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2-2. 実践家から見た自殺予防の課題②ーNPO法人OVA 清水幸恵さんインタビュー後編

(特集 自殺予防実践の現場から見た、実践・研究上の課題)
 清水 幸恵(NPO法人OVA クライシスサポート部部長)
末木 新(和光大学 教授)
自殺予防マガジン "Join", No.2

自殺予防実践を行うNPO法人OVAに所属している清水さんをお招きし、自殺対策における現場の状況とその課題について、インタビューを行った内容をまとめました。こちらは、インタビューの後編になります。

オンライン相談への社会的信用・需要の高まり

【末木】 コロナ禍の影響(通信環境の変化)などを含めて、オンラインの相談、テキストの相談はすごい増えていますよね。ものすごく増えてるという中で、今後、需要が減るというのはあまり想定しづらいのではないかなと思います。

【清水】 そうですね、時代とともに相談の質も変わってきましたね。やはり、インターネット相談が社会的にしっかりと認知されてきたんじゃないのかなと思います。OVAでの相談も、当初(2014年頃)の方が、おそらく空メールだけであったり、試しに送ってみましたというのが多かったんじゃないのかなと思います。2014年頃は、怪しげなサイトじゃないのか?みたいな印象を相談者の方に持たれていたかもしれません。今はもう委託でやっていて、サイトにも各自治体の名前が入っています。そういったオンライン相談があるということを皆さん分かってきているんだと思うんですよね。相談したい、聞いて欲しいという援助要請意図を持ってメールを送ってくださる方が増えています。

【末木】 そうですよね、始めたときは何て言うのでしょうか... 何か手作り感が凄かったですもんね(笑) 最初の時は確かに「なんだこれ」みたいな感じでしたよね。

【清水】 あと、相談者さんからの一通のメールの分量(文字数)がとても増えました

【末木】 そうなんですか?

【清水】 初回メールが空メールであったり、語りの少ないメールもありますが、分量が多いメールは増えていると思いますね。メールの文量が増えているので、こちらか返信する時間もその分かかるんですよね。最近は、初回のお返事のメールに入れるアセスメントのための質問をちょっと減らそうとしています。質問における三本の柱として、生活の状況、抱えてる問題、体調の不調を聞いていますが、抱えてる問題にあれやこれやと入れると、すごい量の返信が来て、結局こちら側の返信のスピードを保てないことがあります。

なので、最初は内容をスリムにして極力早めに返すように、スピード感を大事にしようかと今やってみています。一通のメールが1000文字を超えてくると結構大変なんです。

【末木】 でも、初回からそれだけの文字量を送ってくる人が増えているということは、それだけメール相談という枠組みへの社会的信用が得られているということですよね。

【清水】 以前は、相談員の様子を見てからやるみたいな感じだったのがだいぶ変わってきました。相談したいなと思って連絡をしてくださっているので、以前よりも関係性をより作りやすくなっていると思います。そのような変化は良い変化だと思いますね。

【末木】 ちなみに、相談者の方の自殺リスクの程度自体はどうなのでしょうか。変わっている感じはありますか?

【清水】 時折、「これは…」というメールが来ます。受けている相談者の数が増えているので、頻度が増えているように感じますが、ただ、通報数がものすごく増えているかというとそういうことはありません。また、昨年度から今年度にかけて通報自体はやや増えているのですが、通報する=リスクが高いかというと一概にも言えません。

通報に至る場合は、大きく二つの場合に分かれます。一つ目は、自殺のリスクがまさに高い人です。二つ目は、ぶつけどころのない怒りだったり、世の中に向けているような攻撃性をむけてくるような場合です。本当に今まさに自殺を実行しようとしている状況ではないけれども、強い心情の吐露が自殺の宣言ということになることがあります。攻撃性を向けてくるような場合でもリスクが高い方も一定数いらっしゃるかとは思います。

相談者数が増えているなかで、リスクが高い方も同じように増えているかと言われると、そうした感覚はないです。ただ、毎日何通ものメールがくる中でも、自殺や生活の困窮などさまざまなリスクの高い方を見落とさないようにしないとという目では見ています。

【末木】 ちなみに、今って相談のメールは1日にどれくらい来ているのでしょうか?

