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隣の鳥は青い30話

 「一年生のくせに、生意気ね。」
自然体感部の間で、支恩と理子が交際しているという噂がたった。
理子に優しくしたのは支恩の優しさであり、交際をしている事実はなかった。
理子自身も、そのことについて気にしていなかった。
むしろ、歩こう大会の時の美久子の態度に落ち込んでいた。
「沼口さん。」
明るい声で話かけてきたのは、夢だった。
夢は理子が屋上に行くのを、追いかけてきたのだ。
「一難去ってまた一難だね。」
植木が置かれている前に、長いベンチが設置されている。
そのベンチに理子が腰をかけていた、隣に夢がすわる。
「一難のなんは、男(なん)かもね。」
苦笑いをして、変なダジャレをいう理子。
「異性に興味がある年ごろだしね、私たち・・・」
遠くにある雲を見つめる夢。
「私は頭の発達が遅いから、わからないや。」
「え?そうなの?」
大きな目を更に大きくして、理子を見る夢。
「お父さんを見てると、男って酷い生き物って思っちゃって。」
「沼口さんの両親は学校でも有名だしね。虐待をかくさないで」
冬の寒い日に客が来ても裸足で外にたたせたり、家のかべに頭を打ちつかせたり、彰も沙知美も虐待を堂々としていた。
「私は大人になったら、普通に幸せになれるかな?」
涙目になりながら、理子が夢に尋ねた。
「きっとなれるよ、神様はちゃんと見てるんだから!」
大きな瞳を輝かせて、力説する夢。
「そうだと、いいなぁー」
頬杖をつき、遠い目をして、ため息をつく理子。
 授業が終わり、理子と夢は自然体感部へ向かう。
支恩が写真を雅盛にみせて、楽しそうに笑っている姿が見えた。
理子は支恩にたいして、あまり笑わない先輩ってイメージだったので意外だった。
更に雅盛から支恩の母は教育ママと聞いていたので、少なくても成績が良くない自分は関わってもいけない人だと考えていた。
ー私は何を考えているのだろう?ちょっとやさしくされたからって、きになってるの?わたし?
唇を噛み締めながら、支恩から目を離す。
理子の存在に支恩が気づく。
「あ、沼口、待っていたんだよ、この前の歩こう大会の写真が出来たんだ」
少年のような無垢な表情で、笑いかけてくる。
写真には、あのとき、自作のかかしを抱えてポーズをとってくれた中年女性が写っていた。
「あ、あの時のおばちゃん!」
思わず写真を見て、そう答えてしまう理子。
小麦色の肌、少し目立つそばかす、美人ではないが心のそこから笑っており、人間性がにじみ出る人物を写した写真だった。
「きれいに撮れているだろ?」
理子の話し方があまりにも幼さを感じ、額に冷や汗をかく支恩。
「沼口、お前は汚れてなくて、いいやつだな。」
今まで生きてきた中で、殆ど誉められたことがない理子は、凄く嬉しくなり照れ臭かった。
支恩は更に、揚羽蝶(あげはちょう)がチューリップの蜜を吸う写真を出した。
「あげるよ、大事にしてよ!」
そっと、手を伸ばし受けとる理子。
「ありがとうございます、家宝にします!」
と冗談を言い受けとると、
「あはははは~」
支恩をはじめ、周りの先輩たちも大笑いし始めた。
「そういえばさぁーこのところ、沼口ってさ、元気なかったじゃん?何かあったの?」
雅盛が聞いてくる。
「え?」
ー何いってるんだよ!あんたのせいでしょう?
と唇を尖らせて、眉間にシワをよせる理子。
「いじめるやつがいたら、俺に言うんだぞ!説教して根性叩き直してやるからな!!」
雅盛のセリフに、雅盛ファンが身を寄せあって怯えている。
「ど、堂川先輩、理子をいじめる人なんていませんって!!」
冷や汗をかきながら、美久子が話し出した。
「ん?米澤、沼口をいじめた奴をしってるのか?」
「え?私は知らないですけど」
目を泳がせて、あきらかにおかしい様子の美久子。
「だよなー」
雅盛の口元は笑っていたが、目は笑っていなかった。
「見つけたら、ボコボコにしてやる!」
捨て台詞を吐いて、雅盛は出ていった。
ブルブルと震えながら、理子の耳元で美久子が囁く。
「り、理子、ごめんなさい、私が悪かった、許してね」
途端に、呆れ顔になる理子。
ー都合がよすぎな気がするけど、いままでお世話になったし、親友だし仲直りするかな?
まさに、因果応報の出来事出会った。

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