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白昼夢「麒麟大天覧2019」のプランにあたって思ったこととか。4場~6場

4場 大会開催決定、それから離別

■会議室
会議室のときは、最初と同じ時計の音を流しています。
人間の生活圏のときは間になにか音を入れたりせず、演技に集中できるような時間にした方が、妖怪との交流のシーンと差がついていいかなと思いました(もうちょっと音量落としてもよかった気もしますが…)。

■雲部暗殺
雲部暗殺のシーンで流れる「昭和の音」のコラージュ音源は、脚本の米山氏が作ったものです。
当初はコラージュ音楽と鵺の鳴き声、地鳴りと全部が2mixにまとまっていましたが、地鳴りも含めた手元での音量制御が大変になるのと、鵺の声の出どころを分けたいこと、場当たりで尺が変わるであろうこと(そして米山さんが脚本・音楽・映像を兼業しているため修正に手を割かせたくないこと)などから、別途コラージュ音楽、鳴き声、地鳴りをバラバラの状態でもらうことにしました。

コラージュ部分に突入してからは、音源が切り替わるたび、鵺たちが次々と中央の台の上に乗り、妖怪っぽい動作を披露していきます。
この際、最初は普段の音楽と同様の出どころの扱いでしたが、元々の音源が音量が常に最大値近くをキープするもので、シーンの内容的にも手元での音量操作でのアプローチには限界がありました。
そのまま流していたら早々に耳が慣れて飽きてしまったため、切り替えのタイミングで音源を細かく切り刻んで、切り替わる度にスピーカーの出どころがバラバラに変化してき、音量を操作しなくても音に変化が出るように作りました。

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一番下がコラージュ部分全体の音量をキープするために流しているオリジナルの音源、その上がトラツグミの鳴き声単体、それより上がスピーカー毎(Front 1/1,Side SX300,Fly ZX-1,Stage 1/1,FB 101MM,NZS-40)に分解したトラックです。
これに地鳴りが加わり、同時再生で9トラックを回しています。

これ自体は初演の際にも用いた手法でしたが、地鳴り、鵺の声などの要素が増えたこと、全体の音量をキープするためのトラックの追加などで着実な進歩はできていたように思います。
当初はただの思いつきでしたが、定位の変化を本編中の「鵺は人の混乱を糧にする」という情報にも結びつけられるな、とこれを書いている今、思っています。
本当は音量ではなく音像や位相の変化でパキっと割りたかったのですが、劇場機材と持ち込みの機材のパワーの差が大きく、音像移動のメリハリがあまり出せなかったことや、それによってパターンがあまり作れなかったのはちょっと勿体なかったです。

音が途切れた後に流れる鵺の鳴き声は舞台中上空のスピーカーから出し、台の上に乗っている鵺たちや、その更に奥の空間に意識が向くように配置しています。

鵺の後に地鳴りが流れ、暗転中での佐須と雲部の入れ替わり完了を確認したら、次の音源(鵺の声+地鳴り)に手動で切り替えています。
稽古場段階よりも転換に要する時間が長くなってしまったため、上がった感を出し続けるために地鳴りの音量アップを数段に分けて行うなどの小技を使っています。
切り替えの際にトランシーバーをキューランプ代わりに転換OKのサインを貰っていましたが、俳優の移動もその日の具合で変化するため、暗視モニターがあれば音量アップの見当をつけやすかったと思います。
設備や舞台監督の持ち物に頼ることになるので、小劇場の環境にはなかなか導入できないですが。

■会議室
・時計
雲部の死後。ああいうことがあったときの体感時間が狂ったような、自分が時間から取り残されているような気持ち悪さを出したくて、これまで会議室で鳴らしていた時計の音をゆっくりにして1.7秒くらいにしています。
1.5とか2秒とか、キリのいい数字にしないことで体感時間を狂わせる効果がある、ような気がします。
DTM界隈にはピッタリ症候群という言葉があるそうで、どうやら楽器の発音タイミングを節に揃えたり、エフェクトのパラメータを50とか70とか、キリのいい数字に揃えたがる癖のことを指すそうです。
私もどちらかというとそういう性質があるので、そういうのから外そうとちょっと意識した結果の1.7秒です。

