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白昼夢「麒麟大天覧2019」のプランにあたって思ったこととか。基本設計編

舞台の演出、脚本、俳優に対する賞や評論はそれなりに多く存在しますが、技術スタッフの仕事が評価される機会はとても少ないと感じます。
再演でもない限りは、自分の仕事がどうだったのかなど振り返ったり、分析する機会もほとんどありません。

2年ほど前、縁あって会社に入ることになりまして。
それまでの環境に対しては未練も不満もありましたが、私のこれまでのメインフィールドだった「小劇場演劇」の音響の仕事はもうやれることはないかもしれないなぁ、という覚悟をしていました。
にも関わらず、今回は運良く白昼夢の「麒麟大天覧」再演のプランをやらせてもらうことができました。ありがたいですね。
なので、今回のプランニングにあたって考えていたこととか、忘れないうちに色々書き留めておこうと思いました。

これ自体は12月から書き溜めていたのですが、ぜんぜん終わる気配がなかったので小出しにすることにします。
この記事だけで4000字…。

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「麒麟大展覧」初演の会場は王子小劇場でした。プランがどうにも評価されたらしく年間の最優秀賞など頂いたりしたのですが、結局何がどうよかったのかに関する言及はありませんでした。
嬉しいか嬉しくないかの尺度で言えばそりゃ嬉しいのだけれど、なんとなく納得いかないなーという気持ちが未だにあります。

ので、自分の仕事についてできる限り振り返るようにしようと、今更思いました。

(この先、システム等の話や、専門用語がやたらめったら出てきます。
知らん単語が頻出する部分は適当に読み飛ばすことをオススメします)

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・稽古の様子を見て感じたこととか

内容は大きく変わったわけではありませんでしたが、前回より出演者の年齢層が上がり、重心の低い発声(これなんて表現すればいいんですか?)をする人が増えたことで、俳優の熱気!という部分よりも、役それぞれの言葉として受け取りやすくなり、主張や信念に目線が行くようになったな、と感じました。
前回は2次元的な平面の絵づくりが多かった印象でしたが、今回は前後や高低差を使った3次元の動きが大幅に増え、また戯曲にないセリフ(モブ妖怪たちの声とか)が頻繁に現れたりと、見えるものや聞こえるもののレイヤーが複数存在していた印象です。

当初は稽古場に正式に合流するまえからちょくちょく顔を出し、早めに音を準備しておく計画だったのですが、稽古場では細かい掘り下げの作業を入念に行っていて、通し稽古を早い段階で見ることはできませんでした。
しかし、それ故に初演の先入観が邪魔をしてしまうことを防げたように思うし、一つ一つの音や音量操作の役割を考える取っ掛かりも多く見つけることができた。ような気がします。

・スピーカー、マイク等の配置とか

初演の王子小劇場ではウーハー1+フルレンジ1のスピーカー1/1セットを舞台前面に2つ、舞台奥にも2セット配置し、舞台中に劇場のZX1を2発吊り、フロントSPの後ろに音楽やSEの返し用SPを2発、返しSP2発、エフェクトなどの集音用マイク2本、また、蓄音機の美術があったためトランペットSPを設置していました。

今回の劇場は上野ストアハウスでした。
当初は字や絵の描かれためくりのパネルが前面に出てくる予定だったため、フロントの1/1はカットして欲しい、奥の1/1も裏動線に干渉するためNG。
つまり全てのスピーカーを吊らなければならない、とのことでした。
王子では、空間の制約の多い小劇場にしては1/1が4セット組める+舞台奥にもそれが配置できるという非常に贅沢な条件でしたが、再演にあたってはそれらがカットされると音像の作り方が全く違うものになってしまうため、可能な限り再現できるよう交渉を進めました。
低音は床や壁を伝わりやすいためウーハーは床に置きたいし、舞台奥の1/1は前後のバランスやセリフ中の音楽の迫力を維持するためにも重要でした。
結果的に諸々の位置関係が変わってどちらもOKになりましたが、諦めないでよかった…。始めましてのカンパニーだったら粘れなかったかもしれません。

今回は王子よりも客席の傾斜があるため、前回の舞台前と奥に1/1を計4セット置き+プロセSPの構成に加え、舞台前面の1/1上空にSX300を追加で吊りこみました。
これは後方カバーの役目もありますが、前回、ナレーションや歌を全部フロントSPから出したところ、音楽やナレーション、生声がごちゃごちゃになって分離がうまくいかなかったためです。

舞台奥のパネルの裏にはBOSE 101MMを取り受け、吊りマイクの音とナレーションを返して出ハケのキッカケを取りやすくしました。
マラソンのシーンとか、奥の1/1がうるさくて出のきっかけ取りづらかったわよね…稽古場ではご不便おかけしました…。

スピーカーは
フロント1/1(ZX1-90+DXS15) ×2
サイド吊り(SX300) ×2
舞台中吊り(ZX1-90) ×2
奥1/1(SX300+ZX-SUB) ×2
FB(BOSE 101MM) ×2
パネル裏エアモニ(BOSE 101MM) ×2
トランペットSP(NZS-40) ×2
合計18発。
大抵の小劇場にもともと備えてある数は2~4発、多くても6発なので、
どうやら人より仕込みたがりな傾向にあるらしいです。
電話とかラジオとか、単発のSEを「そこで鳴らしたい」となるともっと増えます。

エアモニ用とエフェクト用を兼ねたガンマイクを2本バトンに吊りみました。
映像の画角に被らないようにとバトン直で吊りこんだけれども、よくよく考えれば灯体などもあるわけで、ケーブルで2,30cmくらい降ろして俳優に近づけても問題なかったですね…。
これらは袖中への声の返し、劇中のセリフへのエフェクトに使用しました。

