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ダンスにまつわる、アイルランドの思い出。 #土曜夜にアイルランドを語る

お元気ですか? という言葉が、とても重い世の中になりましたね。
こんにちは!早くもこの企画の登場が2回目になりました、木村穂波です。

↓ Twitter

(前回の記事、読んだかな??)

アイルランドの文学の紹介をしながら、伝統文化が昔どの様に人々に愛されていたのかを見てみよう!という文でした。

読んだ…よ、ね???

自己紹介とかは上記にありますので、そちらを参照してください◎(読んでね☆)

端的に言うと、アイルランドのいろんな部分を愛してやまない(注※全部ではない)大学生です。ボタンアコーディオンを弾きます。

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(羊飼いの島、Achill島:アキル島の美しい自然。羊さんが人間よりも偉い島(笑)で、羊さんが路上でうろうろしているため交通渋滞になったりします。)

私は、2018-2019年、アイルランドの首都ダブリンに1年間交換留学をし、ダブリン市立大学でアイルランドの歴史や文化を学びつつ、音楽とダンスに没頭していました。
いろんな人に助けられて、可愛がってもらって、かけがえのない体験を沢山させてもらいました。

今回のテーマは、アイルランドで暮らす中で得た、
アイルランド文化の1つである「セットダンス」にまつわる、ほっこりする思い出たち
を、つらつら日記のように書いています。さらに、
アイルランドのケーリーがどの様に運営されているのか、掴めるように工夫しました。

そして、この文を通して「セットダンスという“文化行為”を通した人間関係の温かさ」を、みなさんに伝えたい。
そんな想いで、この文を書いています。


ほっこり、が溢れすぎて文がとんでもなく長いのですが、
ぜひ最後まで読んでみてください。

アイルランドで撮った写真も、沢山盛り込んでみたよ!


(セットダンス…アイルランドの社交ダンスのようなもの。一つ前に寄稿した記事でも触れています。)


* *記事を読む方へ* *

①:
アイルランド音楽とセットダンスに、ある程度馴染みのある方を想定して、文章を書いています。
分からない固有名詞が多い方もいらっしゃるかと思います…ごめんなさい!
知識がないよ…という方にもお読みいただけるよう、工夫したつもりです…!

②:あくまでも私自身が、見て、聞いて、体験した経験に基づいていること、に基づいた日記です。
私自身が関わった音楽・ダンスのコミュニティや、教わった教授などに大きく影響を受けていること、をあらかじめお伝えしておきます。

(③:この文章は、3月に行われたクラウドファンディングイベント「いつもダンスの伴奏をしてくれるアイリッシュミュージシャンに"ありがとう"を伝えよう」に支援してくださった方への、リターンの一種として先行公開した記事を、改編したものになります。)

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(Kinvaara:キンバーラのPubにて、ミュージックセッション。運が良ければ超有名アコ―ディオニストSharon Shannonに瓜二つの、Sharonの姉妹によるセッションに出会えます。弾き方もサウンドづくりもそっくり。)


【心に残った思い出たち】

まず、まとめて一言で言ってしまうと、自分がほっこりしたシーンは、どれも
「相互尊重」「愛」「尊敬」
などの片鱗が垣間見えた瞬間だったのかな、と感じています。

もちろん、アイルランド音楽やダンスに限らない話ですが、
自身なりに想像力を膨らませて相手を想い、行動する姿や
自分だけでなく他者が関わっているんだ、という自覚に基づき行動する姿など、
みんなも自分もハッピーになれるような、そんな心地よい塩梅を求めて工夫し行動しているシーンに、
ぼわわわっと心があったかくなって、感動したなぁ、と…

ケーリーという場は、ダンサーと、伴奏者と、開催側がいないと成り立たないイベントです。

ダンサーは「ケーリーバンドありき」と言うし、
伴奏者は「ダンサーありき」と言う。
お互いに、最大の敬意を払っている。

そんな姿が、とても心に残っています。

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(1月末にダブリンである巨大なイベント、Connie Ryan Dublin Dancing Weekend @Greenisle Hotelの写真。手前の2人も、左奥のセットのみなさんも、ダブリンで何度も顔を合わせて一緒に踊った、ダンサー仲間たち。ちなみに、ボーダーのTシャツの人は私です。笑)


