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詩・小説

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思いついた言葉の倉庫です。 たまに深夜のテンションで小説も書きます。
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#創作大賞2024

【短編小説】ブラックホール病

ねぇパパ 「ねぇパパ、私はいつまでここにいなくちゃいけなの?」 娘のシルビアが曇りガラスの向こうに何か絵を描きながら言った。 「そうだね、もう少し、かな」 「もう少し?もう少しってどのくらい?」 屈託のない目でこちらを見てきた娘を見て唇を噛み締めた。 「そうだな…」 考えるふりをして下を向いた。いろんな感情が私を襲ってきたのを娘に悟られたくなかった。 「ねぇパパ!」私に考えがあると言わんばかりにシルビアが声を上げた。 「パパのいた場所で一緒に暮らせばいいんじゃない?」 「パ

【詩/短編小説】魚の住処

ベランダの水槽は魚のいない住処  もう壊れているのに 「忘れないでよって 忘れないからなんなの?」 もう壊れているのに 一番乗りの教室で  あの子が来るのを待っている 散々喚いてその次は 我に返って泣くんでしょう? 仕方がないのと言い訳し 一人で終わりにするんでしょう? でもね 僕は許さないから 砕け散った破片は埃が積もり始めている もう忘れろよって 何にもない日々に戻り始めていくのは もう忘れるよって 下校時間の教室で  澄ましたあの子が待っている ざわめく人波帰

この世界でまた君に会いたいな

君がいないから僕は探した その面影を  流れていく色に重ねるように その思い出を  例えば生まれ変わって そっくりな君の姿が 目の前にあったとしてそれは君なんだろうか? 例えば転生して そっくりに作られた世界 でも目の前の風景 それは僕の思い出と同じなのかな?  いろんな色が混沌とした 散りばめられたこの世界で  やっぱり君に会いたいな どこにいるの? 君のいない街 坂道 街頭 そのどれもが  薄れていくように渇いていった そのどれもは  例えば生まれ変わって そっく

【短編小説】死神の森

その男 その日、いつものように森を散歩していると怪しげな格好をした男を見つけた。 その男は全身が黒一色で明らかに怪しい行動をしていた。 一生懸命大きな袋に何かを詰めているのだ。 そうして何かを大きな袋に詰め終わった男は周りに誰もいないことを確認して森の奥深くへと歩いて行った。 気になった私はその男に気づかれないようについていくことにした。 危ないことかもしれないが私は自分自身の好奇心が抑えられなかったのだ。 これを読んでいるみんなは絶対に真似しないように。 死神 今日が晴れ

もうここには彼女はいない

祭壇に添えた老人は粒々の涙を流し始めた 牢にいた生活のように 彼女のことを思い出しては嘆いた 帰ろう、ここにはいない 帰ろう、彼女はいない 祭壇に添えた花束に煌々と照りつける太陽の火 蝋に似た生活のせいで 彼女のことを忘れてしまっていた、と 帰ろう、ここにはいない 帰ろう、彼女はいない 見下ろした街に微笑む 洗濯物は嵩張ってカゴの外へ ドアの向こうに感じる あの温かい声で もう一度 僕の名前を呼んで 帰ろう、彼女はいない 帰ろう、ここには居ないから