日本のゲーム業界のEngineerの給料の低さの理由といい加減上げてほしい件を整理してみる
はじめに
この記事は近年需要が高まるSoftwareEngineerをゲーム系とそれ以外で客観的に比較してみて「全体の給料上がらないかなー」とぼやくというのが趣旨です
Engineerの話にフォーカスしているので「プランナーやデザイナーよりEngineerのほうが重要だ」とかそういうことを言いたいのではないということをご留意ください
お前は誰
スマートフォンや家庭用ゲーム機などのゲームを作っているゲーム系Engineerです
最近ではゲーム開発の自動化などに注力しており、TestAutomationEngineerやSDETのようなことをしています
会社としては他にもEngineeringManagerやProductManager、スクラムマスターとかもやっていたりします
ゲーム系Engineerについて
ClientサイドとServer(インフラ含む)サイド
ゲーム系エンジニアには大きく分けると以下の表のようになります
各職種で需要が高まっている
いうまでもないことですがゲーム系エンジニアに限らず、近年SoftwareEngineer全般の需要は著しく高まっています
特にゲーム系Engineerのサーバサイドの技術はWeb系企業と呼ばれる各企業と同じものなので、その需要はとてつもなく高まっています
非常に優秀な人材はGAFAと呼ばれるような巨大IT企業に転職していますしそれらの企業の人材獲得競争は止まる気配がありません
GAFAが求めいているのはサーバサイドのEngineerだけではありません
近年GAFAがゲーム業界に参入しているのは以前の記事で言及しました
ゲームプログラマは今や世界全体で見ればGAFAなどの巨大IT企業も必要とされてきています
そしてその動きはゲーム分野だけにとどまりません
近年はゲーム分野の技術を非ゲーム分野への応用が注目されており、具体的には自動車業界や建設業界などの今までゲームとは縁のなかった企業達がゲームの技術を求めて採用を始めています
そして今もっとも話題なメタバースはそもそもゲーム技術をベースとした分野ですのでゲームプログラマの需要は一層高まっていくのは間違いないでしょう
日本のゲーム業界の給与が低い要因
ではなぜ日本のゲーム業界では給与が安いのでしょうか?
その一因はゲームソフトというビジネスの特性と日本税制の歴史が関わってきます
これを理解するにはゲーム会社を経営するという視点にたって考える必要があります
時間をゲーム業界黎明期(80~90年代)まで戻しましょう
ゲームソフトを開発するには当然ですが、1人ではできませんので人を雇う必要があります
さらに当然ですが、人を雇うには給料を毎月出さねばなりません
ここで問題が発生します。
ゲームを開発するには当時でも数か月~1年かかりますがその間売上はもちろん0です
そうなると毎月売上0でお金だけが出ていくことになるうえ、リリースしても売上がどのくらいになるか予測も難しいとなると経営者はとても困ってしまいます
次に考える必要があるのは当時の社会保険料と税金制度です
結論からいえば、当時は賞与には社会保険料や税金などは殆どかかっていませんでした
税金や社会保険料は月額の収入のみにかかり、ボーナスは金額そのまま貰えていた時代があったわけです
それを踏まえて、ゲーム会社を経営する側の思考としてはおそらく以下のようになったのでしょう
「固定費であるゲーム開発者への月額給与は低く抑え、リリース後の売上に応じてインセンティブを賞与として多く渡せば会社はリスクを最小限に抑えられるし、ゲーム開発者も国に取られる金額が抑えたうえで多額の報酬を得ることが可能になるのでは!!」
当時はこれが最適解だったのでしょう。ゲームソフトをリリース後に多額の報酬を受け取ったり、一般の企業では考えられない長期休暇を取るといった特殊な報酬体制はこういった経緯のなかで生まれたのだと考えられます
しかし、時は流れ社会情勢が変わっていきます
2003年には賞与にも税金や社会保険料が課されるようになり、賞与の受取額も減ることになります