【清水】 今日とか、「終わるのかな?」ってくらい来ていますね(苦笑) でも、その日その日で違いますね。一日何通書いてるんだろう… 今、10アカウント(各自治体分)あります。基本、私は10アカウント見ているのですが、昨日だけで、大きな自治体ですと、20通くらい送っているのではないでしょうか。

【末木】 ちなみにそれは、どれくらいの時間でやっているんですか?

【清水】 8時半から16時半までのシフトになっているので、その間で対応しています。日によりますが、その間に定例会や、ケースカンファレンスとかがあったり、採用や相談員の教育が入ってくると、相談に当てられる時間は半日しかないときもあります。

【末木】 例えば、4時間くらいで20通返信しないといけないとなると、1通につき10分ちょっとで判断しなきゃいけないですよね。でも、それぞれ相談内容が異なるわけですから、結構きついですね。

【清水】 見て送れるものもあれば、30分ぐらいかかるものもあります。また、ちょっと短めなメールで、「これは5分くらいで見れるかな」と思ったら、案外長くかかってしまって、必要な作業時間を読み違えるということもあります。

例えば、相談のなかでも、DVであったり虐待であったりすると、お返事をする際に難しさがあります。「DVが辛い」といったタイトルでメールが来ていたとしても、そのタイトルでお返事をすると、パートナーさんが見てしまうかもしれないというリスクがあるかもしれない、など、様々なリスクを考慮して文面を考えるからです。自分のスピードアップはずっと課題ですが、人間なので、なかなかこれ以上劇的には上げられないようにも思います。

ロールモデルの重要性

【末木】 こういったOVAでの相談のようなチームでやる仕事って多分あまり無いと思うんですよ。心理系の仕事の中でも、スタンダードなものではないですよね。スクールカウンセラーなどであれば、仕事の内容について、パッとイメージ湧く人はいると思いますし、実際にスクールカウンセラーに会ったことあるという人も、若い世代を中心にそれなりにいます。

しかし、清水さんがやられているお仕事は、そういったイメージが世間一般に無いと思います。その中で実際に働いてる人はどうやって仕事をしているのか?何をやっているのか?とか、そういったものが世間に見えてこないと、「こういうふうな仕事ができるんだ!やりたい!」と思ってもらえない。なので、「もっと仕事の様子を外にも出していかないといけない」「ロールモデルが無いのは問題だよね」という話を伊藤さんとしました(以下のリンク参照)。

【清水】 発信していかないといけないですね。OVAの研究員でもある高橋あすみさんの企画で、日本心理臨床学会の自主シンポジウムに出ました。その後、それを見て応募してくださった方が、相談員としてお2人採用になりました。やはり出していく過程で、「メール相談をやっている」であったり、「どんなふうに同じ心理士で考えてメールの向こうの人と関わっているか」ということが伝えられました。おそらく、それによって入って頂けたのだと思います。多くの方に、メール相談があるということを知ってもらいたいと思っています。対面ベースでやっている人は、あえてここに来ようとは思わないでしょうし。

【末木】 何をやっているのか分からないですもんね。

【清水】 相手の顔が見えないというところで、そこに不安を抱かせてしまったり、反応が見えなくて、というふうに話される相談員さんは多いので、こうやって外に出していかないといけませんね。そうやってOVAに入ってくる人が増えたり、オンラインでお仕事をやっていく心理士さんが増えていけば、社会としてはいいと思います。

【末木】 需要が増えているので、相談の受け手の方も増えていかなきゃいけなくなると思います。

オンラインの重要性と課題

【清水】 なので、そういった点においては、コロナも良いきっかけのひとつですね。学生相談やクリニックなどでもオンライン相談が増えているので、良かったです。

【末木】 本当にそうですよね。コロナによって、やらざるを得ないところまで追い込まれました。うちの大学も、「ZOOMでも電話でも学生相談をやりますよ、何でもやります」となりました。この2年くらいで、一気にそういった変化が起こりました。今までは、「面接室では枠を守ってやりましょう」とされてきました。ある意味では固定観念があったと思うのですが、やらざるを得ない感じに急に追い込まれましたね。

今後、おそらくそれが全て元に戻るということはなかなか無いのではないかと思います。便利な部分は間違いなくあるので、一回始めちゃうと元に戻れないです。ZOOM相談を始めたのに、今後辞めますなんていうのは、選択肢として取りづらいですし、結局あったら便利な局面は間違いなくあります。家から出ることができない学生とかも相談できるとか。そうすると、やっはりメール相談などオンラインでできるものの重要性が高まります。そういったものを踏まえて、今後減るというのは想定しづらいですよね。