ケーリーは大体2つに種類分けができると思っていて、

①大きいケーリー
(体育館やホールなどを利用して、大人数で踊る。踊るという目的が強め、たくさん踊って帰る。間にティーブレイクを挟む。大人数編成のケーリーバンドが、音響設備をバッチリ構えて生演奏する。)

②パブケーリー
(アイリッシュパブで、お酒などを飲みながら少人数で踊る。踊るのも大事だけど、そこでの人の交流にもたっぷり時間を割く。2~3人での生伴奏もしくはCDで踊る。)

なのですが、ここでは①のお話が多いです。
また、大きいケーリーは地元ダンサーが集まる定例タイプと、全国(全世界…)からダンサーが集まるイベントケーリーがあります。
今回は地元の定例タイプのお話がおおいです。

パブケーリーも沢山経験して、中には毎週伴奏者として演奏させてもらっていたパブもあります。

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(ダブリンの中央にある橋、O’Connell Bridgeから。アイルランドらしい空。よくよく聞いてはいたけれど、やっぱりアイルランドは全然お日様がでてこなくて、いっつも曇っていました。)


①ダンサー側から、ケーリーバンドへのリスペクト

遠方から壮大な労力を費やして会場まで来て、ものすごいエネルギーで3時間伴奏をしてくれるケーリーバンドを、ダンサーはとっても尊敬しています。

ちなみに、ケーリーバンドに属する奏者は、ほとんがプロではなく、各々が普通に仕事を持っています。
休日・空き時間を割いてバンド活動をしているスタイルがほとんど、な印象です。
また、ケーリーバンド活動はほぼお金にならないどころか、労力や精神力を考えたらむしろマイナス、と考えていいと思います。

ほとんどの会場へアンプなどの音響器具の持ち込みをしているそうです。
ケーリーバンドは国内を飛び回って、各地のケーリーで演奏をしているので、バンのような大きい車を保有し、何時間も運転して移動します。

誰よりも早く会場に入って、誰よりも遅く会場から出るのが、バンド。
ケーリーが終わるのは通常夜中24:00なので、家に帰るのはとっても遅いです。
次の日普通に仕事していたりするから、本当に頭が上がらない。

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(2018年のSenior Ceili Band Competitionのチャンピオンバンドに輝いたBlack Water Ceili Band。
このバンドは北部の奏者で構成されていて、中には北アイルランドに住む人や国境付近に住むミュージシャンもいました。この日のケーリー、なんと飛行機でやってきたバンドメンバーがいました。)


そんなバンドさんへの感謝は、尽きぬ尽きぬ…。


ケーリーバンドは普段お立ち台に乗り、ダンサーよりも若干高い位置から演奏しているのですが、
休憩中、とあるダンサーさんがそのお立ち台に腰かけて休んでいたら、
近くにいたダンサーさんが
「ケーリーバンドがあってこそ僕たちは踊れるんだ、あまりにも失礼じゃないか。ここはバンドのスペースだ。」
とお互いを注意するようなシーンもよく見ました。


また、ケーリーへの参加ダンサーが少ないと
「私たち、今回○○人しか集められなかった。バンドに対して恥ずかしい。」とダンサー同士で話したり。
(つまり、遠方から来てくれるバンドのためにも、沢山のダンサーを集めて盛り上がるケーリーにして、更に十分な報酬を支払いたい、という気持ちが背後にある)

通常の参加費は一人につき10-12€なのですが、それだけではケーリーバンドに十分な報酬が支払えない、と追加の寄付を有志で募ったりする人もいます。


セットやフィガーの合間に、バンドに向かって拍手をする習慣が日本でもありますが、
演奏してくれることへの感謝、その深さを、よくよく感じていました。

こういうの聞くと、ぶわゎわわゎわっ、、、、、て心があたたかくなっていました。
「ありがとう」の気持ちがいっぱいだから。

ダンサーさんの、「ケーリーへ行き、踊る」という行動エネルギーの根源は、
・自分が楽しむ(踊って、みんなと会って)、というのに加え
・ある種の使命感
みたいなものを持っているな、と私は感じていました。
それは、その土地に住むダンサーとして、参加して会場を埋めて沸かし、ケーリーバンドを温かく迎えて共に盛り上がりたい。行かなきゃ。というような…

(「今日の会場はいつも人がいないから…私が行かなきゃ誰が行くの」なんて話を友人とよくしていた。)

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(これは北アイルランドの中心都市BelfastにあるBelfast Caslteの写真と、このお城でのケーリー with Swallows Tail Ceili Band!お城かっこいい!城ケーリー!この連載企画「#土曜夜にアイルランドを語る」の企画は城さん!!