さらにゲームソフトの開発期間はどんどん長期化していき、以前は1年以内にリリースできたいたが今では5,6年という単位で開発が長期化することも珍しくなくなりました
開発費もどんどん増え、今では数十億規模も一般化し、AAAと呼ばれる超有名タイトルだと100億を超えることも珍しくなくなりました
平成後期では労働環境を良くするために様々な法整備が行われ、2018年には「働き方改革関連法」が成立しました
そして、多くのゲーム企業でも残業をさせなくなったことで古くからの企業で働く人の収入を支えていた残業代さえ多く貰うことができなくなりました
こうして"法律の変化と開発費の高騰・開発期間の長期化により賞与も減り、残業代も貰えなくなって低い月額給与だけが残った"のです
※あくまで一因なのでこれだけではないと思います
Web系企業の給与水準
ここからやっと本題です
実際に日本のWeb系大手の給与水準がどの程度なのか調べていこうと思います
この数字は全て有価証券報告書から引用してきていますのでHDの数字しか載っていなかったり、未上場の企業は調べていません
HDで上場している企業が多かったので、サンプル数は少なめになりましたが給与水準が非常に高いことがわかります
当たり前ですがEngineer以外の職種も含めての数字なので、Engineerだけの平均はここからさらに高くなります
GAFAなどの巨大IT企業の日本法人も人材の獲得競争を行っていることを考えると、水準が非常に高くなっていることは間違いありません
ゲーム会社の給与水準
大手企業
ではゲーム系の大手企業ではどうでしょうか?
HD上場や未上場も多いのでこちらも一部だけとなっています
平均年齢が高めとはいえ、任天堂の高さはさすがです
しかし、それ以外は大きく差があることがわかります
よくスクウェアエニックスの平均給与が高いと言われますが、あれはHDに所属している一部の社員だけというカラクリがあります
その証拠に株主総会で株主から給料が安くて他社へ転職している件を指摘されています
一方で近年、ゲーム業界大手の基本給を引き上げる動きが盛んです
これは該当社員から聞いた話なので非公式情報ですが、これは基本給と賞与のバランスを基本給を多めにするという話で、必ずしもそのまま年収が上がるという話ではないようです
実際どうなるかは1年後の決算を待てばわかると思います
※基本給を上げるというのは固定費を上げるということだから会社としてはかなり重い決断なのでそこは客観的に見ても評価できるポイント
Web系がベースとなっているスマホゲーム系大手企業は高い
しかし例外もあります
会社の創業がWeb系であるスマホゲーム系の企業は軒並み高い水準になっています
※GREEはゲーム事業を子会社へ分離させたので除外しました
ここで注目したいのは前述した記事でたくさん人材を引き抜いているというCygamesはサイバーエージェントの子会社なのでこの数字には載っていません
実際の給与はわかりませんが、優秀な人間が多く引き抜かれている事実を考えると比較的高水準なのは事実でしょう
開発会社
忘れてはならないのが開発会社の存在です
大手からリリースされているゲームでも実際はこれらの開発会社が開発しているケースが殆どです
実際のゲーム開発者の多くはこちらに所属しています
上場している開発会社でこの金額です
多くの開発会社は上場していないのでここからさらに低くなるのが一般的です
ゲーム系Engineerの給与が安い状態の行く末
このままゲーム業界全体の給与水準が低いままだとどうなるでしょうか?
僕の予想では大幅に改善されることはないと考えています
最近では巨大資本によるゲーム開発スタジオの買収合戦が盛んなので、日本国内の優秀な人材が軒並み巨大資本に流れた後にやっと対応するくらいでしょうか
買収という形ではなくても、国内の有力なクリエイターが巨大資本によって独立スタジオを設立するケースも目立っています
これらの動きは今後も変わることはないでしょう
考え方によってはこれが業界全体の自浄作用ということなのかもしれません
他にもあのトヨタもゲーム系エンジニアの求人を出していることからも、これから他業種のゲーム系エンジニアの採用競争は激化していくことでしょう
これが少しでもゲーム系エンジニアの全体の給与アップにつながることを願うばかりです