・鵺の鳴き声
皆が去って佐須くんが一人になってから、資料をめくって投げ捨てようとするまでの間と、百舌鳥と二人で東京タワーを見るところ、2箇所でトラツグミ(鵺)の声を入れています。
最初の転換での鵺のビジュアル披露に合わせてトラツグミを出したことと、一つ前の雲部暗殺のシーンが繋がったことで、佐須の混乱や不安、喪失感だけでなく、死も予感するような不吉な雰囲気になればいいかなと思いました。
前者は佐須の個人的な動揺に対してのものであるのに対して、後者はもっと広い範囲の、社会や日本の話題なので、同じ種類の音ではあるものの、前者の音量は聞こえるギリギリくらいまで抑えて、後者の音を社会に広まる混乱やといった位置づけにしています。
尤もらしいことを言ってみたものの、ギリギリの音量感は私の趣味です。

また、ときどき鳴き声の中で音程を上下させることで、無機質になりすぎず、機械でも動物でもない、なにか意識の存在を感じるような不気味さを出しています。

・鵺の声「西ドイツミュンヘンにて云々」
もともと前回出演者+石坂さんの声をいじくりまわして繋げたものだったので、出演者が変わった今回も同じ音源を使用しています。

p41ヌエセリフ

こんな感じです。
一人づつ録音したものを切り貼りして重ね、様々な声が重なっているように作っています。次々と他の人の声に乗り替わっていく作り方では舞台上にいる鵺と音が乖離してしまうので、前回のこのシーンで鵺として出ていた、くわのけんるいさんの声をベースにしています。
前回は女性が多かったため、ピッチを変更した際に子供の声のように聞こえたりなど、自然と年齢性別がバラけた感じになりました。子供の声が入っていた方が不気味。

初演の稽古で一発目に出した時はリピートさせたり遅くなったりといった機械的な混乱を使っていましたが、「いくつもの声が融合している感じがいい」という意見を頂いたため、このように言葉としての流れを乱さない形に落ち着きました。

5場 (主に)平将門

(今更だけど各場にサブタイトルみたいなのつけてる意味なくない?)

■山口県、徳山
・環境音
演技の前後に聞こえる環境音は、波は舞台奥の1/1、カモメは舞台上空のZXから出しています。
また、波をウーハーを含む1/1から出すことで、小さいスピーカーから出すよりも波の質量を感じる音にしています。
前(全部)と奥で音像を分ける手法は小劇場界隈ではよく見かけますが、環境音は多層的なものですから、複数のスピーカーを制御する方法があるのならば、音源の位置を想定した配置をするとより音に深みが出せるようになると私は考えています。

カモメは大きい波音や声でマスキングされて音量がバラつくるためフェーダー固定のままにしていますが、波音はセリフとのバランスをとったり次に繋げたりといった操作の必要があるため、手元のフェーダーで音量操作をできるようにしています。

・シンクロの音楽
佐須が海を見ている時間を作ってから、手動で叩いています。だいたいふた波聞かせてからGo、という目安を作ってはいますが、この手のキッカケは自動で始まるように組むよりも、手動で繋げていったほうが俳優や客席の空気との相互作用が現れやすいので、なるべくそうしています。

・飛び込みの音
初演ではシンクロの演技中はただ音楽流しっぱなしだったのですが、楽しげな雰囲気を強調した方がこの後のシーンが映えると思ったので、馬鹿馬鹿しく見えるよう、今回は途中の入水のいくつかに音を入れることにしました。

皆が順番に飛び込むシーンでは最後に入水する篠原さんのあからさまにゴツい肉体が飛び込む時だけ、お風呂に飛び込んだみたいなドッボーンという感じの飛び込みの音にしてみました。
一匹だけ最前をびしょびしょに濡らすように調教されたイルカがいるみたいな、そんなイメージです。
ここの音は、過去に自宅の浴槽にお湯を貯めて録音したものをいくつか使用しています。

・泳いで去っていく音
七人岬たちがバシャバシャ騒ぎながら泳いで去っていくところはやかましくしたかったので、クロールや平泳ぎ、バタフライの音、犬が泳ぐ音を混ぜています。
アワアワ言いながら去っていく声に紛れるから、たぶん何使っても変わらなかったと思います。正直自己満足ですが、まぁ目立ちすぎてもよくないので…。

・渦潮
皆が去った後は、奥の方で鳴っていた波が舞台前方の方まで一気に押し寄せて轟音、佐須は呑み込まれ…カットチェンジ、というある種の定番の流れですね。
ですが、この次のシーンでは波に攫われたというより、渦潮で水中の世界に引きずり込まれたというイメージだったので、水に飲み込まれてゴボゴボいう音を挟んで佐須が溺れる絵を見せてから、次のシーンにカットチェンジしています。
ここを波だけで終わらせてしまうと次のシーンの頭が「波にさらわれたが助けられた」とか、そういう風にも取れてしまうので。

