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「星は微かに光り」 第9話

バイオレットグランプリ。〇〇たちが通うバイオレット魔法学園の魔法の大会である。
その決勝戦。出場者は、山下美月、久保史緒里、賀喜遥香、遠藤さくら、井上和、そして冨里〇〇の6人。
優勝は誰か。戦いの幕が、今あがった。

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レイ『空間魔法!展開!』

レイが宣言すると、たちまち辺りは光に包まれる。

全員がその眩しさに目を瞑り、目を開くと、そこには…。

〇〇「街…?」

レイ『先日申し上げた通り!決勝戦はバトルロワイヤル!この街の中からライバル達を探し!闘い!残った最後の1人が勝者です!』

久保「なるほど。全員が鬼であり逃走者のかくれんぼってわけね。」

レイ『ライバルと出くわした時、闘うもよし!闘わぬもよし!そもそも闘わず共倒れを狙って隠れるもよし!…盛り上がりには欠けますけどね…。
…ゴホン!とにかく!優勝のためには戦術が大事!選手の皆様には健闘を祈ります!』

山下「戦略…ねぇ。」

レイ『ではでは、出場者に他の選手の居所をネタバレしないために、ここから先の実況は選手達のフィールドからは遮断致します!では選手の皆さんはまた後ほど〜!』ブツッ

その声を最後に、音声は聞こえなくなった。

各々がスタート地点から、歩き出した。

狙うは、ライバルの撲滅と、優勝。



さくら「…《名刀・桜》。」

さくらが宣言すると、片手に刀が出現する。


《体育館(本日は大会観覧スペース)》

ここにはお馴染みの、桜、奈央、咲月。

奈央「何あれ!?刀!?」

咲月「なるほど…さくらさんは『魔法剣士』だったんだ…。」

奈央「まほうけんし…?」

咲月「刀や剣に魔力を流して戦う、剣士のような魔法使い。それが『魔法剣士』。」

奈央「ほえ〜…。」



〇〇「…《武装・紫電しでん。」

〇〇が宣言すると、〇〇の体には紫の鎧と剣が装備された。



桜「なるほど、〇〇はそういう作戦ね…。」

咲月「どういうこと?」

今度は咲月が尋ねる。

桜「『紫電』は防御力に長けた鎧なの。だから多分、不意打ちで襲いかかってこられた時、少しでもダメージを軽減する作戦なんだと思う。逆に言えば少し不意打ちにビビってるかも?笑」

咲月「なるほど…。」

奈央「お兄ちゃん、『あれ』から警戒心強くなったからね…。」

咲月「『あれ』?って何?」

桜「うーん、それは探らないで欲しいかも。〇〇の為にも。」

奈央「…です。」

咲月「そ、そっか…。」

少し気掛かりになりながらも、咲月はそれ以上は触れず画面に戻った。



一方、和サイド。

和「ここは…。」

和は街並みを抜けると、少し開けた場所に出た。

和「噴水広場…。」

周りを見渡すと、「*」のマークのように、自分の来た道の他に五つの道があった。

和「どうやらここがこのフィールドの中心みたいだね…一回も曲がらずに進むとここに出るんだ。」

その瞬間。

和「!」

和は何かを察知し突如飛び退く。

すると、先ほどまで和がいた地面が急激に冷気に見舞われ、パキパキと凍り付く。

和「氷…。ということは久保さん…!」

久保「ピンポーン。流石は今年の学年一番。やっぱり避けちゃうか〜。」

先ほどの五つの道のうちの一つが冷気に包まれており、その冷気の霧の向こうから史緒里が姿を見せた。

レイ『おーっと!ここで久保史緒里選手と井上和選手が接触!!本日初戦闘開始かー!?』

和は手に炎を付けて構える。

史緒里「ならこれはどうかな!?氷柱雨つららあめ!」

和の頭上に突如何本ものツララが出現し、和に降りかかる。

和はアクロバティックにそれらをかわし続け、最後の一本は火をまとった手で受け止め、そのままシュー…という音と共に火で溶かした。

史緒里「…ノーダメージ…。これは手強そう…。」

和「クラスSにお褒めいただけて光栄です。」

史緒里「目が笑ってないよ?」

和「戦闘中ですので。」

その瞬間、和が素早く飛び出し、史緒里の正面に。

和「《ヒートナックル》!!」

和は燃えた拳を史緒里に突き出す。

史緒里は氷の魔力を纏いながらそれをガードし、そのまま2人は静止する。

ぶつかり合う、炎と氷。

水蒸気が2人の間に発生する。

和「さすがっ…クラスS…!相性はいいはずなのにっ…いつまでも氷が突破できない…!」

史緒里「…私もそこまで余裕じゃないけどね…!ぐっ…!」

その時だった。

2人の足元、地中から勢いよく三角錐型の岩が大量に飛び出す。

それを事前に察知していた2人はその場所から飛び退き、岩が当たることはなかった。

美月「私も混ぜてよ〜。史緒里〜。和ちゃ〜ん。」

お気楽な声と共に現れたのは、美月だった。

レイ『あーっと!山下美月選手も現れた〜!』

和「クラスSが…!2人…!まさかいきなりこの2人を相手にする事になるなんて…。」

美月「んー…私達だけじゃないと思うよ?」

和「えっ?」

美月「だってクラスSが2人にクラスAの中でもトップクラスの和ちゃん、3人の魔力が一箇所に集中してるんだよ?ここに出場者が集中していますって言ってるようなもの。」

和「…!」

美月「余程のビビリじゃない限り…来るでしょうね。」

和「!」

その瞬間、和の後方から光線が飛んでくる。

和は咄嗟に避けるが、光線は腕を掠めた。

和「くっ…!」

遥香「ここにみんながいるとは思ったけど、まさか美月さんと久保さんのクラスSの2人が揃ってるとは思いませんでした。」

現れたのは、遥香。

和(今の魔法は…!)

