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白昼夢「麒麟大天覧2019」のプランにあたって思ったこととか。0場~3場

前回からの続きです。
音をあてるにあたって考えたこととか、目的とか、工夫とかを書きます。
ただ、本編見た人しか何のこと言ってるかわからないと思いますし、見た人もどこのなんのこっちゃという感じだと思います…すみません。

・0場 名もなき選手達

おもむろに現れた妖怪達が謎の競技を始め、絶叫しながら謎の組体操をする謎のシーンです。意味がわからないけれども圧倒されます。

ホイッスルの音を作り直したりはしましたが、初演と基本設計はあんまり変えていません。歓声と音楽がベッタリ出たままでは面白くないので、アクセントとして歓声を手動で上げたり下げたりしています。必要なところ以外はオペレーターの操作にお任せしてみました。

ホイッスルの音をきっかけにして俳優が動いたりしているので、フロントSPの裏に仕込んだ返しSPにもこの音をこぼしています。
が、どうにも大声張り上げている本人達はぜんぜん聞こえていなかったらしく、センターにいた方がきっかけを拾って全体の指揮をとってくれていたようです。101MMの限界を感じました。

・映写機
映像が出る際に古い映写機の音を追加していますが、古い記録っぽくなるよう、同じエフェクターを数回通すことで、更に古いマイクを通した感じのカサカサした音に加工しました。
一回焼いた魚をもう一回焼いてる感じです。

・1場 キリンピック準備委員会発足

■会議室
・時計
当初は慣れない者同士のぎくしゃくした間を作りたかったため、外の車の音とか扉の開閉音なんかを色々入れようと画策していました。
建物の構造とか階段の位置とか外の風景とか、色々イメージを膨らませようとしていましたが、通し稽古を見てこの人達の感じなら入れないほうが良さそうだな、と思い直し、会議室の時計の音をうっすら流すのみにしました。
台詞の合間の間でちょっと聞こえるくらいのバランスで作ったため、それなりにうまくいったように思います。

・玉音放送
雲部の演説のバックで流れている玉音放送はトランペットスピーカーから流していますが、初演の位置よりも高い位置に設置したためあまり明瞭でなく、その補強として吊りのZXからもうっすら流しています。
初演の際、美術の蓄音機から実際に出ていると錯覚してくれた観客が多くいましたが、今回はあまりそういう印象にはなりませんでした。今回は道具とトランペットSPの高さが違うことと、蓄音機の向きが違うこと、舞台を見下ろす形になるから引きの構図になりやや没入感が薄れることが要因なのではないかと思っていますが、うーん…まだまだ技量が足りなかったですね…。

・ナレーション
ナレーションもトランペットSP+ZXで出す予定でいたけれども、ナレーションが男性の声になったことに加え、ナレーション曲の楽器が変わった(ブラス系が増えた)ため声がマスキングされてしまい、明瞭には聞こえなくなってしまいました。
聞こえやすさを確保するため、音像が表に引っ張られすぎない程度にフロント上空のSX300を足すことで補強しました。

・トラツグミ
転換ではたびたび鵺が出てきますが、ここではトラツグミ(鵺)の声を入れてみました。
ここでこの音とビジュアルの関連性を成立させておけば、この転換がただのオシャレな黒子ではなく、後の雲部暗殺のシーンに繋がると思うのですよね。
トラツグミの声は単体の素材が全く見つからず、録音状態がマシなものを拾ってきて、鳴き声の帯域(とその倍音)以外の雑音をイコライザーでバッサリ切り落とす形で作りました。
ので、単体で聞くとわりと関係ない雑音が入ってます。許して。

・2場 第一歩

■早池峰山
・エフェクト
天狗との邂逅では人の力の及ばないものとの遭遇を印象つけたかったため、吊りマイクを使って天狗の声に思いっきりディレイをかけてみました。

・風
ベースで流している風の音は、序盤に出会ってしまった格上感を出したかったので、大きい渦を巻いて唸っているような低い音と、すぐ近くで鳴る高い音を混ぜています。
竹とか鳴らしても歌舞伎っぽくなって面白かったかも…。

私は効果音集とかから引っ張ってきた音に気づくと「あーあれかー…」と意識してしまいがちな人間なので、単発の音や何度も鳴らす音は、なるべく同じ音をそのまま使わず、いちいち編集したりミックスしたりしてバリエーションを作るようにしています。
2場の扇ぐたびに鳴る風やテニスの打球は4~6パターン作ったり、オカズになるものを混ぜたりしてます。

