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オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第59回 カーボンファーミングの概要と主な手法

1980年代以降、二酸化炭素(CO2)の増加が温暖化の主要因であるという説が生まれました。現在の温暖化の直接的な主要因が空気中のCO2の増加であるという科学的な確証については、未だに賛否両論があるものの、CO2削減には国際的なコンセンサスが得られています。

世界的なビジネストレンドとも言える「CO2削減」を実現する事業の一つであるカーボンファーミングは、農業事業において欠かせない存在かもしれません。例えば、農業大国オーストラリア、ニューサウスウェールズ州北部のMulga Beltでは、この地域だけでも約150社の農業生産法人が過去10年以内にカーボンファーミングにより生み出されるカーボンクレジット(温室効果ガスを削減または吸収することで得られるクレジット)から、少なくとも合計3億ドルの収益を上げています。

オーストラリアで巨額のカーボンクレジットが実現できているのは、収益の側面だけではありません。干ばつなどの自然災害に毎年悩まされているオーストラリアでは、カーボンファーミングを実現することで、災害を回避できる健全で生産性の高い土地(土壌浸食の軽減、水の浸透の向上、生物多様性の実現)を創ることができる利点があるため、生産者は積極的にカーボンファーミングに取り組んでいます。
オーストラリア政府は、排出量を削減し炭素を隔離できるようにするための支援金を、2023−26年の3年間で総額1,750万ドルを拠出すると発表しました。

カーボンファーミングとは?

カーボンファーミング「炭素農業」は、貯蔵される炭素の量を最大化する、または排出される温室効果ガス(主にCO2とメタン)を最小限に抑えるために農業を管理することです。

オーストラリアを始め、世界的に実践されているカーボンファーミングは畑地や草地を主な対象としています。一方、水田はCO2の排出量は比較的少ないものの、土壌中の酸素が減少しやすく、メタンが生成されやすい特性があります。

メタンはCO2の約28倍の温室効果を持つとされています。そのため、水田においては、点滴灌漑を用いた栽培方法が実証実験として世界各地で行われています。次回は、カーボンファーミングの利益源を多様化するオプション(主にカーボンクレジットの具体例)を挙げて解説します。

イメージ出所:The Times of Israel
メタンの排出量を最小限に抑えるネタフィム社が実証実験している点滴灌漑での稲作

まとめ(日本の農業者の皆様へ)

日本の農業者にとっても、カーボンファーミングは非常に重要なテーマです。特に、近年の異常気象による天候の不安定さや自然災害の増加は、日本の農業に大きな影響を与えています。

  • 炭素貯蔵の最大化:畑地や草地での炭素貯蔵量を増やすために、土壌管理や植生の多様化を進めましょう。適切な耕作方法や植生の導入により、土壌の健康を保ちながら炭素を効果的に貯蔵できます。

  • メタン排出の抑制:水田でのメタン排出を最小限に抑えるために、点滴灌漑を導入することを検討できるかもしれません。※農法を変える、または、点滴灌漑などの新たな農法を導入ことは、大きなリスクを伴うため、農業試験場などが実証した試験結果を基に、先ずは試験的にトライする。

  • 炭素クレジットの活用:炭素クレジットを活用することで、収益の多様化を図りましょう。カーボンファーミングにより得られる炭素クレジットは、追加の収益源となり得ます。

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