「米高裁『ワクチンの安全性を認められない』と使用停止命令」は誤り 同様の情報が海外で拡散
検証対象
判定
誤り (判定の基準について)
ツイートの情報源は「米国の最高裁判所は、国民全員が対象となる予防接種を中止した」という内容のナイジェリアにあるオンラインラジオ局の記事である(2021年5月)。米最高裁の判例データベースには、予防接種を中止した判決は存在しない。
ファクトチェック
情報源は2021年5月ナイジェリアにあるオンラインラジオ局による記事
画像は1月13日に公開されたnote記事のスクリーンショット。これは運営主体不明の海外のニュースサイトの記事を日本語に訳したもので、さらにこのニュースサイトの内容もナイジェリアにあるオンラインラジオ局 ”Inspirer Radio” による2021年5月の記事(アーカイブ)を基にしている。
米最高裁が予防接種を中止した例はない
”Inspirer Radio” の記事は「反ワクチン活動家のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏を中心とする科学者団体による訴訟で、専門家たちがワクチンの安全性を証明できなかったため、最高裁は国民全員が対象となる予防接種の中止を命じた」とする内容だが、このような判決は実際には存在しない。
そもそもアメリカ連邦政府が国民全員に予防接種を義務化する制度(ユニバーサル・ワクチネーション)はなく、義務化を行うのは州の権限である。
Case textsやOyezといった判例集サイトで "vaccine" "vaccination" というワードで検索しても、ユニバーサル・ワクチネーションに関する近年の最高裁の判決は表示されない。
ちなみに、”Inspirer Radio” の「過去32年間ワクチンが安全であると証明できていない」という内容は、ケネディ氏が支援する反ワクチン団体 "ICAN”(Anti-Vaccine Informed Consent Action Network)が2018年に起こした情報公開訴訟に由来するとみられる。
ICANは米保健福祉省(HHS)に対し、ワクチンの安全性の改善についての報告書を2年ごとに提出するよう求めたが、HHSが応じることはなかった。そのためICANは「ワクチンの安全性のモニタリングを行っていない」と主張したが、実際のところはFDA、CDC等複数の機関によってワクチンの安全性はモニタリングされている(PolitiFact)。
この2018年の訴訟はニューヨークの地方裁判所が担当したが、最高裁に上訴されたかどうか等、裁判の内容は確認できなかった。AFPがノースイースタン大学教授のウェンディ・E・パーメット氏に行った取材では、「地裁で決着がついたようだ」という見解になっている。
USA TODAYは2021年5月29日にファクトチェック記事を公開し、「最高裁判所は、国民全員が対象となる予防接種を中止した」という言説について "False”(誤り) と判定した。
Inspirer RadioのCEOはUSA TODAYの取材に対し、記事内容に強い証拠はないとした上で、誤りを指摘するファクトチェック記事(上述のAFP記事の転載)を掲載していると回答。しかし、元の記事の掲載もしばらく続いていたため、Inspirer Radioが誤りを認めたかどうかは曖昧だ(2022年2月現在では削除されている)。
また、ケネディ氏たちによって行われたとされる「訴訟」だが、USA TODAYのメール取材に対しケネディ氏は "That statement is untrue. Idk where it came from"(それは事実ではない。どこから来た情報か分からない)とコメントしたという。USA TODAYの記事では"That statement”の内容が明示されていないため、ケネディ氏が具体的に何を否定しているかは不明である。
最高裁は企業への接種義務化を差し止めた
今回のツイートが拡散した背景として考えられるのは、最高裁が企業へのワクチン接種義務化を認めなかったという報道である。
最高裁は1月13日、バイデン政権が導入したワクチン接種または週1回の検査を従業員100人以上の企業に義務付けるという措置を差し止めた。
(武藤珠代)
謝辞
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