■海女房
・一杯のコーヒー
「一杯のコーヒー」の曲は、シーンの切り替わりを立たせるために、冒頭だけ全体から出し、赤線のときのように舞台奥の方に引っ込めてバックグラウンドの音としています。これにもアンプシミュレータとEQを噛ませて、テレビやラジオといったものから出ている想定で音を作っています。

・ブクブク
海女房とのシーンでは演出家からの追加オーダーで、「一杯のコーヒー」の歌に加えて、水中っぽい「ブクブク」を入れたいとのことでしたが、単純に泡や水中っぽいよくある音は使いたくありませんでした。
前回よりも郷愁、既視感、といった要素が強くなっていたように見えたため、佐須の停滞と閉塞感などのイメージと引っ掛けて、水中にいるようなゴボゴボという音と、遠くで泡がたまにボコッという音を薄く流しています。
あまりリバーブ感をふくよかにしたり、残響時間を長くしてしまうとよくある感じで面白くないので、海の底などではなく、巨大な泡のドームの中に彼らがいる感じで、音の反響を少なく作っています。

なんだか今書いていて思ったのですが、幼稚園の頃住んでいた、社宅の狭くて深い浴槽に潜ったときの音って、こんな感じだった気がします。

・ビブラスラップ
「海女房!」でめくりの絵が出る際にお約束の鈴を入れ、「バレてしまっちゃしょうがない」で正体を現したところではビブラスラップを入れています。
初演のときに「ビブラスラップ、めっちゃ合う!天才!」と一人で喜んでいたのですが、これ、妖怪ウォッチでも似た用途でビブラスラップ鳴らしてたんですね。知らなかった…。
でも、妖怪の音としてのビブラスラップって、いつ発明されたんでしょう?妖怪人間ベムとか、見てないけれど使ってそうな気がします。

・ME
MEという言葉に関してはなんだか人によって定義が違うので諸説あるのが現状ですが、ひとまず私はざっくりBGMと効果音の間に位置する音楽的な要素のある効果音、という認識でいます。

ミュージック・エフェクト(Music Effect)の略。効果音楽のこと。
より印象的・より感動的など、より効果的な演出を目的として用いる音楽のこと。BGMとは異なる。
(ヒビノ株式会社のページより引用https://www.hibino.co.jp/glossary/ )

将門の話題に移って将門塚へとシーンが変わっていくところ、ここだけはシンセっぽい人工の音を使おうと考えていました。ゴゴゴという低音でベタに不穏な感じの演出をしつつ、金属質のファーンという感じの高音を混ぜています。
違う音が入ってきたり音階が変わったりといった方法で変化をつけることで、音がまるごと入れ替わらなくても空気を変えたり、次のシーンに引き継いだり、戯曲や演出の内容に伴った劇伴としての効果をだすことができます。
ここからの流れはもうベタに少年漫画なので、ここはあざとくいったほうがいいんですよね。

・録音
ここの海女房の声は次のシーンへの着替えの時間を稼ぐために、途中から録音の声に切り替えています。黒幕である将門の登場を予感させる印象的なセリフでもあるため、効果的な演出にもなっていたと思います。
これだけ本番用のインターフェース(Saffire Liquid 56)で録ったため、作中で流れるセリフの中で一番いい感じの音質になってしまいました。ナレーションも全部この子で録りたかったな…。(ナレーションはFocuslite Saffire PRO 14で録音)

■将門塚
・ME
シーンが変わったときに前のシーンから続いている地鳴りとシンセから変化をつけたかったので、将門の登場までの間に金属を叩いている音を入れてアクセントとしています。
先に書いた金の要素というだけでなく、これは誰かが加工した金属を誰かが叩かないと出ない音なので、権力を持った存在の予感っぽくなるかなという期待がありました。
観客がそういう印象を持ったかはわかりませんが、金属を叩いた音って礼拝とか除夜の鐘とか警報みたいで、人の営みっぽくないですか?

・残響
将門塚は土の洞窟というよりもシェルターみたいなイメージだったため、セリフに少し硬めのリバーブをかけています。セリフの邪魔をしない程度に初期反射を遅らせて、かつ声が大きくなったときだけかかるくらいに設定していました。将門の立ち位置はマイクに近く声もよく通るため、彼だけはほとんど常にかかる感じになってた気がしますが。
01v96の内蔵エフェクトではなく、LexiconのMX300で作っています。YAMAHAのリバーブはちょっと飽きたというのもありますが、木綿豆腐と絹豆腐くらい残響の細かさが違います。するっと入ってくる喉ごし。

