見出し画像

Sennheiser IE 500 PROレビュー 〜理想のモニターイヤホンに出会った!〜


「使える」モニターイヤホンが欲しい!

 仕事柄、編集や収録の際にサウンドをチェックするモニターヘッドホンには一定のこだわりが有り、普段から主に3種類を併用しています。

画像1


SONY MDR-CD900ST:言わずと知れた大定番。音の立ち上がり部分の描写に基づく解像度は群を抜いているものの、実は個人的には音同士のバランスが見通しにくくちょっと苦手感もあり。「共通フォーマット」として、他を使っている時にセカンドオピニオンとして確認用に使うことが多いです。

audio technica ATH-SX1a:解像感は控えめながら、周波数帯域ごとのフラットさは特筆モノ(900STは決して「フラット」ではない)。音楽よりは、動画編集や配信で長時間バランスを取り続けるのに重宝しています(実際、放送業界でも多く使われているらしい)。

SoundWarrior SW-HP10s:近年、一部で話題になった機種。作業上十分な解像感を持ちつつ、低域にかけて帯域ごとのつながりが自然で、空間も把握しやすい。ミックスバランスも取りやすいので、最近は一番ヘビーローテーションしています。

 どれも優れた機種であるものの、一つ個人的な事情に基づく悩みがありました。それが「帽子問題」。

画像2


 私は普段よりトレードマーク的に「ポークパイハット」というタイプの帽子を被っています。キャップならまだ良いのですが、ハットを被ったまま大型ヘッドホンは装着しにくい上に不安定。そこで、装着しやすく音の良いモニターイヤホンが欲しいと考え出しました。

求める条件としては

・収録時や素材チェック時に十分な解像度を持っている

・特定の帯域が大きく不足・ブーストされているなどの偏りがない

・ある程度長時間の装着でもストレスを感じない

 上記をもとに多数の機種を試聴した中で、ファーストインプレッションから一番「ピン!」と来たのが、SennheiserのIE 500 PRO

画像3


 実は、カナル型イヤホンには「中域が盛り上がったカマボコ型で線が細い」という偏見があったのですが、近年は全体的なレベル向上がすさまじく、その中でも特にIE 500 PROの「実体感の強い」サウンドに惹きつけられました。使用時は音楽等を聴くだけでなく、DAWでリズムマシンなども操作してみたのですが、解像感や定位のクリアさに加え「イマドキの音楽」に重要な低域も不足・誇張なく自然に表現できているのがインパクト大でした。

 導入以来、出先での収録等だけでなく、普段の作業にも高頻度で使っています。

画像4


 今回は、IE 500 PROの詳細と、他製品との比較も含めたサウンドの感想をレビューします!

IE 500 PROの詳細

 まずは、IE 500 PROの製品内容をチェックしてみましょう。

 本体色はクリアとスモーキーブラックの2種類があり、私が使っているのはスモーキーブラック。本体と、耳にはめるイヤーピース、ケーブルは着脱式になっており、好みのこのに交換したり、断線した場合も工具などを使わずに簡単に交換できます。

画像5


 標準付属するケーブルはノイズの影響を受けにくいツイストペア仕様。かなり剛性があり、多少ハードな状況下でも耐えられそうな安心感があります。しっかりしている分だけ若干重く、ダラリとした状態で触れるとある程度タッチノイズが入りますが、分岐部分を調整してフィットさせるとほぼ目立たなくなります。

画像6


 直接耳に入るイヤーピースは、一般的なゴム製のものと、低反発なシリコン製の2種が、それぞれ大中小3つ(計6種類)付属。装着感に大きく影響する部分だけに、豊富なバリエーションが用意されているのは大変嬉しい所です。私の耳には、ゴム製の中サイズが一番しっくり来たのでそちらを使っています。

画像7


 イヤーピースは汚れが付きやすい部分ですが、穴の中を清掃できる専用の用具も付属。高級機だけに、こうした付属品も気が利いているのは嬉しくなります。

画像8


 ケーブルをきれいに巻いて収納できるキャリングケースも付属しており、持ち歩きにも便利。

画像9


 本体自体の質感や付属品を含め、高級機として満足感のあるパッケージ内容になっていると思います。

他機種とも比較しながら試聴!

 さあ、いよいよ肝心の試聴レビューに入ります。それに際して、冒頭で挙げた3種類のヘッドホンに加え、他のカナル型モニターイヤホンも比較対象に加えました。


 まずは、同じSennheiserのIE 40 PRO。1万円強の価格帯の中ではトップクラスの解像度があると感じ、実際けっこうな売れ筋になっているようです。ただ「制作用のモニター」として見た時には、中域が抑えられ高域、低域が目立つ「ドンシャリ」(この言葉の印象ほど強力ではない)的な傾向があり、さら探し系の作業にはちょっと弱い印象。一方、どんな音源もクリアでスッキリと抜けるように聴こえるので(つまり、モニターとしての弱点=リスニング用としての魅力)、余暇の音楽や動画などの視聴にはこちらを使っています。

画像10


 そしてもう一つ、ヘッドホンの大定番MDR-CD900STの流れをくむSONYのMDR-EX800ST。900STと同様、高域よりの解像度が非常にたかく、まさに900STの使い方をイヤホンサイズで実現することが意識されていると感じます。こちらもモニターイヤホンとして大変優秀だと思いますが、IE 500 PROとまったくサウンド傾向が違うのが面白い所。