エフェクターはYAMAHA 01V96内蔵のディレイ+リバーブを2系統、外付けでLexiconのMX300を使用。
天狗登場時の声、土蜘蛛の競歩対決のマイクの反響、将門塚のリバーブの三種を用意しました。
ディレイ+リバーブはバランスの調整がしやすかったため内臓のものを使いましたが、リバーブはLexiconのやつが圧倒的に良かったなぁ。
こうやって人はエフェクター沼にハマっていくのだろう。今はTCのリバーブが欲しいです。

小劇場規模の現場において、そこそこの値段で気軽に使えるハンドワイヤレスマイクの定番はLine6のV75です。wifiが飛んでる環境でも、指向性アンテナを正しく使えば複数本での運用もできる。
しかし今回は借りてくるほどの予算を回せなかったため、劇中のハンドワイヤレスはガナリによく使っていたAKGのB帯のものを使用。
許容入力を超えて音割れするかなとか思ったのですが、意外と余裕でした。場当たりでガナリマイクと兼用していた時に舞台監督のipadと混信していたくらいですね。チャンネル固定なので、特に既存のワイヤレスがあるようなホールでは危なくて使用できませんが…。

再生機にはAbleton Liveを使用。空間に合わせてエフェクトやEQをコントロールしたかったがキッカケの数が膨大なため、トラックがどんどん増えていってしまいました(稽古場では100くらい…)。

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マインスイーパの終盤みたいになってます。良い子は真似しないでね(PCが止まるので)。
ソフト上でエフェクトをかけている音源は少しずつバウンス(書き出し)してCPUの負荷を減らしていこうと考えていたが、変更や追加も多く、初めましてのオペレーターにそこまでの作業を任せることはできませんでした。
キッカケが膨大だけれども、定位はおざなりにしたくないため、Macから01v96にはスピーカーごと個別に分けたトラック26chを立ち上げ、各々音量を調整した音源を同時に再生することで音像のコントロールを行った。

01v96でPC出し26ch+吊りマイク2本+外部エフェクター2ch+内蔵エフェクト2系統+iphone+WLマイク+ガナリマイクを制御するのはなかなか辛くなってきました。
QL1があれば、Macと卓をLANケーブルで繋いでDante接続でスッキリできるのですが。

オペレーターのMac OSが10.8だったため、インターフェースは私が愛用しているFocusrite Liquid Saffire 56を使用。
26out取れるインターフェースはProFire2626とか、Presonusとか、Firefaceとかあるのですが、マイクプリ(録音)の音が好きで使い続けてます。
でもドライバの更新止まっちゃってるし、そろそろ限界かなぁ。

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・設計思想

初演では特に考えず思いつくままに音を当てていったのですが、時間をおいて再演するにあたって、自分の音の作り方や思想の変化によって、方向性のブレや「前回もこうだったから」という惰性が現れるのではないかという不安がありました。幸い上演台本は大きくは変わっていなかったため、今回はコンセプトみたいなものをちゃんと考えてみたくなりました。

妖怪はお祭り好きな連中だし、実行委員会の彼らもかつては天皇を神と信じ、その言葉や意志表明(とされたもの)に熱狂した人たちだ。
白昼夢の公演においてラストの踊りと歌はほとんど名物みたいなものだけれど、「麒麟大天覧」においては祝祭のような、行き場を失った人外のものたちが最終的にもう踊るしかない、という必然性があったように思います。
なので、その道程は一個一個、彼らが懸命に生きていたことの証明のために、派手にしてあげようと思いました。

今回は日付や妖怪のイメージの絵が描かれためくりがあったため、稽古を見ながら「シーンごとにそれらの属性を当てはめていけば面白いのでは?」「風、水、土…これにラストシーンの炎を合わせて4大元素じゃん!」などとオタクは喜びましたが、「では将門は?」という疑問が湧きます。平将門は登場する妖怪たちの中で唯一、特定の人物の怨霊です。武士、首塚に祀られている、雲部を呪い殺す、妖怪の中でも権力がある、などのことから鉄、武器、処刑、などのイメージがありました。あれ、これ五行だと丁度ハマるのでは。

天狗は風を操るものなので木。座敷童は腕を曲げたり伸ばしたりしますが、屈曲は樹木(弓とか)の持つ特性であるため、これも木でしょう。
蜘蛛は五行では木ですが、土蜘蛛と絡新婦は朝廷に恭順せず穴ぐらに住まうものであり、土の上(陸上)で競技を行っている、本編で「壁を越える」「子が生まれる」などの要素があるため、土に分類していいでしょう。
海女房と七人岬はまあ、説明するまでもなく水でしょう。海女房のシーンに追加したゴボゴボいっている音は、冷たさや佐須くんの停滞、閉塞感をイメージしています。もしかして海女房と将門の関係は土剋水(土は水をせき止め制する)のイメージで書いていたのでしょうか…。

将門は上記のイメージに加えて首塚の下で呪いを募らせてきた(土が育んだ)ものであるため金。妖怪が現れたときに鈴を鳴らしていますが、将門塚のシーンの冒頭ではバックで金属っぽい音を鳴らしています。2度目の将門塚も大空洞というより、巨大なシェルターをイメージしています。

残る「火」は、人がヒトとして発展する中で獲得してきた力であり、言語や行動を介して他者と共有する情熱、のようなものも人がヒトたる所以と言えるでしょう。言、心、汗は火の要素です。佐須くんをはじめ実行委員会の人間が火。
火水土木金、五行です。いい感じに揃ってくれてオタクの魂はにっこり。

文明と神秘(人や自然)との対比を作りたかったため、舞台上で発生している音、つまり印象やイメージ、概念の音以外のものは、シンセサイザーっぽい人為的なものは極力廃するようにしました。

こんな感じで続きます。



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