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『ジョニーぶらり旅』フィリピン編①

 2023年8月。
 グアムから帰還して、はや半年が経とうとしていた。グアムで過ごした南国景色は既に過去のものとなり、また少年のような好奇心が芽生えた。
 貯金は10万ほどしかないため、今回こそ東南アジア圏にいくチャンスである。

 「遂にフィリピンに行くか」

 重い腰があがった。

 「セブ島」     「5日間」
 この二つの言葉が頭に浮かんできた。

 出発一週間前から、毎度おなじみの予期不安に悩まされた。フィリピンという、すこし治安の悪い国にいくことがとても不安で。あまり食欲がなかった。
 今回も例によって、リュック一つでの旅行となる。

成田空港
見るだけで興奮するぜ。

 出発の朝。緊張は変わらずで、頑張って朝ごはんを食べて、家を後にする。
 フライトが12時からなので、余裕をもって空港へ到着。
 しかし、既にハプニングが。Wi-Fiを借りる予定だったのだが、受け取り口を間違えて羽田空港にしてしまったのだ。
 すぐさまカウンターに電話をして、どうにか成田空港に変えてもらえた。この時点で、私のメンタルはなかなか傷ついている。今回の旅はうまくいかないのではないかと、不安になった。

今回はエアアジア機

 時間になり、飛行機に乗り込んだ。この瞬間が一番興奮する。勿論、BGMは『ウルトラマン』の科特隊出撃のテーマだ。離陸のために加速するにしたがって、頭の中のBGMの音量が上がっていく。

セブ、マクタン国際空港

 5時間後。遂に、セブ、マクタン国際空港に到着した。
 機内で一切のごはん、水が出ず、それに加えて極寒だった。冷房が効きすぎている。東南アジアの航空会社恐るべし。飢えと緊張で、既に気分が悪かった。
 入国審査をスムーズに通り抜け、換金もして、ついに空港の外へでた。
 外のモアっとした熱気と東南アジアらしい草木が、海外に来たことを全身に知らしめてくれる。
 安全そうなタクシーを見つけ、乗り込んだ。しかし、タクシーの窓から見える景色は想像を絶するものだった。
 茶色く濁った海、信じられない量の排気ガス、トタン作りの家…。テレビで見る、東南アジアのスラムの要素を、これでもかと詰め込んだものだった。
 正直、このホテルまでの景色で、セブに対する期待は綺麗に破られた。とっても汚い。
 こんな環境で育った人間に襲われたら、いくら護身術に自信があっても、簡単に殺されてしまうなと、海外の恐ろしさを肌で感じた。

この通りはとてもきれいなほうだった。

 ホテルに着き、タクシードライバーに金額を聞いた。
 すると、「気持ちだけ、気持ちだけ」と綺麗な日本語を使い、金額を言おうとしない。
 フィリピンの物価が分からないので、財布の中の一番大きなペソのコインをだすと、
 「500ペソ」とすんなり要求された。

 支払いをすませ、財布を手に持ったまま見送ろうとしたら、真面目な顔で
「早く財布しまって。ここは夜歩かないで」と警告された。
 そんなに恐ろしい地域なのか…。とても先が不安になってきた。

本当に質素なホテル

 部屋について、5泊もこのスラムの地域に滞在することに、戦々恐々とした。
 道を歩いているときに刺されたらどうしよう。誘拐されたらどうしよう。そんな不安が頭の中を埋め尽くした。そして、再びパニックになった。
 グアムでのパニックとは違い、生命の危機を感じての本能的な反応だった。今回は、外に歩きに行って新鮮な空気を吸うことはできない。
 近くのコンビニで肉まんとドーナッツを買うも、それすらもあまり喉を通らない。嗚咽ばかりしてしまう。

 実際、翌日のチケットを買ってすぐに帰国しようかとも考えた。
 しかしそんなことをしてしまっては、全てが無駄になってしまう。むしろ、即帰国する勇気もない。
 そんなことをぐるぐる考えながら、ベッドの上で縮こまっていた。

 このままパニックになり続けていては、眠ることもできない。何かで気を紛らわせなければ。
 YouTubeでバキ童チャンネルを見るも、効果なし。写真を開くも、効果なし。
 何気なしに、マッチングアプリを開いてみた。


 フィリピン女子たちから、いいねが100件近く届いている。


 決めた。ここで暮らそう。

 下心が芽生えた瞬間、パニックは消え失せた。

つづく

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