・雅楽
将門が登場してからは雅楽を流しています。最初の鳴り出しのインパクトだけMと同じ扱いで音楽に使っているスピーカーから出し、以後はセリフを邪魔しないように奥の方に音像を移動しています。
要するに、出囃子をそのままBGMに持って行っています。

太鼓の音だけ切り出したトラックを同時に回して、(ワンピースだったらここでドン、って入ってるだろうなぁ)みたいなところでちょっと音量を上げてインパクトを付けてます。この辺りはセリフとの絡みも毎回一緒ではないため、ここの操作は何箇所かの指定だけでオペレーターの感覚にお任せしちゃいました。
将門は妖怪の中で権力を持っているキャラクターなので、音も流しっぱなしではなく人為的な要素を感じられた方が面白いなぁという、後付けの意図もあります。

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上が雅楽の本線、下がローパスフィルターを使用して太鼓の振動だけを取り出したもの。欲しいのは太鼓じゃなくて印象なので、太鼓として聞くとちょっと変な音ではあります。

安曇さん登場で笛のフレーズを単発で大きく出し、それに紛れて雅楽の本線をフェードアウトしています。
ここで無音にしてしまうと急に素になって面白くなかったので、先ほどと同じ低音だけのトラックを残しています。
これもオペレーターが鼓手みたいな感覚でやってもらいましたが、あからさまに上げると電気的な印象が強くなってしまったので、体感する振動が強くなったと感じる程度のわずかな上げ下げ(1,2dBくらい)で十分な効果が出せました。
ほんとうはサンプラに入れるなどしてリアルタイムに叩くのが一番合うのですが、演奏は音響とはまた違った職能ですからね…。

6場 聖火リレー

聖火リレーの一連は、めくりに合わせて鈴を鳴らしている以外、だいたい初演と共通の音を使っています。
この芝居の音キッカケの半分以上はテニスとマラソンなのですが、前回感覚でやっていたことを他人に引き継ぐことはやはり困難でした。覚悟はしていたのですが。
あの舞台上の動きとセリフを追いながら、短時間に密集しているキッカケを叩きながら音量上げ下げしながら台本もめくり、かつプランナーからの要望も反映し修正していく、とか。どんな慣れている人でも混乱します。

・沖縄の音
基本設計は七人岬の時と同じで、主に上空からかもめ、舞台奥から波とセミが聞こえています。

ここでけっこう自分的に恥ずかしい失敗をやらかしていまして。
沖縄に縁のある方はお気づきだったかもしれませんが、
沖縄にミンミンゼミはいません。
「ここは初演とやることあんまり変わらないし音ネタも共通でいけそうだからいっかー」と思いあまり精査していなかったのですが、見事に裏目に出ましたね。
いいですか皆さん。
沖縄に。
ミンミンゼミはいません。
下調べ大切。

・怨念
将門の怨念の音はラフレシア再演(2017年)でも近い音色の音を使っていますが、頭に人の声のようにも聞こえる音を混ぜて怨念っぽいニュアンスにしています。(RPGツクール2000のプリセット効果音をいじくった経験のある人なら、なんとなく分かってもらえると思います…)
この一連は将門の怨念による変化のため、めくりに合わせた鈴の音は他の妖怪たちよりもピッチを下げています。

将門登場で怨念→めくりで鈴→ナレーション→佐須のリアクションを見てナレーション という流れのため、この近辺は手数がとんでもなく多いです。
音が絵から乖離しすぎないようにタイミングを調整しつつ、セリフと効果音同士の繋がりを聞きながら叩いています。

・妖怪による妨害
渦潮と突風は両方とも、音楽扱いで全体から出すもの(A)とセリフの背景になるもの(B)とでトラックを分けています。
佐須が妨害を受けて「ウワー」とか「畜生―ッ」とか言うところで(A)の渦潮や風をグッと煽り、実行委員会の仲間が台の上に登場するところで一気に音量を落としてガクッと落差を作り、少年漫画でよくある「この一瞬でこいつらどんだけ喋っとるねん」みたいな二人だけの時間を作っています。
このときに背景の音量をキープしている(B)があることで、音楽と(A)をガクッと落としても下げ過ぎの事故や音が途切れる感覚を誤魔化すことができます。
この音量操作は荒っぽいですが、殺陣をしながら喋るタイプの演目ではわりとよく見かける手法で、おそらく2.5次元演劇なんかでもけっこう使っているんじゃないかなと思います。

今回の風や波は(A)に(B)に入っていない音源を混ぜることで、音に厚みが出るようにしたり、(B)になったときに台詞に意識が向きやすくするため、距離感の違う音になるように作っています。

・妖怪変化
妖怪変化の音は手持ちに三味線のソロ演奏で丁度いい感じのものがあったので、それをフレーズで切り分けて編集したものを3パターン作ってそれぞれに当て込んでいます。
三味線に限らないと思いますが、西洋音楽の骨組みで作られていない演奏は安易に音と音の間を合計何秒カット、という編集をすると変になってしまうので難しいですね。

同時に出しているミシミシいう音は蜘蛛の足が出るときと同じく、セロリをねじ切る音です。急激に肉体が変化するのだから、骨格が変化しているとか、肌に鱗が生えてきているとか、そういう変化に見えていたらいいなぁ。佐須のためにその苦しさや違和感に耐えていると思うと、彼らの決意の強さが際立つじゃないですか???

