宮崎大祐監督の映画『VIDEOPHOBIA』を観た

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先日発表された神奈川・大和を舞台しにしたオムニバス映画の製作、そのうち宮崎大祐監督が手がけた『エリちゃんとクミちゃんの長くて平凡な一日』は、監督いわく“ドゥームメタルバンドのふたりが暇をもてあまして街外れにある森にタイムカプセルを埋め行く映画“とのことで、これをキッカケに実はず~~~っと観たかった同監督による2019年公開の映画『VIDEOPHOBIA』をアマプラでレンタルして観た。

あらすじとしては、「大阪・鶴橋を舞台にリベンジポルノの被害に遭った在日韓国人女性の悲劇を描く」・・・そんな感じの和製ホラー映画で、とりあえず冒頭のシーンから自分の自慰行為をネット配信するアルバイトで小銭を稼いでいる主人公の青山愛(アイ)が通うワークショップの演劇監督が小島秀夫そっくりで笑ったのと、あの映画『リリイ・シュシュのすべて』のイジメっ子役でお馴染みの忍成修吾がリベンジポルノの加害者役で登場してビビった。

また、劇伴にDJ BAKUを起用している事からもわかるように、ヒップホップの影響下にある音楽(それこそリベンジポルノが発覚したアイの不安定な精神失調と同調するような低音の響かせ方はドゥームメタル的w)がサイコスリラーな物語の内容とモノクロの映像演出との相乗効果を促し、俄然ホラー映画としての恐怖を助長させる。特にクラブのシーンをヘッドホンアンプにベースブーストして聴くと重低音がバッキバキにキマる、ある種の音楽映画としての側面を持った作品でもある。

中盤以降は、問題となったリベンジポルノすらもアイの被害妄想である可能性を示すシーンが次々に現れ、もはや白昼夢か現実かもわからない「曖昧さ」を帯びたシーンの数々に酔いしれ、平成最後の真夏の暑さの中を彷徨うかの如し意識が朦朧としてくる。その非現実的な世界にトリップしたことを暗示する象徴的なシーンが、サヘル・ローズが会長役を務める「リベンジポルノの被害者の会」のような謎の集会にアイは参加するも、辻褄が合わない不自然な会話や場の異様な雰囲気に飲み込まれる。そして、アイがとあることを決断する終盤からラストシーンのワンカットまで、本格ホラーとしての緊張感とインディーズ映画らしい良い意味でのB級映画っぽさが噛み合った和製ホラーの傑作です。

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こっからが本題(ネタバレあり)。この映画にちょっとした自己解釈を述べるとするなら、顔パック状態でタバコを吹かすシーンを切り取ったパンチのあるポスター等のビジュアル面からは、スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督の映画『私が、生きる肌』を脳裏に思い起こさせた。実は、この『私が、生きる肌』も事件の加害者である男性が性転換手術によって(強制的に女性へ、しかも被害者の母親の姿に)性別を変えられて別人になる映画なんだけど、この『VIDEOPHOBIA』もリベンジポルノの被害に遭った青山愛が整形手術によって別人の木下悠として最終的に平穏な暮らしを取り戻す物語という点では似ている。もっとも面白いのは、アイの整形手術を担当した闇医者を演じたのが、それこそ『私が、生きる肌』のように実際に性転換手術(自主的)によって男性から女性へと性別を変えた「松原タニシのおちゅーんLIVE!」でもお馴染みのラミーちゃんってのが、わりとこの映画における一番のキモになっている気がしないでもなくて、その配役の妙じゃないけど起用されている役者の裏側を知ってなきゃ理解できない、実に奥深いホラー映画であると。

また、大阪出身の在日韓国人という設定、つまり”パク”という名前と”青山愛”という2つの名前も、“着ぐるみ”のアルバイトも、全て序盤の演劇監督のコジマ監督が言った「普段の自分と逆を演じてみる」というメッタメタなセリフの伏線回収をそれぞれのシーンで回収していくメタ的な構造が複雑に絡み合っている。一体どのシーンのアイが「本物のアイ」なのか?あるいは整形して別人となった木下悠こそ「真実のアイ」なのかもしれない。自分を別人と他人と偽って生きる(=偽証)、つまり「嘘」と「真実」が入り乱れる「曖昧」なポスト・トゥルース時代を象徴するかのような映画なんですね。こう書くと一見、小難しい映画のように聞こえるけど、実は思いのほかシンプルな伏線回収で成り立っている映画でもあって、とにかく邦画としては久々に「この映画ちょっと凄い」と思った。

しっかし、ラミーちゃんは元より、恐らく終盤のシーンで声だけ出演してる某オカルトコレクターも偶然その存在を知ってて良かったわ。あと「XXXvideos」のくだりは笑った(笑いとホラーは紙一重w)。というか、男性ならわかるであろう紙芝居サムネで自分のリベンジポルノに気づくシーンとか結構細かい描写だと思うw

なんだろう、モノクロの映像や音楽などの分かりやすい演出は元より、序盤に登場する劇団の柔軟体操のシーンが醸し出すカルト宗教臭さだったり、サヘル・ローズが出てくる集会シーンの胡散臭さだったり、極めつけにDeftones『Diamond Eyes』のジャケみたいな白梟をサブリミナルで挟んでくるのも、とことんアイコニックな作品だなぁと。とにかく、宮崎監督の過去作をこのお盆中に漁ってみたくなるくらいには面白くて刺激的な映画なので、少なくとも和製ホラーが好きならまず観て損はないです。そしてオムニバス映画の『エリちゃんとクミちゃんの長くて平凡な一日』も俄然楽しみに待ちたい。

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