たまたま北アイルランドのダンサーたちと繋がり、よく北アイルランドに国境を越えて踊りに行っていました。
北アイルランドの人たちの踊りはとってもプライドが高くて、高貴な感じ。
少し高台にお城があるので、踊りながらBelfastの街を一望できる会場です。)


②ケーリーバンドからダンサーへのリスペクト

ダンサーがバンドへとっても感謝しているように、
バンドもダンサーがいてこそ自分たちの演奏機会があること、そしてダンサーを楽しませるためにすごく一生懸命だということ、をとても感じていました。


とくに印象深いのは、ダブリンの北部で開催される唯一のケーリー@Clasacでのお話し。


ダブリンは、南側のほうが圧倒的にダンサーは多く、開催されるケーリーの数も多いです。
昔から、経済的に裕福な人・地位がある人は南側に住み、地方から来たような貧しい労働者は北側に住むという住み分けがされてきました。
今では、都市への人口集中や経済の発展により、その差は埋まりつつあり、北側の治安なども改善されてきています。

文化成熟度などの点で、南側のほうがダンサーは多い、と私はアイルランド人から説明を受けました。


そのため、Clasacでのケーリーは、セット数が少ない。Saggartなどの南側の大きなケーリーだと10セットくらいですが、Clasacは毎回3.5~4セットほどでした。
そして、高齢な方が多く、膝が曲がらないのに好きだから踊ってたりする。(感銘。。。!)


あるとき、Glenside Ceili BandがClasacで演奏してくれたとき、
すごい、

ゆ っ く り だ っ た …

YouTubeで渡愛前からこのバンドの演奏を聞いていた私は、
???????(バンドメンバーの老化????)とか思ってたんですが、
ケーリーが終わる前のMCで
「○○(名前は忘れちゃったけど、膝が曲がらないダンサー)、今日の演奏は余裕持って踊れたかな?ちょっと抑えめで弾いてみたよ」と聞いていて、
あ、この人のことを知っていて、わざと遅めにしてたんだな、と気づきました。


バンド、そしてダンサーたちの、あたたかな関係が見えた出来事でした。


(Ballyvourney(B.B.)Jigは遅すぎて死ぬかと思ったけど)

そんなClasacのケーリー、私は大好きでした。
ダンサーの誕生日をみんなでサプライズお祝いしたり、お互いの(高齢だから…)体調を気遣ったり。
ケーリーって、サークルみたいで、そこに集う人たちに定期的に会って、お話をして、一緒に踊って、楽しんで、「よしまた一週間がんばろう」と思えるような、
そんなコミュニティとしての機能もばっちり果たしていた印象です。

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(溶けるかと思った、4月の空。大好きだったケーリーバンド、Brian Boru Ceili Band(ダブリン中心に活動)の車に乗って、Wexfordのケーリーまで連れて行ってもらった時のもの。)


③ケーリーバンドの、演奏やケーリー文化への愛の強さ

これ、本当にそこはかとなくて…

本当に、ケーリーバンドの労力が半端ないんです。
私も実際に日本でのケーリーバンド活動やケーリー開催の経験がある分、「愛があるからこそ続けられる」、とよくよく痛感しています。
練習にかける時間や費用、さらに当日、かなりの速度で数時間に渡って演奏し続ける精神の強さ(笑)など... 結構、大変です。鋼の体力が欲しい!(笑)

ケーリーバンドの人たち、本当に、アイルランド音楽・ダンス、そしてケーリーという文化とそこに関わる人々を、本当に本当に心から愛しているんだな、と。

ダブリンを中心に活動しているBrian Boru Ceili Bandの人たちにとってもよくしてもらって、よく一緒に演奏をしたり、遠征に一緒に行かせてもらったりしていました。(おしゃべりなのを買われて、助手席でずっと話し続ける役目。笑)

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(Brian Boruのケーリーに初めて参加したときの写真。かけがえのない出会い。本当はバンジョーのお姉さんもいるのですが、子育てで多忙なので、なかなかケーリーでは出会えない。)


例えば、
4月7日(日曜)のケーリー伴奏依頼@Wexford、21:00開始
ダブリンを17:00くらいに出発し
会場に19:30くらいに到着
音響などの準備をしてスタンバイ(間にティータイム。さすが。笑)
21:00スタート
24:00まで演奏ぶっ通し。
片付けをして会場を出たのが24:40くらい
ダブリンに帰ってきたのが朝の3:00

次の朝、元気に出勤!!!(私は大学の授業!!!!)

