見出し画像

あの日のリマインダー

今日、久しぶりにリマインダー機能を使おうと思ったら懐かしい名前を見つけた。

いつも17時になったら散歩の時間だった。
少しでも時間が遅れると「キュ〜ン…」と悲しげな声が聞こえた。
「はいはい!今行くから!」
外に出ると尻尾をブンブンと振って早く行こうと誘ってくるクッキーの姿が見える。
手を伸ばして首輪と犬小屋を繋ぐチェーンを外すと彼女は弾丸のような速さで庭を一周二周して私の元にやってくる。
「早く行こうよ!」
私は彼女にリードを繋げて玄関の門を開ける。
そのとき気をつけないといけないのが彼女より先に階段を降りなければいけないことだ。もし彼女が先に降りようもんなら私は階段でずっこけてしまう。
ものすごい勢いと力で彼女は私を引っ張った。

17時頃は他の犬も優雅に散歩している。その姿を見ては、彼女の姿を見る。
どうして彼女はこんなにもグイグイと引っ張るのだろうか、少し苦笑する。
彼女は他の犬にお構いなしで先へと進む。
たまに道端で犬同士を触れ合わせているグループがいても、こっちに興味津々で近寄ろうとして飼い主に止められている犬がいても彼女は先へ先へと足を運んだ。
あまりにも引っ張る力が強いので、一時期は自分のベルトにリードを繋いで散歩していた。一心同体状態だ。そうしないと彼女のうんこを取っている間に油断した私の手からリードが離れてしまうからだ。
うんこをした後の彼女はあまり引っ張らない。いや引っ張ることはするけど、力が100から70くらいに落ちるのだ。
リードを持つ手が少し緩む。あとは家に帰るまで10分ほど歩くだけだ。
私の手も真っ赤になっている。ちょっと痛い。
しかし帰りこそ油断できない。
なぜなら先へ先へと行く勢いを落とした彼女はとても可愛いからだ。
親バカではない。マジで可愛いのだ!
そしてその可愛さ故に犬好きを吸い寄せてしまう。これもマジだ!
ある時は子供、またある時はおばぁちゃん…犬が好きそうな人は大体寄ってくる。
ここで彼女がフレンドリーであれば問題ない。
しかし。
彼女はとてもとても…very very distrustful of people…人間不信なのだ。
家族以外が近づくと数秒前まで可愛さの塊だった表情が一気に鬼瓦のような、
『今からあなたを噛み砕きます』とでも言わんばかりの顔になる。
だから私は彼女に近づく犬好きの方たちに申し訳なさそうに謝る。
「すいません、この子噛むんです…」
まるでマネージャにでもなったかのような気分だ。
へこへこと頭を下げながら家に着く。

帰ったらまず、彼女の飲み水を新しいものに変える。
彼女はそれを一目散に飲み始める。
その隙に家の中の冷蔵庫にある『クッキー用』と書かれたタッパーを取り出す。
タッパーの中にはサツマイモと鶏肉を煮込んだスープが入っている。お手製だ。
それを適量深めのお皿に流し入れ、電子レンジで少し温める。
玄関の方を見ると彼女が網戸越しにこちらを見ている。
「ちょっと待ってね!もう少しだから」
「フンフンフンフガフガ(嗅いでいる音)…ゥクゥ〜ン」
急いで彼女のお皿に流し込む。
「どうぞ〜」
というや否やものすごい勢いで食べる。すごく早い。
噛んでるのかい?って毎回聞くくらい早い。
しかしこのスープにしてから少しばかし噛んでくれるようになった。気がする。
そして瞬く間に食べ終わったらおやつタイムだ。
彼女に急かされながらおやつをあげる。可愛い。
たくさん食べて満足したらしく、自分の小屋に戻っていく。
犬小屋の中には毛布やらクッションがモッフモフに敷き詰められている。
(ちなみに小屋自体が結構でかい。人が一人入るくらいだ。)
モッフモフの中をかき混ぜ、自分の寝床を作ったら今日のミッションはおしまいだ。
彼女はこちらを「まだ何か?」と言うような表情で見てくる。
私はやれやれと思いながら彼女の綺麗に食べ終えられたお皿を洗う。
「じゃ、また明日ね〜」
お皿をいつもの場所に置き彼女の方を見ると、幸せそうな顔をして目を瞑っている。
私は辛抱たまらなくなって彼女の顔を撫でくりまわす。
彼女がもうやめて!と文句を言うまで、だ。もちろんその時に匂いを嗅ぐことも忘れない。香ばしいポップコーンのような獣の匂いがたまらなかった。

16年と10ヶ月、彼女は生きてくれた。
そして私をたくさん引っ張ってくれた。

ちなみにリマインダーにある『筋トレ』は
散歩で彼女に引っ張られても大丈夫なように、だ。

彼女はとてもいい子に見えますがずっとご飯のことを考えています。


「なんかコイツ面白いじゃん?」と思われたそこのあなた!! そうです!そこのあなたです!よかったらサポートしてくださぁあああああいぃ!!!! 創作作品を制作するための資金にさせていただきます! よろしくお願いしまあああああああああああああああああああすっ!!!!💪✨