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カウンティ・クレアの夕陽とフィドルの音色  #音楽で旅に出よう

 ヨーロッパの西の果て、緑の島アイルランドのさらに西の果て。カウンティ・クレアではどこまでも真っ平らな牧草地とごつごつとした石垣が地平線まで続く。 
 西にゆくと海があり、その遥か先はアメリカ大陸である。

 いつも曇り空で湿っぽく、崖以外にめぼしい観光地がないこの地域だが、夏になると国内外から何万人という人々が集まる。目的は本物の伝統音楽を体験することである。

 ミルタウン・マルベイやフィークル、ドゥーリンといった小さな村々では総力を挙げて短期音楽学校「サマー・スクール」や伝統音楽フェスティバルを開催しており、一週間、音楽漬けの日々があなたを待っている。

 普段は過疎の村々がこの時ばかりはおもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさになり、狭い通りはストリート・パフォーマーや楽器ケースをしょった人々の熱気で溢れかえる。アイリッシュ・ミュージックを愛する人は、フェスティバルで得た興奮と経験と友情が忘れられず、この地を何度も繰り返し訪れてしまうのだ。

 フェスティバルの最後の朝、人々は波が引くかのごとく家路につく。僕は一泊余分に宿に残り、祭りの余韻を楽しむのが好きだ。それは街が、人が日常に戻る時間。スシ詰めで入れなかったパブは静けさを取り戻し、地元のミュージシャンが何事もなかったように集う。今夜からは閑散期にしか聴くことができない「特別な」音楽が始まるのだ。

 フィドルとギターのデュオ、Dai Komatsu & Tetsuya Yamamotoの“Shadows and Silhouettes”はそんなカウンティ・クレアの空気をまとった音楽だ。イースト・クレアのフィドルに学んだ小松大さんと、フィンガー・ピッキング・スタイルの繊細なタッチを得意とする山本哲也さんの奏でるアイルランド音楽は情感に富み、アイルランドの旅へのロマンと期待を膨らませてくれる。クレアの気候のように少し湿っていて、柔らかい音色。それは日常のアイルランドの気取らない、かけがえのない音楽である。

 アイルランドの夏は長い。フェスティバル最終日の夕陽は、低い角度から強烈な光を差してパブへと続く道を赤く染める。こうして祭りが終わると、アイルランドは再び静かな長い冬へと向かうのである。

著者情報
hatao ケルト・北欧の笛奏者、音楽講師、ライター、音楽書籍著者、楽器店経営者。
笛とハープのデュオhatao & nami、楽器店はケルトの笛屋さんにて、演奏、教育、普及を柱に、伝統音楽の楽しみを多くの人と分かち合うことを目指している。
hatao -Irishflute Infomedia-

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 下記ウェブサイトで A-I のアルバムが視聴できます。

#音楽で旅に出よう

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