妖怪に変化しきった時は、海女房が正体を現したときと同じビブラスラップを入れて「妖怪になったよ!」というアピールをしています。
音で条件付けをして作中の別のシーンや観客自身の記憶と結びつけようとする試みはわりとよくやるのですが、先述した気づきのせいで、ビブラスラップを聞くと私は妖怪ウォッチのことを思い出すようになってしまいました…。見たことないのに…。

妻鳥の変化は一発目なのでこの3点でシンプルに作りましたが、沓塚と畝傍、百舌鳥のときは変化をつけるために色々とおかずを足しています。
座敷童は腕が伸びるときの音、土蜘蛛と絡新婦は三味線の弦をギリギリ擦る音などと、それぞれのイメージに近づけるような音を使っています。
…というのは建前で、「着替えが安定しなくて三味線音が余ったり終わったりするから、進行具合で何段階かに分けて叩くことで時間を合わせよう」というのが当初の動機でした。結果的に色々な音が鳴って華やかになりましたが。
着替えの進行具合に合わせて音を次々出していますが、その時の状況や音の流れによって変わるので、間に入れている音のタイミングは大枠のルールだけ決めて、細かいタイミングはオペレーターが聞いていて成立するように委ねました。

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上二つの流れをざっくり図解するとこんな感じです。台詞とか数字は適当です。
Aが全体に出ている大きい音、Bがセリフ中で背景として流れている音。
Aが大きく出ている時はBは隠れています。
沓塚が入ってきたらAをガクッと下げ、その後佐須の「やめろー」に乗っけてアップ。
その後、沓塚の動きや着替えの進行具合に合わせて三味線(SE1)だの腕が伸びる音(SE2)だのを入れています。
実際は音楽のABと風のABがあるため、もっと同時に走っている線が多いです。台本の書き方によるけれども。

・群馬の妖怪
初演では風や渦などの効果を体で表現する演出でしたが、再演では妖怪たちが物理的に妨害をするようになりました。
九州と島根ではほとんど音を変えずに行けましたが、群馬の妖怪が壁を作るところは地鳴りだけで作っていたため、迫ってくる動きをする水や風と違って、音量の上げ下げで間を持たせることが困難でした。
演出家からは「壁ができる音」とのオーダーでしたが、ここだけのっぺりした間ができてしまうことに物足りなさを感じていたのではないかと思います。(私もその違和感を感じていたはずだったのですが、当時はどうすればいいのか分かりませんでした。)
妖怪が台上に現れる→めくりを妨害されている時の絵に変える→下に降りてきて佐須を妨害する という流れだったため、これらの動きを利用して台下に降りてきたときに合わせ、壁ができました!というていで太鼓を入れています。太鼓単体だけだとインパクトに欠けるため、太鼓は二連打にし、わかりやすい「ドーン」という音、拍子木のような乾いた音を重ねて厚みを出しています。

文字で表すなら、「かっべ、かっべ、かっべ、かっべ(めくりが完了する)、かーべー(飛び降りる)」(SE:ドドーン)「ちくしょーこんな壁!」という感じですか。ボイスメモみたいなの貼れれば説明が楽なのに。

■中央区
中央区にたどり着いて「ところが」と共に音楽がカットアウトするところは、「ところが」で物語のクライマックスです!あらゆる困難を乗り越えてきっとうまくいく!という期待を裏切るために、体感的にここが作中の最大音量になるようにしています。
前回は「ところが」を聞いた後に音楽C.Oとしていましたが、今回は客席の傾斜や劇場タッパに合わせてナレーションの出どころを変更したため、大音量下ではどうしても声が埋もれてしまい、音楽をあまり上げることができませんでした。
そのため、今回は音楽を切ってから「ところが」を出すようにしました。

