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「どこか行かない?」急なお誘いだった。私は空耳かと思った。「どこかに行かないって聞いてるの」君はもう一度繰り返した。「え、えっと…」私はどう答えたらいいのかわからない。誰かに誘われたことはなかった。「いいよ!」と答えたらいいのか「また今度にできる?」と答えたらいいのかほかに答え方が存在するのかわからない。私は戸惑っていた。君にどう答えたらいいのかがわからない。どう答えるのが正解なのかがわからない。どう答えればいいのかがわからない。
戸惑っていると君は携帯を取り出した。まだ学校が始まっていないので携帯はギリセーフだ。「Lineを交換できる?」私は本能的に頷いた。

好感してしまった。私が初恋をした人、私が見上げていた人と。どんな顔をしたらいいのかわからない。だが、顔が熱い。それだけはわかる。
メッセージが来た。『それじゃあ明日の10時に弘公園ひろしこうえんで待ってるよ』私は頷いても首を振ってもいない。どうやら行くことになってしまったようだ。
その後では授業をまともに聞くことができなかった。

私は服を決めようと思ったが、どれがいいのかわからずに訊いた。姉に。姉は私と浜反対、どちらかというと私と君のど真ん中ほどだ。彼女はかわいいしメイクも細かい。成績はそこそこってところだ。いつも私よりは上で鼻を高くしている。鼻が伸びたらいいのにと思ったことだってある。
だが、彼女はどんな服にしたらいいかなどはめちゃくちゃ詳しい。私よりは100%詳しい。
彼女は私の話を聞いたとたんに燃え上がった。服はあーだこーだとうるさかった。顔も綺麗にしていけと言われ、彼女にすべてを任せた。
服も顔も髪型も靴もすべて。

10時ぴったり、私は弘公園ひろしこうえんへと行った。公園のどこかは言われていない。
なので探し回っていると君はベンチに座っていた。服も靴も今まで見たことないような普通さだ。私がみっともなく思えてくる。
その時思った。私はなぜ、今、ここまで感情を持っているのだろうか。今まででは恥ずかしく思ったことなどなかった。悲しく思ったこともうれしく思ったこともなかった。だが、君と一緒にいるだけで感情が湧き出てくる。
君は私のほうを見てきた。「あ」私は顔を隠した。今、どんな顔をしているのだろうか。真っ赤なのだろうか、それとも普通なのだろうか。
君が近寄ってくる音がした。私は顔を上げた。君はにっこりと笑ってきた。「来てくれたんだ。うれしいよ」君はにっこりと笑った。私もつられて薄く笑った。やはりだ。なぜ私は君といると笑ってしまうのだろうか。不思議だ。
「行こうか」私は君についていった。一瞬だけ手をつなぎたくなった。でもよした。変な顔をされたくはない。だが、そんな心は持たなくてよかった。君から握ってきたからだ。「ッ!?」私は足元から髪の毛のてっぺんまで震えあがった。君は気にしていないようだ。私はとても気にしていた。でも分かった。君の手は暖かい。優しさが伝わってくる。私にっとって君は英雄だったのかもしれない。
私たちは街中へと歩いて行った。
『私は…』
それで、どこ行く?
『幸せ』

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