見出し画像

オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第17回 持続可能な農薬管理(その3)~オーストラリアでの最先端の減農薬農法~

オーストラリアの減農薬農法の背景

「農薬その1」でも一部説明しましたが、オーストラリアでは、農薬散布量を減らすための先進的な研究開発が盛んで、施設作物に限らず露地作物でもデータを活用した減農薬栽培が促進されています。生産者は、①環境保護、②輸出で求められる残留農薬の基準値をクリア、③農薬を散布するための人件費・農薬コスト削減の目的で、減農薬栽培を可能にしています。

ウェザーステーションの導入

露地作物用のウェザーステーションは、風向・風速・温度・湿度・日射・雨量・土壌水分量などを測定し、データを蓄積します。これにより、最適な栽培環境を事前に整え、病害虫から作物を守ることで減農薬栽培が可能となります。

露地作物用のウェザーステーション

施設栽培でのデータサイエンスの活用

年間を通じて乾燥しているオーストラリアでは、病害虫の発生要因でもある湿度を容易にコントールできるメリットがあるため、50㌶を超えるような大規模施設(ガラスハウス)での減農薬栽培が実施されています(湿度が不足している場合は霧状スプリンクラー等で加湿して調整している)。

「飽差」の概念

「飽差」とは、空気中に含まれる水蒸気量と、その温度で空気中に最大に保持できる水蒸気量との差を指します(g/m3)。多くの病害は糸状菌(かび)によるもので、低い「飽差」=高湿度の状態で発生しやすくなります。例えば、灰色かび病は1g/m3以下の「飽差」で発生が増えることが知られています。

飽差管理で減農薬栽培を実現

作物の葉の気孔は日中に開き、蒸散を通じて水分を補います。適切な飽差レベルであれば、このプロセスが円滑に行われます。しかし、適切でない飽差レベルでは、吸水が止まり、病害虫の発生につながることがあります。自動分析・コントロールシステムの導入により、飽差を管理し、病害虫の発生を抑えて減農薬栽培を実現します。

飽差管理表の活用

飽差管理表は、温度と湿度に基づき飽差の値を示します。適切な範囲(3~6g/m3)に保つことで、植物の蒸散と光合成を促進し、生育と収量を向上させることができます。

以下の管理表はその一例です。

飽差管理表の解説

飽差管理表は、農業において非常に重要なツールです。この表を使うことで、植物の蒸散と光合成を最適な状態に保つことができます。飽差とは、空気中の水蒸気量とその温度で保持できる最大水蒸気量の差を示します。単位はg/m³です。

まず、表の見方から説明します。縦軸は温度を示し、横軸は湿度を示しています。この表では、温度8℃から30℃、湿度40%から95%までの範囲をカバーしています。各交差点にある数値が、その温度と湿度条件での飽差を示しています。

飽差の値は、以下のように色分けされています:

  • 青色:適切な飽差

  • 水色:許容範囲の飽差

  • 灰色:高湿度環境で気孔が開いているが蒸散なし

  • ピンク色:低湿度環境で急激な温度変化により気孔が閉じる

  • 赤色:低湿度環境で気孔が閉じている

具体例を交えて説明

例えば、温度が20℃で湿度が50%の場合、飽差は8.7g/m³です。この値はピンク色で示されていますので、低湿度環境で急激な温度変化により気孔が閉じる可能性があります。この場合、加湿や遮光が必要です。

一方、温度が15℃で湿度が70%の場合、飽差は3.9g/m³で、青色に示されています。これは適切な飽差で、特に環境改善手段は必要ありません。

飽差が植物に与える影響

飽差が高いと、空気中の水蒸気量が少なく、植物は水分を吸収しにくくなります。これにより蒸散が抑制され、光合成が低下します。逆に飽差が低いと、空気中の水蒸気量が多く、植物は水分を吸収しやすくなりますが、蒸散が起こらないため根から水が吸収されにくくなります。

実際の農業への応用

農業現場では、この飽差管理表を利用して環境をコントロールします。例えば、温度や湿度をモニターし、飽差が適切な範囲外に出た場合は、加湿器や除湿器、換気システムを使って調整します。これにより、農薬の使用を減らしながら、病害虫の発生を抑え、作物の健康を維持することができます。

結論

オーストラリアの先進的な減農薬農法は、日本の農業者にも大いに参考になります。ウェザーステーションや「飽差」管理を活用し、データに基づいた農業を実践することで、環境保護やコスト削減、輸出基準のクリアといったメリットを享受できます。これらの技術を積極的に導入することで持続可能な農業を実現できます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?