「日本会議」と「旧統一教会」の不可解な関係の解明なしに国葬儀はありえないのだ。

suzuki joji  

来週 27日は安倍元総理の国葬儀がある。国民の賛否両論がわかれる中での強硬策。果たして国民は納得しているのだろうか。そして政治と統一教会の問題も、どこどこの議員が協会の集会に参加した、だの、誰々が怪しい、というワイドショー的枝葉の論議より、もう一度問題の根幹を整理し、暗殺事件に端を発した安倍元首相と統一教会の深い関係を掘り下げ、安倍元首相が国葬儀に値するか、どうかを再考する必要があるではないだろうか。
 
1996年の夏ごろ、私はベトナムのホーチミン郊外にあるクーロン地区にある自動車会社「メコン・コーポレーション」を取材したことがある。殺風景な土地に真新しい工場がそびえてっているが人の出入りもなく異様な静けさの工場だった。工場正門前にある畑にはなぜか、場に合わない乞食がずっと座っていたのを鮮明に覚えている。
この「メコン・コーポレーション」はベトナム国産第一号の自動車工場を謳って注目を浴びたが、その実態は100%統一教会系企業とベトナム人民政府の合弁企業だ。まだアメリカの経済制裁が続く中、日本にある「Sマシナリー」と統一グルプの韓国「セヨン・インターナショナル」で70%、共産党人民政府系企業30%の出資で1991年に設立。そしてこの合弁を裏で仕切ったのが、ベトナム共産党中央委員の「C重工業相」だ。3年後に月5000台を目指す、と世界日報にも大きく掲載されていたが、いざ、取材すると中の工場はガランとしていて生産計画もずさんな絵空事だったのを覚えている。恐らく、この合弁事業にも多額の資金が日本から流れていったのだろう。決定的な裏どりはできなかったが、人民政府との賄賂や癒着も想像に難くない。数年後には政府側出資企業もメコン側との金銭的トラブルで撤退した。後で関係者から聞いたところによると、人民政府政権内でも内部利権で色々対立があったようだ。恐らくあの乞食も内務省等から派遣された工作員だった可能性が高い。
これは、協会が前回の記者会見で断言する「共産主義と明確に対峙する」という言葉の嘘をはっきりと示す事実だ。国際勝共連合のHPにもいまだ共産主義と闘う勇ましいスローガンが並んでいる。が、ベトナムだけじゃない。同様に北朝鮮にも統一系企業「金剛山国際G」が合弁の自動車会社「平和自動車」を1998年北朝鮮に設立している。そして裏では大金をバラまき金大中の太陽政策を側面から支援していた。これも、政治思想的な思惑は皆無で、単に南北融和で生まれる新たなビジネスチャンスを狙ったに過ぎない。
彼らはソビエト崩壊などで新たな共産主義と闘いの戦略変更をした、などと詭弁を呈しているが、共産主義と正面から闘う「国際勝共連合」の主義主張との整合性はまったく存在しない。 そして、ニッチマーケットともいえる新興共産国への自動車産業への進出に頓挫すると、統一グループは2012年にさっさと自動車業界に見切りをつけて、食品流通業などへと乗り換えたのだ。これが成功して韓国やアメリカでの鮮魚関係などの食品卸売り業で急成長、いまは旅行業なども含め業務も多角化している。それらの資金も日本での霊感商法などの集金システムが大きく貢献していることは間違いない。「共産主義との対峙」などという政治思想はまさに茶番の人間の尊い宗教心を利用した世界的新興宗教ビジネス組織なのだ。
 