な に そ れ


しかも、この例だけじゃなくて、例えばその1か月前の3月11日(月曜)にMayoで開催されたMickey Kelly Memorial Set Dancing Weekendsでの演奏依頼も、ダブリンから片道5時間くらいかかるのに、その日中にダブリンに帰った。(その方が、どこかで泊まるより安いから、と。)


な に そ れ


自分たちの仕事も、自分たちの家庭も、あるのに、
多くの時間と労力と費用をかけて、ケーリーバンドの活動を続けていくその根源には、
ケーリーという文化、アイルランドらしい文化への尊重や、
自分たちを求めてくれるダンサーたちへの感謝や、お互いのバンドメンバーへの配慮など、
まさに「相互尊重」「愛」「尊敬」の塊、でした。

よく、遠征への車の中では、そんな話を、た~くさんた~くさん、していました。
(といってもほぼ爆睡。しゃべり相手という任務は放棄。笑)


【まとめ】

まず、重ねてにはなりますが、
これは、あくまでも私自身が、見て、聞いて、体験した経験に基づいていること。私自身が関わった音楽・ダンスコミュニティや、私自身が教わった教授などに大きく影響を受けていること、を再度伝えさせていただきます。

この文章を通して、ケーリーやダンスのシーンを通して私が見て聞いてほっこりした、
「相互尊重」「愛」「尊敬」が垣間見えた瞬間を、
みんなも自分もハッピーになれるような、そんな心地よい塩梅を求めて工夫し行動している瞬間を、
ちょっとでも共有できていたら、幸いです。


そして、、、アイルランドでの思い出話をたくさん書いてきたけど、

私は、日本のアイリッシュ音楽・ダンスのシーンが、とってもすき!です!

アイルランドの音楽やダンス、そのまわりの文化、歴史、政治問題…あらゆる角度からアイルランドが大好きですが、だからといって、日本がアイルランドになればいいとは、全く思っていません。
自分がアイルランド人に生まれればよかったとも、全くおもっていません。

むしろ、アイルランドの文化が大好きな、日本人である私は、
アイルランドへ強い尊重を抱きつつ、私らしく思う存分に楽しみたい。

そして、
アイルランドの文化が大好きな日本人の私たちは、
アイルランドへの尊重はもちろん忘れず、私たちらしく、思い思いに楽しめばいい。

そんな風に思っています。

日本で新しく生まれる、ダンスのスタイルやケーリー中の習慣、とっても素敵です。
和服ケーリーとか、とってもいいじゃない。

これは音楽も同じで、お花見セッションとか、すてきだなぁって思っています。
日本人なりに創意工夫した、音楽やダンスの研究アプローチの数々も、むしろアイルランド人に伝えたいくらいです。(笑)

よく、
なんで、アジア人なのに、アイルランドの楽器を弾いて、アイルランドのダンスを踊るの?
と聞かれていましたが…

葛藤を続けた末に出した、
どうしても好きな物に対する私なりのお付き合いの仕方の答えは、上に書いたようなことです。


長くなってしまったけど、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

さて!!この連載企画、まだまだ続くよ!!!!

* *次回予告* *

次の5月23日を担当してくれるのは、いしいあきさんです!
「アイリッシュ音楽のピアニストたち」というテーマ。
ご本人、「アイリッシュ音楽にもステキなピアニストがたくさんいるンデス!!」と…どうやら、のだめ風の口調で熱く語ってくれそうですね~

私の出身サークルの後輩でもあり、更に楽器も私と同じボタンアコーディオンを弾きです!
研究熱心な(オタクな)性格のあきちゃん。どんな内容がくるのでしょうっ

乞うご期待!!!

Grazie per leggere. Ci vediamo. 読んでくれてありがとう。また会おう!