Hell March

 死にたいと思っている人に対して、「そのまま死んでいいよ」なんて言う音楽は、存在しない。「意味なんてない、苦しみながら生きていこう」と言ったり、「明るい未来がある」と言ったりして絶対に死なせようとしない。
 一緒に絶望してくれる、奈落に落ちてくれる曲は、ちゃんと存在する。でもそんな曲でさえ、最後は生きさせようとすることに成功する。
 何故なのか考えたけど、順風満帆な人生も、奈落に落ちた先も、どちらもこの世にあるからではないか。「絶望=死」じゃない。都合が悪いことが起こっても、生き続けられてしまう世の中。人生がどう転んでも、生きていることには変わりない。しかたなく生きていくしかない。
 世界や人生は平均化されていて、苦しいことがあったら良いこともある(ことがほとんど)。さらに、ほぼ全ての人間がそのことを、経験的に知っている。だから簡単に前を向ける。希望を持てる。進化の過程で、誰かが失敗と成功を体験して、そういう経験や思考が周囲に伝播したのだろうし、さらには、それが宗教にもつながっているのだろう、たぶん、知らんけど。


『無駄だ ここは元から楽しい地獄だ
 生まれ落ちた時から出口はないんだ』
 2度も生死を彷徨って、地獄のような病室で作った曲を、スターが笑顔で歌ってた。「地獄をギター一本で表現してます」なんて言いながら。
 私自身より苦労してきた人の言葉の力には、簡単には抗えない。なんならその力に背を押されて、今生きている。その方が楽しいという成功体験をして、その味を覚えてしまった。


 ペンと紙で人は殺せるけど、世に溢れる音では無理らしい。天寿まで出口のない地獄を、笑顔で歩かせ続ける行進曲。そんな曲達がこの世に溢れてる。
 聴く人をこの世でしかたなく踊らせる。誰かの存在証明すらも、別人の生きる糧となる。昨日よりも素晴らしい今日を生きようとさせる。


 音に包まれた、地獄のようなこの星は、血が流れても赤く染まらず青いまま、今日も宇宙飛行を続けている。

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