・雑踏
中央区の雑踏は、今回は「急激な開発で作り変えられていく街」という風景としての役割よりも「人の興味が向かなくなってしまった」方にフォーカスするために、工事の音よりも雑踏のほうを際立たせています。
ベースの雑踏に過去に作った手持ちの雑踏を8種類くらい混ぜ込んで、車の音や自転車、人を呼ぶ声など色々な音が聞こえるようにしています。
佐須が人にぶつかられる動きがあることから、靴音などの近接している音をもっと立たせてもよかったかもしれません。

・意識が遠のく音
「みんな自然に忘れてしまったんだ」を聞いて佐須の意識が遠のいていくところは、雑踏全部が残響だけのものに乗り代わっていき、皆が佐須を呼ぶ声も残響だけになっていき、その残響が消えていって世界から取り残されていく、という某茶房で私がよく使っていた手を使っています。

PAやレコーディングにおいて、原音とエフェクトのかかった音をそれぞれドライ/ウエットと読んで区別しますが、Ableton LIVEに標準搭載されているものはプラグイン側でドライ/ウエットのバランスを0~100%で調整できるので、キッカケで徐々にウエットに乗り代わっていくようにキューを打ち込むことができます。
リバーブとしての性能にはあまり満足していませんが、これを外付けのエフェクターでやろうとすると、操作や回路構成が煩雑になり、再現も難しくなるので非常に助かっています。

■空の上?
・天界の音
天界?の音は、前回のものをベースに布のはためきを追加しています。
旗を掲揚するためのロープがアルミのポールに当たる音、長く唸る風の音2種、たまにウインドチャイムやハンドベルのような音階のある単音、布がはためく音などの5種類のトラックを再生しています。
低い音域の風はフロント1/1、布のはためきはFly SX300、高い音域の風とロープ(うっすら)は舞台上空のZX、舞台奥1/1からは金属の音やロープの音といった具合にバラつかせて配置しています。

今回追加した布のはためきは、手元にあった音源には風に吹かれるマントみたいなものが多く、欲しいニュアンスがなかった(布の大きさや質感が違う)ため、稽古場に着ていった上着や、稽古場の幕をバサバサやって録音しました。

・麒麟の声
日本橋の麒麟が佐須に語りかける声は、ナレーションと同じ米山さんの声ですが、ナレーションとの差をつけたかったため、アンプシミュレーターを通して多少ビリビリした感じの声にしてみました。
また、このシーンは麒麟のセリフだけで進行していきますが、最後の「これから、何を見る?」という言葉だけは佐須のリアクションを見てから発するものであるため、ここだけは時間やキッカケではなく、オペレーターが佐須と会話しているような感覚で、別で叩いて出すようにしています。

これは全自動でも進行上に問題はありませんが、先にも述べたように、音響だろうが舞台監督だろうが、舞台上の表現には俳優的な時間感覚を介入させたほうがいいと個人的に考えています。
細部に神は宿ると言いますが、そもそも条件を揃えてあげないと降りてこないですからねぇ、神。

■将門塚
・風と水滴
将門塚の風は重くて起伏の少ない、無機質な印象のものを選びました。風というよりも、重い空気の塊が流れる音というイメージです。
風がメインですが、変化をつけるために将門塚に初めて来たシーンで使用した金属音も薄く足しています。

水滴は演出家からのオーダーで入れたのですが、これは奥と上空の2トラックに分割し、質感や間隔の異なる水滴を距離、音量をバラけさせて配置し、環境音の一部として乖離しないようにました。
演劇でよくある「ポチャーン(リバーブ)→明転→同じ間隔で単発の水滴エンドレス」の流れは絶対に使いたくありませんでした。何故って…主に宗教上の理由で…。

・佐須(麒麟)登場
ここでも妖怪登場時の鈴の音を入れていますが、音程をずらしたりリバーブを足したりしたものを三種足し、品を損なわず地味すぎず、といった塩梅を狙いました。
何度も使う音にアクセントをつけるためにピッチを上げたりリバーブを深くかけたり重ねたりといった方法はメジャーで私も使いますが、
再生速度を変えたものを重ねたり、音程の高いものだけに残響を足したりといったズラしを作ることで音に厚みが出したり、ベースにしたい音の輪郭を際立たせることができる、ような気がしてます。結局ケースバイケースなので。

・線を引く妖怪たち
彼らが線を引き始める際に音を徐々にフェードアウトしていっていますが、いきなり無音にならないよう、台詞中から水滴を消していき、線を描き始めてからゆっくり風を止ませていくという二段階に分けて変化が急激にならないようにしています。

■キリンピック開会式
・音楽と歓声
鶴を折り始める妖怪たちの咆哮に重ねて、冒頭の運動する妖怪たちのシーンと同じ音楽、歓声を流しています。
歓声は最初のアタックだけ全体から出し、その後は俳優の声やナレーションをメインにするために音像を奥に移しています。

