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ウクライナ戦争の責任は誰にある? (1)

ー[戦争とメディアの嘘]を見破れない悲しい現実ー

 先日、某キー局の番組で政治学者の姜尚中がウクライナ問題でとても重要な事に触れて発言した。いま注目されてるブチャなどのロシア軍による虐殺行為に関してだ。その番組では、日本や欧米のメディアが声を大にして「ロシアの残虐行為はICC・国際刑事裁判所に訴え捜査すべきだ。そしてプーチン大統領を訴追する必要がある。ロシアはICCに加盟していないから国外に出ない限り逮捕できないが、犯罪者として有罪判決を下すことに意義がある」と訴えていたことを取り上げていた。
 いうまでもないが国際ルールを破ってウクライナに進行したロシアの罪は大きい。これを犯罪行為と非難されるのは当然だ。それを前提とした話として、コメンテータとして席にいた姜氏は「しかし、ロシアだけがICCに非加盟なのではなく、実はアメリカも中国もインドも加盟していない。ウクライナも非加盟だ。主要国がICCに加盟していない社会、世界がなぜそうなるか、という事を考える事が大事なのだ」というを発言した。まさに正論で的を得た発言だった。しかし、一瞬司会のS氏は沈黙しその発言を受けて展開するのをためらった。すると間髪を入れず隣の席にいた某大手A新聞系のA誌元編集長H女史が声を一段と上げて「ロシアの虐殺行為、戦争犯罪行為は許されるべきではない。徹底してICCが捜査、検証すべきだ」というような趣旨で話の流れを元に戻していった。当然、司会のS氏はそれを受けウクライナでの残虐行為やプーチンの戦争犯罪の話題につなげていった。
 姜氏の発言は見事にその後、誰も取り上げる事無くかき消され、当の姜氏はその後も沈黙しまるで茶番劇が終わる前に席を立つ観客のようなそぶりで、早々に席を立って行った。 これがまさにいまの日本のウクライナ報道の現実を明確に示す、氷山の一角のワンシーンだろう。
 報道部であろうが情報制作部であろうが、放送法に守られたメディアとして国民に正しい情報を伝える機関として最低限守らないければならない義務がある。しかし、戦争という国家間の非常事態においては世界の歴史が示すようにほとんどのメディアが国家、その時の為政者の為に国民を欺いた情報操作に多かれ少なかれ加担しているのだ。
 他の新聞やTVなどのメディアもブチャの虐殺を機にこのICC・国際裁判所にプーチンを訴追する件を取り上げている。ウクライナにICCの検察官も入って戦争犯罪の捜査が開始されているからだ。
 しかし、2020年、トランプ政権時に米軍がアフガニスタンで行った戦争犯罪への捜査にICC・国際刑事裁判所が着手した時、当時のポンペイオ長官やボルトン補佐官が「ICCは米国の主権を侵害している。こんないい加減な裁判で脅されることはない。法的機関を装った政治機関による信じがたい行為。我々は米兵を守る」と公然とICCを批判した。当時のバー司法長官も「ロシアのような外国勢力がICCを操り自国の利益を追求している」と何ら根拠や証拠を示さず公のメディアで批判を繰り返した。
 トランプ大統領も怒りを露わにし、ついに捜査しているICC職員への米国内の資産凍結、入国禁止という制裁を科す大統領令に署名した。
 これはわずか、2年前の事実である。もちろんこの大統領令はバイデン政権にも引き継がれ、アメリカは依然としてICCには未加盟だ。しかも、もし米兵などが戦争犯罪でICCによって裁かれICCハーグ本部の裁判所に拘束された場合は米軍特殊部隊が自動的に救出任務に出動する法律もあるという。
 けっしてプーチン大統領を擁護するつもりは毛頭ない。ブチャの惨劇を否定する訳でもない。しかし、ブチャ惨殺は、ロシア軍がやった、いや、ウクライナ側のフェイクだ、教会へのミサイルはロシア軍が撃ち込んだ、いやウクライナ側の自作自演だ、などという不毛なネット上の論戦とは異なり、ICCに対するアメリカという国家の考え方や政治的主張は公然とした明白な事実なのだ。ICCがロシアに操られてるいい加減な機関なら、ウクライナを支援するアメリカは、本来そんなICCの検察官がウクライナに入るのを阻止して声を大にして批判すべきだろう。
 それをなぜ日本や西側メディアは事実に基づいて正確に報じないのか。わずか数年前の事実を基に検証しようともしないのか。ICC・国家刑事裁判所の存在意義とはなんなのか。アフリカなどの小国の独裁者や戦争犯罪者を裁きながら軍事大国のアメリカ、ロシアやインド、中国などが加盟しない捻じれた世界の「正義」への構造を真摯に考える事をなぜICC加盟国の日本のメディアは見て見ぬふりをするのか。まさにこれが意図的な演出によって民意を動かそうとする「メディアの嘘」なのだ。

 テレビ離れ、新聞離れが進む中、某リサーチによるとマスメディアへの信頼度が、アメリカやフランスの国民の20%~30%程度なのに比べ日本はいまだ60%を超えている。「テレビなんか見ない」という人たちでも、テレビや新聞発の情報をネット経由で受けて自分の判断基準にしている場合が多いのだ。以前からメディアリテラシーの必要性が指摘されながらもなかなか進まない日本だが、もはその対象はすでにテレビなどのマスメディアだけではなく、ネットリテラシーの必要性へと進化している。
 日本のメディアは収益性などの産業構造としての衰退だけではなく、それに伴った情報やコンテンツの「質」としてのメディアの衰退を今回のウクライナ戦争報道は如実に示しているといえる。なぜなら多少なりともベトナム、イラク、アフガンなどとと戦争とメディアの嘘に疑義をとなえる知識人の反証をいくつかのメディアは確実に伝えていたからだ。しかし、今回のウクライナ戦争関連はそれが皆無と言っていいだろう。
 その嘘やメディアの劣化をいまだ見破れない視聴者やなんら「正義と悪」という単純構造に疑問を持たずSNSなどで発信しカタルシスを感じてしまう人たちを拡大再生産しつづけている悲しい現実こそ、歴史上繰り返されてきた数々の戦争、そして、このウクライナ戦争を陰で支える諸悪の根源のひとつなのだ。













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