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大学病院と僻地医療、学習の動機づけはどの様に異なるのか考える【自己決定理論】

こんにちは、じょんです。

今日、臨床実習先の先生と「学習のモチベーション」の話をしました。

組織の中で頑張る人と、地域で一人(もしくは数人)で頑張る人では力の入れどころが違うよね、という話。


気になったので、もう少し具体的にみていこうと思います。


この話には、2人の医師が登場する。

1人は大学病院で働くゆにば医師。専門は高血圧。

もう一人は、地域の診療所(離島、などをイメージするとよいかもしれない)で働く離島医師。救急型の初期研修病院を出て、大学の規定でそのまま離島に就職することとなった。

2人で違う箇所はどこか。

例えば、周囲(リアルワールド)に居る医療従事者の数。

「だいがくびょういん」は細分化の鬼?

大学病院は細分化の鬼であるから、あの先生は2型糖尿病を専門にしている先生、あの先生は妊娠糖尿病を専門にしている先生、あの先生は糖尿病性網膜症を専門にしている人‥‥‥。
と、全て異なる人が担当している。

大学病院、そこは持ちつ持たれつの環境である。

ゆにば先生の専門は「高血圧」である。
食生活の悪さから糖尿病になってしまった患者さんの「血圧」は治す事ができても、糖尿病の管理、は難しい。

そんなときには、2型糖尿病を専門にしている先生に話を聞いてみたら良い。
聞けるように、普段から良好なコミュニケーションを取っている(少なくともマイナスイメージは持たれていないような)必要がある

患者さんの糖尿病のコントロールはできたが、最近目が見えにくくなったらしい。どうも、黒い羽虫が飛んでいる、そんな感覚がある、とのこと。

そんな時、ゆにば先生は糖尿病性網膜症を専門にしている眼科の先生に相談してみれば良い。


ここだけ見ると、

おいおいゆにば先生、人に頼ってばかりじゃなくて『自立』してくれよ…


ここまで読んできた人は、そう思うかもしれない。


でも、そうではないのだ。
確かにゆにば先生は、糖尿病のことだったり、それに合併する網膜症のことは他の先生に頼りっきりである。

しかし逆に、他の先生から「ゆにば先生、ちょっとこの患者さん、最近血圧が上がってきてるみたいで。どんな治療法が良いかな」と相談されることもある。


繰り返すが、持ちつ持たれつの関係、なのだ。
短いスパンで見ればどちらかがもう片方におんぶに抱っこ、の状態かもしれない。勿論疾患の発生率、とかそういう点で多少の偏りは生じるが、最終的にはお互いに助け合う、という状況になるはずだ。


その疾患のエキスパート、1つの歯車として動く、それが大学病院など、細分化された場所で働く医師だと感じている。

一つ付け加えるが、「歯車」という言葉にマイナスイメージは入っていない。「社会の歯車」という言い回しには、その歯車を構成する1つ1つには感情がない、ロボットの様に動き続ける、というイメージがあるかもしれないが、そうではない。

自己調整学習。それは「動機づけ」の徹底考察

さて、モチベーションの話をしよう。
まず前提として、モチベーション、は幾つもの仮説、というか通説、がある。
ここではDeci さんと Ryan さんが主導で展開してきた「自己決定理論(Self- Determination Theory; SDT)」という物を紹介する。

自己決定理論は認知的評価理論, 有機的統合理論, 因果志向性理論,基本的心理欲求理論,目標内容理論の5つの理論から主に構成されるが、今回は2つ目の有機的統合理論の話だ[1]。

[1] Ryan, Richard & Deci, Edward. (2000). Self-Determination Theory and the Facilitation of Intrinsic Motivation, Social Development, and Well-Being. The American psychologist. 55. 68-78. 10.1037/0003-066X.55.1.68.

この理論は、内発的動機づけと外発的動機づけ、という見た目相反する2つを、両極に置き、その間を更に分割することで学習者の「自律性」を表現したものである。

なるほど、さっぱり分からん。


言葉だけではわかりにくいのでイラストも入れながら見ていこう。
まずは内発的動機付けと、外発的動機づけから。この言葉自体には馴染みがある人もいるだろう。

内発的動機づけとは: 「内面に沸き起こった興味・関心や意欲に動機づけられている状態」を指し、その動機は「金銭、食べ物、名誉など外から与えられる外的報酬に基づかないもの」であるとされる。

リクルートマネジメントソリューションズ, 人材育成・研修・マネジメント用語集, 「内発的動機づけとは」, https://www.recruit-ms.co.jp/glossary/dtl/0000000048