・草むらガサガサ
座敷童子との出会いでは、草むらのカサカサいう音がいい感じのものがなかったため、稽古場近辺の茂みやら花壇やらをガサガサやって録音しました。

■テニス
テニスの試合、初演ではただただパワーという印象になってしまい大いに反省したのですが、試合運びが洗練されていたこともあり、今回はちゃんと試合として成立させた上で圧倒したいと考えていました。
そのため、座敷童が点を取るたびにボールが耳元をかすめたり、土が弾け飛ぶ音なんかを入れています。
本来客席の距離では聞こえるわけがありませんが、「強い」「勝てない」という印象に焦点を当てるために、打球よりもこれらの副次的な音を立たせています。
たとえば格闘漫画でヒュンッという擬音と共に背後に回られて、キャラと読者が「こいつ…只者じゃない…!」ってなるみたいな。

・変化球
今回新しく追加した変化球の音は、シンセサイザーの音を揺らせば作れそうでしたが、電子音っぽい感じの音は少なくしたかったので、潰した紙コップを動かしながらフーフー吹いた音を録音し、それを左右に移動するように調整して作りました。
などと言っておきながら座敷童の腕が伸びるのは前回と同じシンセの音ですが。わりと気に入っているのでそのまま流用してます。

・回想
座敷童が子どもたちのことを回想するシーンは他との差別化をしたかったのですが、音楽を下げるだけでは声量に対して物足りなかったため、気づかなくてもいいかなーというくらいの感じでうっすら風を入れています。孤独→沈黙→現実の音(音楽)が遠のいて心象風景の風だけが聞こえるみたいな、そんな感じの連想です。

・必殺ショット
初演の必殺ショット対決では風神雷神のイメージで双方共に雷だったのですが、今回は木の要素とインド神話(天空の神インドラの矢)っぽさ、のちに彼らが妖怪となる予兆として、安曇さん側だけ雷を鳴らしています。
座敷童子は球速が早すぎてほとんど発砲音。
ショットを受け止めているギャリギャリは蒸気の音と、グラインダーで金属を削り取る音をミックスしています。
弾き返したときには、なんだろう。『ドギャァッォォォゥゥン』みたいな音を入れてます。見た人には伝わると信じますが、このニュアンスはジョジョです。ハイ。

作中の人間たちの強さは信仰の強さだと思うので、最後の安曇さんの必殺ショットはあからさまに人外の威力にするつもりでした。
稽古場にて「卓真さん、今回の必殺ショットは雷と隕石とビーム、どれが一番イメージに近いですか」『えっ…隕石…ですかね…?』「隕石か〜じゃあ山ぶっ壊しましょう」という創世神話の神々みたいな会話をし、
雷と共にボールを打ち返す→トマホークミサイルみたいな音を発しながら遠くに飛んでいく→彼方の山に当たって地すべり→鳥がびっくりして叫びながら逃げ、それらの音より少し遅れて衝撃が伝わってくる…
という流れができました。完全に私の悪ふざけです。
天狗達もいい感じにそれを拾ってアワアワしてくれたので、一緒に作ってる実感がありましたね。
ここが作ってて一番楽しかったかも。

この辺りの音作りは、少年漫画や小中学生の頃に読んでいたファンタジーやらSFやら、能力と出来事の因果関係が作中で言及されているタイプの作品の影響を受けているような気がします。ジョジョとか。
色々な音を入れるとき、交通整理というか、因果関係を整理してハッキリさせていたほうが音の棲み分けや役割分担ができていいと思うんですよね。
直感で適切な音を当てられる人もいますが、私はそこまで完成された人間ではないので、天才に勝つには考えて整理するしかないのです…。

更に余談ですが、ネットが回る感じがテニミュに似ていたので、近い要素をなるべく減らそうと、後輩から青学vs氷帝を借りて研究していました(手塚ゾーンとかスネイクとか)。
方向性が全く違ったのでそれらに似ちゃうようなことはありませんでしたが、やっぱりテニミュとは言われましたね…。みんなテニミュ好きなんですね…。

・3場 土蜘蛛陸上競技会

■顔面劇場(奈良県 葛城山)
最初の顔面劇場のシーン、初演では鳥がピヨピヨいう声を立たせて間の抜けた感じにしていたのですが、もう少し開けた場所のイメージとのことだったので、舞台の真ん中上空のスピーカーからは主に風の音、奥の幕裏からは鳥の声と、出どころを分けることで距離感の調整を行っています。
森の中で突然開けた場所に陸上のトラックがあった、みたいなイメージです。

■赤線
前回と全く一緒なのですが、棒をつく瞬間のドン、と音楽の叩きを揃えてます。
一通り踊り終わったら、全体の音像を下げていって、背景としての店のスピーカーの音に乗り換えていっています。
私がよくやる手ですが、この際の音にはギターなどのアンプシミュレーターのプラグインを通しています。
この処理をすることで再生している(と思われる)スピーカーのキャラクターに近い音を作ることができます。イコライザーで弄るよりもよっぽどいいです。