【清水】 そうですね、なかなか無くならないと思います。今、OVAはメールが多いですね。あとは、オンラインから先が課題なのかなとは考えています。オンラインだけでは完結できないです。私たちとのやり取りだけで完結できることというのはそんなに無いので、そこから先に繋ぐことが大切です。学生相談でも、家から出れない学生さんとZOOMでお話ししても、やはりその先に出てみようかという次のハードルが出てきます。メールも同じですね。やはり、「オンライン/メールだからいつでも連絡ができて時間を気にして話さなくていいから良いです」と言われる方がいらっしゃるんですけど、そこの先に繋ぎたいので、なんとかリアルに繋いでいくということを考えています。

OVAの中の大事な活動ポイントとして、対面であれば、相談に対するハードルを下げることが一番大切です。相談するということ自体、スティグマがあると相談者さんたちは思っています。例えば、「相談なんてできない」、「相談してもうまくいかなかった」「相談することが恥ずかしい」などですね。一対一の中でお話してくださっていることを支持していく中で、「話してもいいんだなぁ」と、話してすっきりするというところから次につながってもらえたらなと思ってやっています。

「相談すること」に、皆さんが持ってるイメージがあるので、社会的に極力ポジティブなものにしていきたいです。「相談することって当たり前だよ」とか、「いいことだよ」「迷惑をかけることがいけないわけじゃないよ」ということなどが社会としてもあったらいいのかなというのは思います。

自殺対策の現場で働く相談員が抱える不安

【末木】 ちなみに、先ほどのお話であった、学会での発表を通じて応募があったという話の中で、対面でやっている人があえて来るということは無いのではないかというのがあったかと思います。清水さんはなぜOVAに来て、長く続けているのでしょうか。そのあたりのお話をお聞かせ下さい。

【清水】 私は面接に行ったとき、まだまだ子どもが小さかったです。それでも、対人関係の仕事がしたかった。しかし、その時は、私が出て行く道がありませんでした。なので当時の私にとっては、オンラインで人と関わる仕事ができれば、それ以上の条件はなかったです。メールですが、人と関わっているという感覚を私は得られているので、それで多分続けられてるのかなと思っています。対面で会うような笑顔が見られるわけではないし、「こんにちは」と言っていただけることもそんなにあるわけじゃなく、「話せて良かったです」と言われることもあまりないので、この仕事は、(相談員の方が得られる)感情的な報酬は多くはないんだと思います。

しかし、その中でも、「話せて良かったです」というメールを時々いただけると、やはりすごく良かったと思います。私たちOVAと話したところから、次の段階に進める方々がいらっしゃるので、そういった事情から、続けられていると思います。私の場合、相手の顔が見えないということについて不安を持たなかったのは、あまり考えていなかったからですかね(笑)。しかし、実情として、新しく入った相談員でも、顔が見えないと不安だって仰られる方もいらっしゃいます。

【末木】 そういった方というのは、相談員として入ってきた人の中では多いのでしょうか?

【清水】 不安の感じ方は人にもよりますが、やはり、一定数いらっしゃいます。相手が見えないという不安や、リアルタイムで反応を見ることができない不安、それに加えて、自分が発した言葉に対する反応が分からない怖さなどを話されたりする方がいらっしゃいます。そういった不安や怖さというのは、おそらくやり続ける限りはあると思います。

【末木】 送ってしまったら取り消せないですもんね。

【清水】 取り消せません。なので、推敲します。私は、何通か繰り返しやり取りができてくると、相談をしてくる方の「その人らしさ」をメールから感じることができます。

【末木】 そういったところに面白みを感じるのでしょうか。

【清水】 そうですね。面白いと言うとあれですけど、対面じゃなかったとしても、その人らしさを感じることができるということです。実際に直接お顔を会わせて話しているわけでなくとも、人と関わっていると思えるのは、その人らしい言葉を聞けていると感じるからだと思います。

不安を持ちながら書いたり、送るとなると余計に考えてしまうのは仕方がない部分もあります。この仕事をやっていると、送信者も思い切りが必要だったりするところもあります。どこかで「えいや!」とできないといけない。