つまり、見栄とか名誉とかお金儲けが出来るとかそういった物を取っ払って、「僕は私は純粋な知的好奇心でこれが知りたいの」という時、「君は内発的動機づけで勉強しているんだね」と表現する。


次に外発的動機づけとは、内発的動機づけについて理解した後だと分かりやすいかもしれないが、以下の様に説明される。

外発的動機づけとは、「行動の要因が評価・賞罰・強制などの人為的な刺激によるものである」という考え方のことである。

リクルートマネジメントソリューションズ, 人材育成・研修・マネジメント用語集, 「外発的動機づけとは」,https://www.recruit-ms.co.jp/glossary/dtl/0000000030/


例えば「明後日テストが有るから勉強しよう」「このレポートを書いて提出したら2000円もらえるから、頑張ろう」というときには、「君は外発的動機づけに基づいて勉強しているんだね」と表現する。

勿論この定義には少し問題があり、「自分が内発的動機づけで勉強しているなんてどうやって判断するんだ」「人は周囲に影響されるんだから、完全な内発的動機づけは成立しないじゃないか」という文句も有るだろう。一旦‥‥‥目を瞑ってほしい。


話を戻そう。

自己決定理論の中の「有機的統合理論」は、この内発的動機づけと外発的動機づけを両端に取って、その間ーー外発的動機づけから内発的動機づけに移行するーー過程を4つのフェーズに分けたものである。

順に、

  1. 外的調整(外発的動機づけ)

  2. 取り入れ調整

  3. 同一化調整

  4. 統合調整

  5. 内発的動機づけ

の5つだ。

新しい概念がたくさん出てきて、しんどくなってきた頃かもしれない。
ゆっくり説明していくので、自分のペースで読んでいってほしい。

外的調整(外発的動機づけ)

「言われたからやる」というもの。
外的な報酬・罰によって自らの行動が決定されます。

来週までにレポートを作成して下さい。サボったら20点減点です
「わかった‥やるよォ‥」トホホ


取り入れ調整


外発的動機づけから一歩内発的動機づけに近づいたフェーズ。
ここでは、行動が「義務感」からなされます。義務感にはプレッシャーなども含まれる。

部活の幹部、テスト勉強など、「自分がやらなくてはならない」という意識で、他者から指示されなくても行動できる状態。「やらなかったら恥をかいてしまう」というプライドからくる行動。これもこのフェーズ。

これを「取り入れ調整」と言います。


同一化調整

何を「同一化」するか。
それは、外部からの期待や要請(〇〇やってほしいな)と、セルフイメージの「同一化」です。

医者として生涯学び続けるのは大事だよな」という社会からの要請を受けて、自ら学習を進める。
「大学受験に合格したかったら、通学時間に単語帳を見るくらいの気概がないとね」という周囲からの期待に沿って、自ら単語帳を見る。

それが、同一化調整です。
それをすることで、何かしらの目的達成に近づく。だからやる、というもの。取り入れ調整よりも「内発的動機づけ」に近いものだと説明されています。


統合調整

先程「同一化」したものが更にまとまり、自分の目的、欲求とその行動が一致し始めます(と言うより寧ろ、一致しない行動を取らなくなる、と言えるかも)

大学受験に合格したい。だから夜更かしをせずに寝る。「朝しっかり起きて勉強したい」と自ら思うようになり、寝床に付く。
「信頼できる医師になるためには、やはり知識量がモノを言うよね」と考えるようになり、日々医学書を読み漁る。

「この目標を達成するためには〇〇もやっておかなきゃいけないよね」「あ、アレも必要じゃん」と、積極性を持って行動するようになります。


内発的動機づけ

外発的動機づけから上記の様な過程を経て、内発的動機づけに至ります。

その行動(勉強、運動)そのものにやりがいを感じるようになり、楽しんで行動します。
どうして山に登るかって?そこに山があるからさ」は内発的動機づけになるでしょう

山がなければ登りたいと思わない、という点では周囲の環境、つまり外発的動機づけと見ることも出来るかもしれませんが‥




さて、こうして5つの「自己決定理論」を紹介してきました。

ゆにば先生の学習は「取り入れ調整」から始まる

まとめます。大学病院で働くゆにば先生は、互いに持ちつ持たれつ、頼り頼られの環境で過ごしている、と展開して来ました。


そんな環境での学習は、自己決定理論で言うと「取り入れ調整」のフェーズから始まるのではないか、と思うのです。

つまり、自分がこれと決めた専門(ゆにば先生の場合、高血圧)の道を極める事は、組織の中で頼り頼られ、を続ける上で必須の行動になってきます。
自分が高血圧を極めずして、誰が極めるのか。
「私は高血圧を極めねばならない」という義務感から始まる学習、それがゆにば先生の生涯学習の始まり、になるのではないでしょうか。