■競技場
競技会では「ちょっと変な感じの歓声がほしい」とのことだったのですが、歓声のピッチを変えただけだとよくある魔人とかゾンビとかエイリアンみたいな感じになってしまい、その感じはちょっと…芸がないな…と思ってしまいました。
劇中での絡新婦、土蜘蛛は人の姿をとっていますが、この場の冒頭では顔に足が生えた人面蜘蛛みたいな姿で登場します。
観客席には蜘蛛以外にも人の姿でない妖怪たちもいるだろうということで、人間(形態)の歓声+明らかに人の姿でないものを混ぜる方針で、ネコ科の動物が喉を鳴らす音をベースに、テンポを合わせたエンジン音を重ね、ものすごいゆっくりにした上で音量や音程に変化をつけることで生き物っぽさを出しています。
既存の生物の声から遠ざけようとした結果、機械と生物の悪魔合体をさせることになってしましました。

・足が生える音
「位置について用意」で蜘蛛たちの足が出るところは、スーパーで買ってきたセロリを私が捻り潰す音です。ゾンビやエイリアンものの映画なんかではお馴染みの手法ですね。
セロリは豚肉で巻き、クレイジーソルトをかけて焼きました。もう録音以外の用途で買うことはないと思います。

・糸
糸を投げる音は必殺仕事人の効果音集から近い用途と思われるものを拝借しました。他は大体作ってるから見逃してほしいです。

・マイク
マイクのエフェクトは球場とか運動場とかに行ったことがなかったので、完全に想像です。
巨大な運動場の残響に加え、周囲の山々から帰ってくる山彦みたいな感じのイメージです。想像の産物なのであんまり説明のしようがないですね…。
Lexiconだとパラメータの調整が大変だったため、01v96内臓のディレイ+リバーブを使っています。

・大砲
レース開始の合図はピストルではなく、今回は大砲になりました。インパクトを優先したかったので近めの音で作っていますが、実際は距離がもっとあると思うので、マイクと同じように多少ディレイをかけてシーンに馴染むようにしています。

・歓声
テニスのように手順が明確なシーンではなく、音楽と歓声とセリフと実況とシーンの熱量、それぞれのバランスを同時に取るのは難しかったので、盛り上がりはほとんど歓声の上げ下げで表現することにしました。

■レース後
「土蜘蛛陸上競技会は~」からの転換は、(着替えに時間がかかるという事情もあり)ウソ年表のテロップに合わせてSEを出してみようということになりました。作中での「旅」は主に陸路(一部泳ぎ)での移動だったため、国外の怪物たちのイメージとも繋げるためにプロペラ機、船の霧笛の音を入れています。
(作家の米山さん的には「テュポーンや魔女が飛行機で来るのめっちゃ面白いと思うんだよね」とのことだったので、やっぱり日芸劇作出身の人はオモシロのセンサーが独特なんだと思います)

物語の大筋に戻ってくる「キリンピック開催決定」のテロップに合わせてもう一個何か入れたかったのですが、ひとひねりしたいなとウンウン悩んだ結果、結局シンプルに「妖怪たちが喜ぶ」というものにすることにしました。

思考能力がだいぶオーバーヒートしていた頃合いだったため、制作の補佐で来ていた大学の先輩の小野さんに「妖怪ってどう喜ぶんですかね」と相談したところ、「やっぱ笑うんじゃないかなぁ」「ケチャとか始まったりしても面白いよね」との意見をもらいました。
(彼とはプライベートでの交流はさほど多くはなかったのですが、彼の広い見識と演劇が好き、という気持ちに大いに信頼を抱いています)
「違う文化」の要素が自分の中にけっこう響いたので、ならば異物同士を混ぜまくってみよう!ということで、男たちが気合い入れみたいなことをする声と東南アジアのお祈りの歌(なんで持ってたんだろう)をミックス、そのうち魔女の笑い声が聞こえて、トロールみたいな野太い声、コロポックルみたいなかわいい妖精たちが興奮する声、スペインのお祭り、釣り鐘みたいなものをチリンチリン鳴らす音、と色んな種類の音に移り変わっていくようにしました。
これにより、一気に妖怪観のグローバル化を図ることができたように思います。
小野さんいつも助けてくれてありがとう…。演劇好きだしめちゃめちゃ親身に話聞いてくれるしでっかいし、小野さんの作るご飯おいしいし……。どうにか雇いたい…。

そんな感じで字幕と効果音が流れることで、着替え待ちの2~3分程の時間も待ちだなーと退屈せず、戯曲上にない新規の情報を提示する有益な時間にできたのではないかと思っています。これらの転換周りの音は、2年前の自分には全くできなかったと思います。


ひとまず今回はここまで。
次は4場からです。


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