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「図書館の大魔術師」考察① フミス家のすべて(8巻まで)



今回は漫画『図書館の大魔術師』の考察第一弾として、主人公シオ=フミスと彼と同じ苗字を持つ一族である「フミス家」について徹底考察します。(8巻までのネタバレを含むので注意!)

シオ=フミスと姉

シオ=フミスは田舎村アムンの貧民街で育った混血の少年ですが、現在は司書試験に合格し見習いですがカフナの一員として過ごしています。この章では如何にして彼は生まれ、成長しそして司書になったのかという点をお話します。

『貧民街の耳長』

 ヒューロン族自治区北部にある大樹の村<アムン>。そして丘の上に広がる貧民街。少年シオはその地で姉ティファ=フミスに育てられました。姉弟は貧困のために苦しい生活を送っていました。シオはヒューロン自治区で育った少年ですが、一般的な浅黒い肌と黒い髪、青い目といったヒューロン族の容貌とは異なる見た目をしています。彼の目は緑色で髪は金髪で、何より「尖った耳」を持っていました。それらすべてはホピ族の特徴です。長ったらしい説明になりましたが、要するにシオはヒューロン族とホピ族の混血なのです。

 シオの旅立ちから九十五年以上前アトラ卜ナン大陸では「灰白色の死」により減少した居住地を巡って民族大戦が起こっていました。元々非常に仲が悪かった民族たちは、ある一つの凄惨な事件を引き起こしました。

ラコタ族の著者ルゲイ=ノワールによって書かれた『黒の書』は民族大戦中ヒューロン族のある指導者(おそらく引用セリフを発したザラマ=インガレイ)に邪悪な影響を与えました。そして起こったのがヒューロン族によるホピ族の大虐殺です。大魔術師たちによってこの企ては阻止されましたが、この事件を経てホピ族は「絶滅危惧種」と呼ばれるまでに数を減らしてしまいました。それから一世紀ほどが経過した現在であってもホピ族とヒューロン族の間には大きなわだかまりがありました。

 多くの村人たちは敵対する民族との間に生まれた混血児のことを「耳長」と呼び忌み嫌い、シオも臆してそれを受け入れてしまっていました。しかし、アフツァックの大図書館からやってきた司書セドナ=ブルゥによってシオの人生は変わり出します。今まで村の図書館を利用させてもらえなかった彼はセドナからある一冊の本を借り、ひょんなことから実質的に譲り受けます。そしてセドナへの憧れとその本に導かれて司書を目指すこととなります。変わり出したシオの努力は村人たちから認められ、やがて応援されるようになります。もうアムンには『貧民街の耳長』はいません。優しく強い少年シオ=フミスがいるのみでした。

姉の後ろ姿

シオ=フミスという人物は、姉ティファを抜いては語れない人物です。姉といっても血の繋がりがあるとは書かれてはおらず、二人の過去は謎のままです。一巻のカバー裏には、彼女が9歳でシオが0歳のときにティファはアムンの村に「たどり着いた」と書かれています。彼女は文字の読み書きが出来ません。教養もないよそ者の少女に出来る仕事など殆どありません。シオを育てるため学費を稼ぐため、朝は茶畑、昼は農園、夜は刺繍(内職でしょう)をして必死に働きますが稼ぎは不十分でした。シオは彼を彼の夢を支えるために働き続ける姉のことを非常に尊敬しており、第十四話では別れの際に大粒の涙を流し第二十七話では彼女のことを誹謗されて激しい怒りを見せています。

3巻の最後で描かれるティファ=フミスという女性の全てが詰まったと言えるこのシーン―ぜひご自分で確かめてみてください。

フミス姉弟の過去

血がつながっているのかいないのか、どのような関係なのか―フミス姉弟の過去はベールに包まれています。

シオの額には『ドグルの紋』と呼ばれているバツ字型の傷跡が刻まれています。これはヒューロン族のアシン教の風習で、現在は殆ど廃れアシン教徒の中でも過激なアキニ派の上流階級でのみ見られる因習とされています。―双子の後継や不倫の子、身分違いの血統―一族にとって不都合な赤子を山に捨てるこの風習によると、紋を刻まれた赤子を触ると呪われるといわれています。おそらく不都合な子供を確実に捨てるためのシステムなのでしょう。