離島先生の学習。離島医療も「取り入れ調整」から

地域の診療所(離島、などをイメージするとよいかもしれない)で働く離島医師。離島先生はどんな学習をしているのでしょうか。

設定としては「その病院には離島先生1人だけ。500人の島人の健康を一手に担うDr」です。

毎日外来にはいろんな患者が訪れます。
腰が痛い、喉が痛い、お腹がぐるぐるする、おしっこが赤い、ころんで頭から血が出てる、など、その症状は多岐に渡ります。

ゆにば先生であれば簡単なトリアージが済んだ後は
「腰が痛い人は整形外科」
「喉が痛い人は耳鼻咽喉科」
「お腹がぐるぐるする人は消化器内科」
「おしっこが赤い人は泌尿器科」
「ころんで頭から血が出た人は脳神経外科」
へと進みます。


でも、離島先生の病院にはそんな先生は居ません。だって、離島先生ただ1人なんですから。


どうすればよいか。離島先生が自分で勉强する必要があります。


腰が痛い、じゃあ原因としては何が有るだろう。
まずは問診をしてみる。いつから痛いのか(急性、慢性)、受傷起点はあるか(突然発症か、それとも何か重いものを運んだかなど)

喉が痛い、まずはどうすればよいか。
問診も大事。最近周りに風邪引いてた人とか居ない?いつから?水は飲める?
身体所見も取ってみる。口を開けてもらって。舌圧子で喉を見る。扁桃は腫れていないか?


自分ひとりでやります。だって、「やらないと他にやる人が居ないから」¥

これは、5つの自己調整学習で言うところの「取り入れ調整」に該当しますね。

働く場所は学習に関係ない?- 2人の学習方法を考えて



ゆにば先生と離島先生、働く場所は全然違います。

周囲との持ちつ持たれつの関係を維持するゆにば先生。

片や周囲の医師?なにそれおいしいの?医師1人ですがなにか?
状態の離島先生。

それぞれ環境こそ違うものの、学習過程は同じところを辿ります。

ゆにば先生は、周囲からの期待に「答えねばならない」という義務感。

離島先生は、「自分以外医師が居ないのだから、私が助けねばならない」という義務感から日々の学習を行います。


勿論環境は大事ですが、どこに行っても「自己決定理論」でいうところの「取り入れ調整」フェーズから始まるのではないか?と考えました。

その先、内発的動機づけに進む過程は違うかもしれません。離島先生は自分で助けられなかった症例に出会ってから、「人との協力」の重要性を知るかもしれません。勉強しながら裾野を広げる、というスタンスが変わるかもしれません。

ゆにば先生はたまたま行った外勤先、「人との協力」が得られない所から、自分の専門性の高さ、勉強しながら深さを深める、というスタンスから変わるかもしれません。

ところで、君はどんな医者を目指すのか?


Specialistを目指すのか、Generalistを目指すのか。

自分の中ではまだ明確な答えは出ていませんが、
「Special な視点、周囲との持ちつ持たれつを維持したGeneralist 」
が今の所一番興味がある部分です。いいとこ取りじゃんね。


ではその時、自分が周囲に提供できる価値は何が有るのか?(ここでの周囲、というのは患者ではなく、医療従事者、同業者、です)

これからの課題でしょう。考えていきます。


自己決定理論には今日お話できなかったものもたくさんあります。

また、離島先生の様な「1人(いても数人)の環境で頑張る」人はどの様にしてモチベーションを保っているのか?という話に興味がある方は是非、自治医科大学の松山先生、という方が書いた「医学部教育における自己調整学習力の育成」という本をおすすめします。


医学生と医師。その間には「医師国家試験を合格しているか否か」という大きな差があります。
また実習では体験し辛い、「自分がミスったら患者が死ぬ」という責任感も医師には重くのしかかってきます。


学生のうちから、自らがどの様なモチベーションで勉強しているのか、について考えてみるとより学習を「メタ」な視点で見ることが出来ると思います。


ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。

もし感想などあれば、じょんのTwitterやコメントにて、よろしくお願いいたします。
それではまた。



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