・実況、ナレーション
俳優全員の叫び声で聞こえなくなってしまうため、他のシーンのナレーション音像に加えてフロント上空の吊りSX300、舞台中の吊りZXへの送りを強めました。
このシーンのナレーションは実況と伝記としての語りとの二種があるので、前者のものにはレトロ系のフィルターは使っていません。
実況には土蜘蛛レースの時にマイクにかけたものと同じ系統のディレイをかけ、それにリバーブを強めにかけています。
エフェクト成分を舞台奥、ドライの本線を前の方に寄せることで、内容を聞き取りやすくしています。
また、妖怪たちの入場行進の部分と「それではこれより云々」からの部分で分けて、鶴が完成しないうちに次が始まってしまう事故を防ぐための保険をかけています。

後者は佐須による回顧であるため、フィルムの音やラジオ系のノイズを混ぜこんでいます。
録音の際のマイクは他の部分と同じBETA57を使用したのですが、いざスピーカーから出してみたらジャキジャキな声になってしまっていたので、もしかしたら声質、マイク、マイクプリ、マイキング等の相性が適切じゃなかったのかもしれません。モニタースピーカーがあればもう少し早い段階で気づけたのかもしれませんが。
後付のEQでどうにかすることもできなかったので、ここは少し反省でした。

ここで聞こえるのは音楽+歓声+フィルムのノイズ+ナレーション+俳優の叫び と全部盛りな感じで、強行突破でギリギリ内容が判別できるかどうか、というところが精一杯でした。前述したジャキジャキ感もあり、真ん中辺りの席や、立っているタイプの耳の人たちはちょっとキツかったかもしれない…。

・炎
聖火から火をもらいトーチに火が灯るところは、当初は一斉に火が「ボボボ」と灯る音で作ったのですが、演出家と話をするうちに、灯された火種が拡散していくイメージの方が近いということがわかりました。

とはいえ作り直そうにもいい感じの着火の音が運悪く手持ちにはなく、身の回りにあるもので録音しようにも、音になるほど激しく点火できる物はありませんでした。
いろいろ考えた結果、「火が点く音は物体が燃える音というより燃焼で空気が動くことで聞こえる音だから、風寄りの音じゃない?」という発想に至り、マイクを直接吹いた音を複数録音し、それを中心からバラけて広がっていくように配置し、それらと火柱のような激しい燃焼の音を同時再生することで炎が拡散していく様子を作りました。

鶴が聖火のように台座に捧げられる瞬間のインパクトと、赤い折り鶴のタワーが周囲に置かれていく様子に合わせて火が拡散していく音の二段階に分けていますが、
前者で火の印象を与えたところであれば、本来不自然な音であるマイクの吹かれの音も火として認識できるであろうという目論見です。

炎編集

↑これらを同時再生しています。上から順に
・点火(2度目)のインパクト
・舞台奥
・舞台中吊り
・舞台前方吊り&フロント1/1
の順となっています。写っているのはぜんぶ私の息です。ボイスメモ貼りたい!!

録音をする際には基本としてマイクに息が当たることやメーターを振り切って音が割れること、不要な低音が入ることなどを避けますが、ここに関しては意図的にクリップさせたり低音を持ち上げたりと、それらを積極的に取り入れています。
プラモデルを戦わせて一人遊びしながら効果音や台詞を一人でやっていた幼少期の経験が役立っているような気がします。ゾイドが好きな子供でした。

■アーティファクト・スポーツ
炎がメラメラと燃える音の中で全員が手振りのユニゾンを行い、その何回目かの動きに合わせて音楽と映像が同時に入ります。
曲が入るまでは具体的なカウントになるものが存在しないので、俳優同士で共有されているリズムに音響・照明・映像のオペレーターが同調して再生しています。
炎の音は曲の前奏の中でゆっくりと時間をかけてフェードアウトしています。

初演ではフェーダー位置-20でスタート→前奏中に0までアップ→時報で+5→時報の次の音で-7、間奏のストロボで+10してすぐに戻す、というようなアグレッシブな音量操作を行っていましたが、
今回は照明の変化に極端なパーツが少なかったことや、振り付けのアクセントが付く箇所が初演の音ハメのポイントとズラしてあったこと、また初演よりも振り付けや構成が戯曲の内容に即したものになっていたことなどから、表現に伴う極端な音量操作はかなり減り、何か要素を拾って合わせようというよりは各々のベストパフォーマンスが並んでいる、というなんだかストイックな光景になりました。