遥香「和ちゃんは一年生だから見るのは初めてだね。私の魔法は『光』。全てを照らし討ち払う光。」

和(光…!)




桜「あれ…?」

奈央「ん?桜ちゃん、どうしたの?」

桜「いや…。」

咲月「桜も気づいた?」

桜「うん…。今の遥香先輩…───────」




史緒里「…全員揃ったね。」

和「えっ…!?」

カツン…カツン…

ザッ…

現れたのは、さくらと〇〇。

レイ『ななななんと!出場者6人全員が一か所に集結ー!これは衝撃の展開!まさかの六つ巴の対決だ~!』

遥香「はぁっ!」

最初に動いたのは遥香だった。

遥香は光をまとった拳で和に襲い掛かった。

和「ふっ!ぐっ!」

和は炎をまとった拳で応戦する。

そして和が後ろに飛び退くと、何故か遥香はその後を追ってこない。

その理由はすぐにわかった。

和の着地点にちょうど、〇〇が剣を振り下ろそうとしていた。

〇〇「雷轟剣撃らいごうけんげき!!」

何とか間一髪で避けた和。

そのさなか、和の後方からさくらが刀を構えて接近する。

さくら「桜流・時雨桜さくらりゅう・しぐれざくら》!

和「ぐあっ!!」

和はさくらの攻撃をもろに食らってしまう。

和(やっぱりおかしい…!)

ダメージを受けながら、和は考えていた。

和(さっきの遥香先輩の不意打ちからおかしいと思ってた…!ふつうあの場面の不意打ちなら私よりクラスSの二人のどっちかを狙ったほうがよかったはず…!そしてこの攻撃…!)


和は察した。


”私は今なぜか、ここにいる全員から一人狙いをされている”と。


レイ『どうしたことでしょう…!?何故か他の参加者全員が井上和選手を狙っています…!」

咲月「やっぱり…。でも何で?」

奈央「どうしちゃったの?お兄ちゃん…!」

桜「〇〇…!」


そして、その違和感は他の者たちも感じていた。

久保(どうしてだろう…?)

遥香(なんでかわからないけど…。)

さくら(和ちゃんを狙いたくて仕方がない…。)

美月(自然と攻撃や目線が和ちゃんに引き寄せられる…。)


ここは中庭。スマホで試合を見る、3人の生徒。


生徒A「なぁ、なんかおかしくねぇか?」

生徒B「あぁ…。」

生徒C「なんでみんな井上さんばっかり狙うんだろう…?」


ガシャン、ガシャン…。

ピピピッ…。

生徒A「えっ…?」




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そして現在の、闘技場。

ダメージを受けよろめいた和。

美月「《岩石柱》!」

美月が地面に手をつき、地中から石の柱を出現させる。

〇〇との戦闘同様、岩石とは思えないほど触手のようにウネウネと動くそれらが和に襲いかかる。

和「!…もうっ!」

和は咄嗟に飛び跳ね、石の柱のうちの一つに飛び乗る。

美月「あっ…!?」

石の柱を足場の一本にして残りの柱と戦うことになる和。

和は手から炎を出したり、炎の魔力を纏った拳で石の柱を砕いたりして対抗する。

そこに遥香が下から光の弾を周囲に発生させる。

遥香「《シャインスイーパー》!」

下から湧いてくる光の弾。

和「うっ…《フレアカーテン》!」

和は炎の膜を遥香に向かって放ち、遥香はそれに怯む。

遥香「くっ…!」

と同時に、待機していた他の光の弾の全てを焼き尽くした。



奈央「和ちゃんすごい、あんなに魔法を連発して一気に5人を相手にしてる…。」

桜「いや、でも…。」


和「ハァ…ハァッ…うっ。」


桜「魔力の消耗が激しすぎる。このままじゃ…。」


咲月「〇〇くん、みんな、どうしちゃったの…!」




今度は、石の柱を和の向かい側からさくらが走って向かってくる。

さくら「桜流・紅桜さくらりゅう・べにざくら!」

間一髪で避けた和だったが、逆に避けてしまったことで足場であった石の柱に桜の刀の攻撃が炸裂。

石の柱は綺麗に切断され、崩壊。

ついに和は石の柱から弾き落とされてしまう。

和「うああっ!?」

史緒里「《アイスサーベルタイガー》!」

和の落下地点に史緒里が氷を出現させ、それらが次第に形をとっていく。

それが形取ったのは、一体の大きなサーベルタイガーだった。

和「はっ…!《炎獅子》!」

和は空中で地面に向かって獅子を形どった炎を放つと、たちまち史緒里の氷のサーベルタイガーに衝突し、両者共に消滅する。

ダンッ!!

という音と共に和は氷と炎を撒き散らした地面に着地した。


だが、そこで一瞬の隙が生まれてしまったのがいけなかった。


背後から剣を構え接近する、〇〇。

〇〇「紫電一閃しでんいっせん。」

和「〇〇くん…!?しまっ…!?」



巻き起こる、稲妻と土煙。


徐々に、それが晴れていく。


完全に晴れた時、そこには、立ち尽くす〇〇達と、倒れ伏した和の姿があった。


〇〇「…何で…。」




「星は微かに光り」 第9話

続く。

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