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もうひとりの自分 第10話

今日は何日かな?といつも私は思う。
思いたくないけど、つい思ってしまう。
この何とも趣きのある空き家に住んで3年が経った。
3年この閉ざされた中身が暗闇の屋敷によく住めた
ものだ。
しかし私の人生からしてそれでいいかもしれない。
ホームレスとして路上で暮らすよりマシだ。
私はどこで手に入れたか知らない謎の大金を手に
最近近くに銭湯ができたからそこで毎日通って
いる。
だがそこでも存在感がないのか誰も声をかけない。
けれど入浴は気持ちいいものだ。私は入浴だけで
十分だ。サウナは興味ない。
私が服を着ていると隣の若い2人の話を聞く。
若者A「そういやおまえ何個もらった?」
若者B「チョコ?800個。おまえは?」
若者A「1200個。けれど少ないうちよ。鈴木って
いるだろ?法学部でかっこいい奴」
若者B「ああいるよ」
若者A「あいつなんか大型トラック5台分だぜ」
若者B「めでてえ奴だな」
若者2人は笑いながら更衣室を後にした。
どうやら大学生のようだが、あいつらこそある意味
おめでたい奴だ。私の歳もあいつらと同じか。
いいよな。大学行って何事もなくクソみたいな会社に
入れるからな。
彼らのやり取りを聞いたがこの日はバレンタインか。
女どもが好意を抱いている男に本命なのか義理なのか
知らないがバカみたいにデカいチョコを手作りしやが
って。800個?1200個?最終的にトラック5台分?
とにかく食べ物を粗末にするな!
銭湯を出て通りかかったマンションにダンプカーが
止まっていた。何と本当にチョコレートが入っている
であろう箱の山だった。空き家から袋を持ち出し何個
か素早く持ち帰った。
チョコなんて久しぶりだ。何日ぶりか?否違う。
何年ぶりかだ。何ともリボンだのハートだの洒落た
包装紙を剥がし箱の中身を見た。女どもは知らない。
まさか今中身を開けているのは意中の男ではなく
学歴も何の身分もないこの私とは夢にも思っていない
だろう。

案の定中身はチョコとこれまた何ともハートとか天使が
描かれた派手な手紙が入っていた。
「あなたのことが好きです。一生応援します❤️」
バカか!今そのチョコをこんなどこの馬の骨か知らない
私が食べているんだぞ。
はい次!
「あたしの憧れのあなたへ。食べてください!」
食べます!おまえの理想じゃない私が食べます。
ん?何だ?何か糸が絡んでいるみたいな。
こ、これは髪の毛!?食べたら消化できないだろう。
無学の私でもわかるぞ。
この後もチョコに爪だの何と自身の歯だの。
そして極めつけはチョコは美味しかったが、手紙には
「是非食べてください❤️わたしの丹精込めた大量の
血液を練り込んだ渾身のチョコ」
血!?食べた相手が悪かったし、それを食べてしまった
私も何とも言えなかった。
そこまでにして男と付き合いたいか?この女もおそらく
将来私と同じ末路を辿ることになる。


バレンタイン。私は好きではない。

夢の中の私は、なぜか大学に通っていた。勉強のべの
字もない私が大学生?夢の中だから仕方ないか。
現実と同じく夢の中もこの日はバレンタインデー。
しかし大学生になりきったのはいいが、大学から毎日
補習の嵐。いくら補習を終えても教授から明日も
来ないと即留年と脅される日々。私何かやったのか?
大学に入ってもう12年が経つ。12年!?入学してから
毎日通っているのに教授から何かの不備があって補習
に来てくれと毎日のように言われる。
朝8時に来て夜10時に学校を出る。私って本当に大学生
かな?退学しようか。
そんなバレンタインの日。私が校舎に入ると
「山本先輩!これ食べてください」
「岡村先輩!是非食べてください」
と女子大生たちがなぜか私にチョコをあげた。
教室に入るといつも私に対して異常に厳しい教授が
にこやかに
「これハワイに行った友人から貰ったマカダミアナッツ
だ。是非食べてくれたまえ大原」
あ、ありがとうございます…。今年のバレンタイン
は一味違うな。
それともうひとついいか?私は山田だ。
いくら夢の中といえど間違いにもほどがある。

私は自宅に戻り今日貰った箱の中身を開けた。しかし
チョコではなくただの石。どれを開けても石ばかり。
手紙にはこう書かれていた。
「勝手にチョコ食べるなー💢」
「あなたのことなんかout of ガンチュー👎」
「このチョコを食べるとこの世から消えます。というか
さっさと消えてください」
そういえば教授から貰ったマカダミアチョコ。開ける
と普通のチョコ。食べてみたら普通のチョコ。
その直後チャイムが鳴った。出てみると警察官数人が
いた。
「田原利彦さんですね」
「違います。山田利男です」
「とりあえず君には大麻取締法違反の容疑があるから
署まで来なさい」
しかし場所が違う。
「ど、どこへ行くんですか?警察署じゃないん
ですか?あ、眠くなってきた。あ…」
「どうやら効いてきたようですね。原くん」
警察官に扮した私の通う大学の教授が私の隣にいた。
「マカダミアチョコに睡眠薬を入れておいた。これが
最後の授業だ」
「最後の授業?」
「バレンタインのように赤い場所に行くのだ」

パトカーがなぜかある火山の火口の中に落ちた。
「HAPPY VALENTINE」

は!!
何がハッピーバレンタインだ!?
私はバレンタインチョコを即座に処分した。
私にとってのバレンタインデーはなんだか変な気分だ。
そして今まさに変な気分だ。
どのチョコか知らないが、薬品入りを食べたらしい。
私はこの後3ヶ月間、激しい腹痛に苦しんだ。

第10話おわり

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