当初は操作を簡略にしたり出処を分けるために時報やアクセントのシンバルだけを抜き出したトラックを別で貰おうと画策していたのですが、制作ソフトのバージョンの関係で原本のデータが参照できないとのことで諦めました。再演はそういうこともあるのですね…。

・プレスコ
いくら声の大きい人たちが集まったって、たかだか7人で爆音で音楽が流れているスピーカーの後ろからの声を通すのはそう簡単なことではありません、というよりほぼ不可能です。
このように生声の声量が音楽に負けてしまうけれども音楽を下げたくない、人数が少ないので歌に厚みを出したい、などといった場合、
①ワイヤレスマイクをつけてPAする。
②予め録音した歌や台詞を合わせて再生する。
③観客の近くのスピーカーの音量を抑えて声を通りやすくする。
などといった方法が考えられます。
今回行ったのはこのうち②の方法で、アニメや映画の話題で出てくる「アフレコ」とは逆に、予め歌や台詞を録音しておくこと、プレスコと呼ばれる手法です。
いわゆる口パクにしてしまう場合もありますが、今回は出演者の生声の補助と増量のために使っています。

録音に際してはBETA57を2本マイクスタンドで立て、人数の少ない女性をマイクの近くに、声の大きい人を後ろに、といった具合に配置して録音しました。綺麗に聞かせる類のものではないので、2mくらいのオフマイクで録っています。
スピーカーから出している音源が入ってこないよう、マイクは指向性の強いものを選び、音楽を流しているスピーカーはマイクの後方に設置しています。

編集の際は音楽と録音したトラックを並べ、タイミングのズレは許容範囲に収まるように細かく切り分けて配置し直しています。

スクリーンショット 2020-09-11 19.13.17

↑一度目はテストで回しながら移動して貰って調整、二度目でOKテイクとなりました。
自然さよりも厚みを優先したかったため、音源のLRを入れ替えた上で僅かにタイミングをズラし、1テイク目のものと重ねています。
波形を見るとLRの音量差がありますが、入れ替えて重ねたことでこの差は軽減されています。また、歌い出しは何を言っているのか分かるように少し強くしてあります。
コンプレッサーは最終段に音割れ防止のリミッター程度にかけていて、画面上のものは機能させていません。

これによって都合21人ぶんの声が場内にあったことになりますね。
大劇場でやる演目だとコロスやそのシーンにいない俳優が出てきて一緒に歌ったりするのですが、まぁ小劇場ですし。

■客出し
俳優の「きをつけ、礼」「ありがとうございました」の後に「上を向いて歩こう」を流しています。初演のものよりもレガシー感が欲しかったので、フィルムっぽいノイズを混ぜています。

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あとがき的なやつ

…だいたいこんな感じですか??で、いいですか???
おそらく書こうと思えばいくらでも書くことが湧いてくるのですが、一旦ここで投稿しておきます。前回更新(3/7)からこれを書いている現在9/11まで、半年経ってますし。
最初の方は画像キャプチャとかあまりしていなかったので、思い出したようにいろいろ加筆や修正をすると思います。

楽しかったー。
こんな未来が来るなんて思っていなかったので、もしかしたらこれが私が最も自由にアレコレやれた作品だったのかも。

記録というかアイデア帳みたいな感じの内容になってしまいましたが、人の方法を真似てみたり、欲しい結果に対して違う角度で切り込んでみたり、効果音の構成要素を分解してみたり、wikipediaで読み漁ったものを応用したり、といった思いつきと模倣の数々でできていますし、結局はそういったものの集積がその人個人のデザインや技、美学、信条などといったものに表れるのだとおもいます。

安全面に関しては「正しい」方法を用いるべきですが、デザインやオペレートに関しては究極的には「作品に合っていればいい」という世界だと私は思っています(勿論TPOとか要望とか、そういうの諸々含めた上で、です)。

所属や経歴なんて正直あまりアテにならないので、私も油断していると優秀な若手に追い抜かれていくような歳になってきましたが、特に若い(と自覚している)世代の舞台音響家には、創意工夫、「仕事ができる」人のやっていることの分析、ライブラリやフリー音源や、定番の機材だけに頼らないフットワークの軽さを持って楽しく仕事をして欲しい。
人の物とったら泥棒だけど、技術は盗んでナンボのものですし、形になれば過程なんて大抵どうでもいいものです。
もちろんそうじゃない界隈もあるけれど、小劇場でプランをやりたいと思う人には、特に。

そんな感じです。みんなどんどん私を追い抜いていってくれ。

最もらしいことは言えないので、この辺りで一旦終わろうと思います。

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