即座に宿探しすることにした。
(ここを逃す理由は無い)

このOld Cityの城塞を出た北側はかなりな急傾斜地で、ジグザグな道がまるでシンボルのような、その坂の入り口に小さくペンションの道標を見つけ、大汗覚悟で登っていけば2つ程のジグザグを抜けたところに、ペンションはあった。

一般の家の空き部屋という感じだ。

窓の眼下にはOld Cityもアドリア海も手の内だ。(もう少し安く)とも思ったが即断で決めた。

(どう云う訳か日本の古い農家にありがちな、トイレが外部の不便さはあったが)


翌日は朝からOld CityのStradun(大通り)から60cmもあるかないかの路地から路地へ、城塞の見張り道ぐるり、階段から坂から、舐め回すように歩いた。

そんな完璧を期したような城塞の壁の石組みに綻んでいるのを見つけた。

人一人が這いつくばれば通れるような綻びから上半身乗り出してみたら、平たい岩盤の先に果てしなくアドリア海が・・・。

(ドコデモ ドア〜だぁ)

水着はバックパックに入れっぱなしだったので、誰も来ないのも見計らって素っ裸のままダイブ、透き通る冷たさと同時に海への畏れのような感覚が、キュンっと心臓を締め付ける・・・。


正面から照り付ける西日に、ペンションへの20分程のつま先上がりのジグザグは足を気だるくするが、今日の発見に些か心は踊る・・・。


朝から水着もランチも用意して、”俺の停泊地”へ直行、ダイブして心臓に命を吹き微睡まどろんでは深呼吸を空に、繰り返したのだ・・・。


寝転びながら、乳色の城壁が突き立っている先の青空を振り仰いでいたら、突然、射抜くものがあった。

うなじつ 寒雷のそのしろがねに 死におくれつつ 生きおくれたり

(えぇ なにっ!)

塚本邦雄の短歌であった。

(なんで、いま?(季語の話では無い))

こんな突き抜けるような満喫の時に・・・。


(イタリアに向かおう・・・今・・・すぐに・・・)


 コラム_52  うなじ搏つ
 寒雷のそのしろがねに
 死におくれつつ
 生きおくれたり



前触れもなかった。

こんな晴れ晴れとした有頂天の場で、短歌の「タ」の字も思い付きもしなかったのに、ましてや評論・思索など論外であった。

元々短歌に造詣があった訳でもなく、唯 言葉の煌めきのぶつかり合いには深い憧憬を感じていた。

この歌も意味の重さは別にして、リズムの折れ節に惹かれているのだろう。その意味では正に「歌」に魅せられていたことになる。


それにしても「何故、ここで」

ユーゴに入ってからDeçanの学生たちとのお互いやり残したような別れ(帰国後のNews「コソボ紛争」を知る。みんなの住所をひっくり返してみたら、やはり”Kosovë ”、慌てて手紙を書いてみたが、音信不通であった)から、追い立てられるように先を急いている焦燥感は何なのか。

トルコ・ギリシャで思いもよらぬ3ヶ月を過ごしてしまったことを悔やんででもいるのか。


察しはついている。

既に三十路を目前にし、社会を多少は齧ってはみたが、一向にその感触に実感は無く、”暖簾に腕押し”の思い。

今ここで体感する海の透き通る冷たさの方が余程、実体のように感ぜられる。
しかしこの実相も当然の如く、うつつとは成り得ない・・・

明るく透明な世界に身を置いた時、余りのその落差に唖然とし「生きおくれ」ている自分を重ね、焦燥となって急かしてしまうのか・・・。

一気にイタリアへ?


”まだわからんのかぁ。”



  03-(2 / 04 / july  絵も言われぬほどの”暗黒”

03 / 晴れ 04 / 曇りのち晴れ
Dubrovnik〜Trieste bus 17.5h. 306Din

(border inspection 3h)
time difference 1h delay


(寒雷ではなかったが、)確かにガッツーンと発作的な条件反射に追いたてられるように慌ただしくバスに乗り込んだものだから、旅先で逢ったアメリカ人の”Split〜Zadar間は絵も言われぬほど”の処との助言を思い出してはみたものの、既に後の祭り、バスは暗黒の中 通過では、如何ともし難かった。
(猛烈な後悔!)

Rijekaを抜け、休憩もそこそこにバスは朝靄の立つTriesteへの国境に近づいていた。

週明けのせいなのか、税関通過のための車の長い列。まるで日本のラッシュを思い起こす。

3時間待つ。

先にバスを降り、ガススタンドで顔を洗い、スーパーでビスケットとヨーグルトを買って、税関手前の路肩に座り込んで、待つ。

既に朝靄の明けた田園風景が清々しい。
ほとんどNo Checkで税関通過。


Triesteもそこそこに、列車でVenetiaへ。
訳知れず、 Itaria ! と叫びたくなるようなココロ持ちが湧いてくる。


だから財布も後ろポケットから前に位置替え。(要注意)

 


 コラム_53 ユーゴスラビア滞在集計報告


bus走行距離   1132.3 km
train 〃        222.7 km
ferry 〃         161.0 km
hitch 〃          91.5 km
総走行距離      1516.0 km
bus移動時間       28  h
train 〃          4  h
ferry 〃          5  h
総移動時間      129  h

交通費        941.0 Din
宿泊費        552.0 Din
交通|宿泊費/日      186.6 Din
(rate 12Yen/Din)    (2,240 Yen/日)

滞在日数         8.0 days

イタリアまでの通過国のつもりだからと云って、8日間滞在で平均190km/日移動は、やはり駆け足過ぎた。

また移動時間にしても、16時間以上/日 乗り物の中と云うことになる。
一日は変わらず、ユーゴでも24時間である。

比較はできないが、参考にギリシャ99km/日トルコ87km/日であった。


日記中にあるSplit〜Zadar間に限らず、帰国後宮崎駿のアニメで立て続けに紹介され自分も知ることになる、正に”絵も言われぬ”宝石のような場所場所を目前にしてすり抜けてしまったことは、返す返す後悔の念がたつ。

”何も無い(起こらない)旅なんて無い”のだろうから、時間(お金はどうにでもなるから)さえ許せば何でもTryしておくに限る。

南から一気に1,500km以上北上した分交通費も嵩んでいるが、やはり食事を除いても滞在費でもトルコ848円ギリシャ1,307円ユーゴ2,240円/日とかなり急ピッチにステップアップしている。

いよいよ欧州先進国を迎え、ビクビクの気分である。



全て帰国後のこととなるが、チトー大統領死去、旧ユーゴスラビア内紛〜コソボ紛争〜ユーゴスラビア解体と数奇な宿命を背負うこととなった国々とその人々と社会主義と云うものを少しだけでも実感させてくれたDeçanの学生たちの、見も知らぬ輩を暖かく受け入れてくれたことに、この場を借りて、深く敬意し、感謝したい。


 コラム_54  Yugo|Itary Map_3




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