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金曜日のアヒージョ

金曜日の夜、女は家でアヒージョと梅干し酎ハイを拵えようとした。夕方頃に来た華金のお誘いはすべてお断りだ。今週は特に疲れた。夜、街に繰り出す気力など残っていない。スーパーで買い物をして帰宅、重い荷物を下ろすと女の鎧も剥離した。

オリーブオイルの量にたいして、鍋に入れたマッシュルームの量はあからさまに多かった。
「君には逆算思考が足りていない。」
女はかつてどこかで、そう言われたことがある。
ふん、いつもこうなのだ。
不均衡な鍋の中身を無視して、蓋をした。梅干し酎ハイを作った。梅干しを入れたグラスに焼酎と炭酸水を適当に注ぎ、そこらに置いてあった箸で、梅干しをグリグリと潰しにかかった。そうして出来た自家製酎ハイを、勢いよく喉に流し込む。
逆算思考なんてクソ喰らえーーグラスの底にへばり付いた梅干しの皮を、懸命に飲み込もうとしたものだ。

「その幸せになれなそうな感じ、嫌いじゃない(笑)」
横向きに立て掛けていたiPhoneが僅かに震え、数ミリ動いた。知り合いの男からのラインだ。通知だけチラと確認し、女はアヒージョがぐつぐつと煮えているであろう鍋を呆けたように眺めていた。
幸せってなんなのよーー未だ嘗て、幸せを定義できたことなどない。

20時52分、鍋の中でオリーブオイルが弾けていた。其れらしき香りが漂う。バケットの代わりに、せめて低糖質のブランパンを焼こうと思った。さて、アヒージョはどうなっているだろうか?

静かに鍋蓋を外す。すると、そこにはオリーブオイルと具材がいい塩梅のアヒージョが出来上がっていた。
なんだ、結果オーライじゃない。
不意に酔いが回ってきた。炭酸で割ったとはいえ、焼酎をハイピッチで入れてしまったのかもしれない。

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