その勝共連合=統一教会を日本に招き入れたのは、共産主義と闘う反共団体として賛同したとされる安倍元首相の祖父岸信介。佐川良一や児玉誉士夫らともに、当時の韓国大統領・朴 正煕やKCIA(韓国中央情報局)の依頼を受け、旧統一教会の始祖・文鮮明と「勝共連合」の設立を進めた。ここから根深い統一教会と日本政界との関係が深まっていくのはもうすでに誰もが知ってることだろう。その後、統一教会と自民党を中心とした宰相クラスを含めた多くの政治家たちとの相互関係は、ただの集票機能や選挙協力にとどまらない。
日本の政界に深く入り込んで行った彼らは、日本の外交戦略にも影で影響を与えるまでに力を蓄えていった。安倍元首相のトランプ大統領との会談をコーディネートしたのも統一教会関係者だと指摘されている。
そして安倍元首相は統一教会とは別の宗教団体とも密接に関係してきた。それは「神道政治連盟」だ。神社庁を本部とするこの政治団体は、偶然にも岸信介が1968年に「国際勝共連合」を立ち上げた翌年の1969年に旗揚げした。
天皇の権限強化や憲法改正、神道を軸にした道徳教育などを目標に掲げているが、なんと2016年第三次安倍内閣の閣僚20人中19人がこの団体と関係があり、さらに、そのうちの14人が安倍元首位が特別顧問をしている2017年設立の超国家主義政治団体「日本会議」のメンバーだった。「日本会議」は「神道政治連盟」をより活動的に組織された日本最大の右派団体だ。
これには安倍元首相の政治思想がはっきりと表れている。「日本会議」は憲法改正や教育改革、国防など彼の主張とまさに重なっている。皇族観や従軍慰安婦問題などの歴史認識も、ほぼ同じだ。賛否両論は別として、はっきりとした政治家としての国家観が存在している。
しかし、その「日本会議」にも統一教会幹部や関係者が多く参加して共に活動していることはあまり一般には知られていない。日本会議のメンバーも認めているが、実は「日本会議」と統一教会は2010年前後から接近し、今では蜜月関係だ、と言われているのだ。
この二つの団体は「反共」や「反ジェンダーフリー」など部分的には、主張が一致するが、根本思想のところで全く相いれない。
先述した「反共思想」というのは単なる宗教ビジネスのカモフラージュ、というのはさておき、統一教会は韓国至上主義で最終目標は韓国が世界の平和をコントロールし、韓国語が世界基準になることを目指す、と文鮮明は教義で教えている。これは84年の元世界日報編集長の内部告発でも明らかになった事実だ。さらに従軍慰安婦問題などの歴史認識も当然、日本の戦争責任を軸に語られ、皇室観も文鮮明を日本の天皇より上位に位置付ける、というものだ。この告発があった当時、それまで反共などで協力関係にあった日本の民族派右翼などが、怒って統一教会本部に押し入る、というような事件もあった。
つまり「日本会議」や「神道政治連盟」と「旧統一教会」はまったく思想的には相いれるわけがない。宗教を母体とした政治団体でキリスト教系と仏教系などが一緒に一部の社会活動をすることはあるが、日本会議のように超国家主義、超右翼的な主義・主張をもって活動する組織が、根幹ともいえる歴史認識や国家観が真逆の組織と安倍元首相を特別顧問としてともに活動する、というのは学識者や文化人、良識ある言論人、そして一般国民には全く理解不能といえるだろう。
思想信条や宗教の自由は当然守られるが、キリスト教と仏教を両方信じています、と公言する人間はその人格を疑われるだろう。それが公人、一国の宰相となれば、なおさらのことだ。
霊感商法という詐欺まがいの献金問題を抱える宗教団体と関係した、という事だけではなく、一国の首相として、様々な政治理念を主張し活動してきた安倍元首相が支えた「日本会議」と「統一教会」の不可解な関係は一体、なんだったのか。思想性のない単純に宗教を集票利用しただけだったのか? 自民党総裁としてどのように政権運営や選挙に影響していたのか、安倍元首相の歴史認識や皇室観の真意はどこにあったのか。
その明白な答えを、岸田総理はじめ自民党執行部は全国民に示す義務があるのだ。それがはっきり示されない中での国葬儀では、志半ばで凶弾に倒れた安倍晋三元総理も浮かばれないのではないだろうか。

 ジョージ      joji@kkinternet.co.jp
ジャズSAX奏者でジャーナリスト・作家。「中国製品の闇」(集英社新書)「猛毒大国・中国を行く」(新潮社新書)「アジア黄金郷の旅」(徳間書店)など著者多数。定期的に都内を中心にジャズライブも開催。Twitter:@joji6181

https://youtu.be/IC_nBixQnPw


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