画像11


 視聴は、各機をDAC&ヘッドホンアンプのFiiO Q1 MarkIIに接続して実施。手頃な価格ですが、かなりフラットなサウンド傾向で、細部まで確実に描写しながらもこれみよがしな誇張のない出音のため、イヤホン・ヘッドホンの評価に向いています。

画像12


 これらを使い、いくつかの音源を比較試聴してみました。

試聴:井上陽水「招待状のないショー」ハイレゾリマスター版

画像13

 最初は井上陽水1976年のアルバム「招待状の無いショー」の192KHz、24bit、WAV形式のハイレゾファイル。このアルバム、実はスタジオ内で発生するかなり様々なノイズが過剰にカットされずに残っており、それがたまらなく素晴らしい空気感を作っています。スタジオ作業で使用されるモニターの試聴用としては最適なアルバムの一つと言えるでしょう。

 IE 500 PROの音を聴いて、おろらく多くの人が感じると思うのが「中域」の描写の素晴らしさ。実は完全フラットという感じではなく、声の成分が集中するあたりが若干盛り上がっているのですが、そのおかげで歌やナレーションのパフォーマンスをとても確認しやすく感じます。

 例えばCD900STは、比較的高めの周波数にフォーカスした音になっており、音の「立ち上がり」の部分が判断しやすく、それがノイズの混入などを発見するには大きく力を発揮します。一方、そのせいで中〜低域部分の見えづらさが生まれており、パフォーマンス自体の良し悪しや、音同士が混じった時の空間の把握がしにくいと個人的に感じています(イヤホンのEX800STも、これとかなり似た印象を受けました)。所有するヘッドホンの中では、SoundWarrior SW-HP10sがそうした部分をうまく解消しており一番気に入っていましたが、IE 500 PROはそれ以上に声の判断がしやすく、例えばボーカルのテイクを選ぶ作業などには、スピーカーを併用しつつIE 500 PROでチェックしたいと感じます。

 高域の強調が無いとはいえ、IE 500 PROは音の立ち上がり部分の描写もかなり優秀です。それを如実に感じたのが、「Summer」「坂道」といった曲で使われているKORGのMini Popsというリズムボックスボックスのサウンド。実は私はこれの実機を持っているのですが、IE 500 PROで聴いた時が一番正確に元音のトランジェントが再現できており、とても感心しました。

 また「水無月の夜」など展開の激しい曲では、静かになった部分で(おそらく何台かの)ギターアンプから発せられているノイズが折り重なって空気感を作っているのが判別できました。実は、一般に「ノイズ」と言われる成分の多くはかなり音としての成分を豊富に含んでいるので、その情報量をしっかり再生するのはけっこう難しいのです。

 このアルバムは中学生の時にCDを買って以来30年ぐらい繰り返し聴いており、どこにどんなノイズが入っているかもかなり把握していたのですが、ハイレゾ版+IE 500 PROの組み合わせでさらに新たな発見が多く得られ、とても感動しています。

試聴:KRAFTWERK「Computer World」より「Computer World」

画像14

 次はガラッと変わって、クラフトワーク1981年のアルバムの表題曲。こちらはYouTube Musicで視聴しています。この曲を選んだ理由ですが、「Computer World♪」が繰り返される部分のベースの音域が広く、例えば小型スピーカーなどで聴くと、最低音がちゃんと出ない場合が多々あります。このベースパートがちゃんと再生できる装置は、低域への伸び方が自然になる傾向があります(逆に、過剰に低域を強調するサブウーハーなどでは、最低音のエネルギーが強すぎてこちらも不自然になる)。

 IE 500 PROは、かなり自然なつながりで最低音もしっかり再生され、クラブミュージックなどの低域も(無理にブーストした感じではなく)自然に再生できるレンジの広さを感じました。実はCD900STはここを再生した時に最低音がけっこう痩せてしまうのですが、イヤホンのEX800STはかなり自然に再生できました。低域の再生にかけては、定評がありつつも開発時期の古い製品より、最近の設計の方がより高いポテンシャルを持たされていると言えるでしょう。

試聴:Billie Eilish「When We All Fall Asleep, Where Do We Go?」より「bad guy」

画像15

 これまたガラッと変わって、これを書いている2020年の「イマドキ」を代表する曲も聴いてみました。

 大ヒットしていながらこの曲の構造はかなりトリッキーで、図太いキックとベースを、歪み無く、しかも低域の量感を保ちながら、アタック部分も含めてキッチリ鳴らすのはかなり大変です。IE500は、それぞれの要素を聴き分けられつつ、全てが絡んだ際のグルーヴもちゃんと感じられ、曲の構造をルーペで見るようにつぶさに観察できます。

 例えばIE40 PROは、かなりクリアかつ派手に鳴って楽しい聴こえ方をするのですが、例えばによる多重録音のコーラス部分などを聴くと、IE 500 PROの方が声の情報量をかなり細やかに描写しているのがわかります。SoundWarrior SW-HP10sもかなり良いバランスですが、IE 500 PROの方が個々のパートの定位感がしっかりと感じられます。

自分のリファレンスの一つに!

 最初は帽子の時につけやすいサブ的なものが欲しいという動機でしたが、IE 500 PROが持つモニターとしてのポテンシャルの高さにすっかり惚れ込んで、自分のリファレンスの一つになりました。けっこう高価ですが、長期間に渡って確実に使っていける確かな実力のあるイヤホンだと思います。ぜひ、お店などで試聴して頂くと、このレビューで書いていた事を実感して頂けると思います!

動画でもレポートしているので、ぜひ併せてご覧ください。

機材提供:ゼンハイザージャパン

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?