【末木】 でも普段の対面の会話も本当はそうなんですよね。

【清水】 そうですよね。対面だと判断する間もないので、瞬時に話していると思います。

【末木】 書いて、「これだ!」と出すときって、思いきりがいりますよね。僕も原稿を出すときは、夜中に勢いで出してしまうことが多いので。勢いつけないとできないみたいなときはありますね。

【清水】 熟慮をしないといけないけれども、スピード感も大事ですので。だいぶマルチなことを求められているのだなとは思いますね。

【末木】 やはり、その辺のバランスが必要ですよね。需要が増えている昨今において、ある程度の時間で相談をこなさないといけないというのがある。その中では、熟慮しなきゃいけないけれども、一方で、書いた言葉が編集できない状態で送信されると思うと、やはりひとつどこかで「えい!」とやらないといけないということですよね。そこは、ちょっと違う力が同時に求められるという感じはありますね。

チームの相談力を強化するために必要なこと

【末木】 相談員への教育が大事という話は以前より出ており、研究という意味では、相談のためのマニュアルを作るといったことをやってきました。しかし、そのマニュアルというのは、ある意味でいうと、どうしても個人の技量ベースで「こういうふうにやります」という話が中心になってしまいます。

それだけではなく、現場でOJTみたいな形でやる以外に、どうやってチームとしての一貫性や文化みたいなものを身につけていけるか?ということについては、分からないと言えば分かりません。そこがもう少し先の課題としてあって、それが無いとなかなか組織としての強さであったり、組織としての相談を受ける力というのがこの先上がっていかないんだなということはとてもよく分かりました。

【清水】 マニュアルには一定の意味はあるかなと思っています。私達がやっていることを言語化しているので、それを読み込んでうまく柔軟に使ってくれる相談員は、「このときはこんなふうに返しているんだな、じゃあ使ってみようかな」と取り入れてくています。そのように、形式で残していけるものは必要です。

あとは、日々、自分がどう考えているのか、このメールはどうか?であったり、相談者さんをどう見たてているかとかを言語化して話していくことで、皆さんがいろいろな見方で見ることができたりするようになると思います。「私はこの文章のここからこう思った」みたいなところとかを相談員間でシェアしていけると、皆さんの観点が近づいていくのかな?と思っています。そういったものはもう少し作っていけるといいと思います。

実際、OJTの中でも、「このメールを清水はこう読みました」という話は極力するようにしています。「ここの文...この人もしかするとLGBTの方なのかな?と思ったんですよね」など、相談者さんが仰ってなくとも、メールにはいろいろな情報が散らばっているので、いろいろな可能性があります。それをどう読み解くか?というところも、本当はもっとできると強くなるのかなと思っています。

そういったところは、どうしてもマニュアルには書き込めきれないところもあります。相談員それぞれ、どう読み取っているかとかももうちょっと伝えて、みんなでシェアして、「清水はこう思った」「他の相談員はこう思った」みたいなことをやれるといいのかなと思っています。

一応それでクリエイティブ・ミーティングというかっこいい名前の活動をやっているんですけど(笑)

【末木】 カンファレンスみたいなものですか?

【清水】 カンファレンスでは、相談者さんのことを話しあいます。クリエイティブ・ミーティングでは、いわゆるメールの読み方や書き方に関して、「この時はどうしたらいいんだろうか?」とか、「この時は皆さんどう考えている?」などのテキストベースのメールに関しての疑問や気づいたことを事前に書き出してもらって、ミーティングでは参加者がそこに書き出したものについて話し合っています。現状、毎月はできていなくて、大体2ヶ月に1回行っています。

こういうことの積み重ねで、考え方が変わっていきます。おそらく、5年前の私と今の私とでは、相談について考えていることが違います。変わっていかないといけません。OVA自体も、おそらく3年前に研修を受けた人と今研修を受けている人だって違うと思います。そこは常にブラッシュアップしていく必要があります。あまり、「みんなが一緒じゃないといけない」となると辛くなるので、それぞれの良さを大事にしつつ、全体としてのまとまりも作っていかないとと思っています。なので、OVAで皆さんの良さを発揮してもらえたらいいなと思いながら考えています。

【末木】 本日は、どうもありがとうございました。

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以下、前編へのリンクです。

■責任編集 末木 新(和光大学 教授)

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