シオたちの過去の謎について、ここまでの要点を時系列順に整理すると次のようになります。

  • シオはアキニ派貴族階級のヒューロン族とホピ族との間に生まれた。

  • 生まれてすぐドグルの紋を刻まれた。

  • 当時僅か9歳だったティファ=フミスによって拾われた。

  • 二人はアムンの村にやっとのことでたどり着いた。

他のフミス家の人物

 フミスという名字はヒューロン族で比較的よく見られる名字のようで、作中には姉弟の他にもフミス家の人物が複数登場しています。シオたちと血縁があるのかは定かではありませんが…

サエ=フミス

 ハイダ系の容姿を持った少女です。とある街にある孤児院で、フミス先生と呼ばれるヒューロン族の父に育てられました。奇妙な行動から「ヌチ」として揶揄われてきたという過去を持ち、シオとも重なる部分があります。

フミス先生

孤児院でサエを育てたヒューロン族の男性。孤児院のほかにも、無料の学校を運営していた人格者でした。

―七巻のカバー裏の4コマ漫画では、赤ちゃんのサエの横で眠るシオに似た容姿の赤子がいるが….

ルノミ=フミス

名前のみが第七巻冒頭にある人物です。名前からして女性だと考えられますが、詳細は不明です。

リエコ=フミス

第三十話の最初に登場した、法務室の司書のヒューロン族女性。三年前に中央図書館がコアミ教第一支部を捜索した際の回想に登場。

フミス家とはなんなのか

ここまで、ティファ・シオ姉弟を中心に作中に登場した六人のフミスの名字を持つ人物を紹介しました。この中で血縁関係があると明示された人物はいませんが何らかの関係はあるものと考えられます。ここからは考察になります。

2つの一族

作中で度々登場するフミス家。結論から言うとその正体は『アキニ派の貴族階級の家柄』だと考えます。しかしただの一族ではありません。その一族は元々はアシン教アキニ派を信じる家系でした(恐らくホピ族への迫害にも加担していると考えられます)。ですが、戦後のどこかのタイミングで一部の人物が一族に反感を抱き離反し家を出ます。そうしてフミス家は次の2つの一族に分かれます。

  • 保守派(ティファやシオの親)

  • 革新派(フミス先生)

このように考えればシオがドグルの紋を刻まれ殺されかけた理由、そしてフミス先生が異民族の血を引くサエを育てたり教育・福祉に力をいれる理由が同時に説明出来るかと思います。

ひとつの矛盾

しかし、この仮定にはひとつの矛盾が発生します。
それは…

ティファ=フミスは文字が読めないということ。

 どういうことか説明します。作中世界では男尊女卑がまかり通っており、字が読めない女性は作中で複数登場しています(特に地方)。しかしティファをアキニ派貴族階級の生まれだと考えると、同じくアキニ派貴族階級の生まれであるメディナ=ハルルクが学校にまで通い教育を受けていたのに対してティファの教養レベルがここまで低いのは不思議です。勿論家によっての方針の違いはあるでしょうが、フミス家の娘が字を読めないというのはあり得ません。(実際リエコはカフナにまでなっていますし…)そのためティファは一族の人物でありながら何らかの理由で教育を受けられなかった、或いはそもそも一族の一員ではない―といった説が考えられます。

ルノミという人物

先ほどルノミ=フミスの言葉を紹介しました。ルノミ=フミスという人物は単行本で名前のみが書かれている女性です。彼女の正体はシオの母親だと考えたいです。彼女の言葉には自己に対する信頼感が溢れています。彼女が家族と信仰を捨ててまでホピ族との愛に生きた女性だったとしたら…言葉の真意が浮かび上がって来るのでは無いでしょうか。

さいごに

今回は『図書館の大魔術師』に出てくるフミスという名字について考察してみました。これを機会にこの漫画をもっと盛り上げられたなら幸いです。

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