雑文・糠に釘、暖簾に腕押し、沼に杭。
YouTubeチャンネルに動画を投稿し始めてまだ数日、右も左も知らぬような、アナリティクスの読み方も知らんようなYouTube的若輩が何を言うかとどやされるのを承知で実感だけをしたためておく。この手応えのなさに耐えられた者だけがYouTubeに抱きしめてもらえるのだ。
噂には聞いていたものの、ここまで再生回数が伸びないものか。視聴回数8回。視聴回数4回。視聴回数9回。そしてそのうちの数回は自分であるという事実が目の前に立ちはだかってへたり込み、白旗を振ることもなく兵隊は去るわけだ。これが世に聞く「全然バズんねーからやめるわ」の法である。「手間ばっかかかる割に再生回数4回とかマジきちーえぐいしやめるわ面倒だし」のくだりである。兵どもが去ったあとには、何年も更新されることのないYouTubeチャンネルの屍だけがインターネットの塵となってヒカキンの周りを浮遊し続ける。
手応えのなさと誰にも気づいてもらえない寂寥感から薄らぐ意識の中で、どこからともなく声が聞こえてくる。
「そこの兵隊さんよ。YouTubeとは果てのない砂漠だ。手応えもなきゃ、水もない。仲間はもちろん敵すら見えない。そこにあるのは1ビットの砂が敷き詰められた砂の漠だけ。その漠に立ち向かうにはいいかい兵隊さんよ、砂漠に手間なんて掛けちゃ駄目ってことだよ。眼の前の数字は蜃気楼だと早く気づかなきゃまずいんだ。バズるなんて自分には関係のない星の裏側での出来事だということも。」
声は一瞬音声レベルに気を配れず音が割れているYouTuberのがなり声に掻き消されたが、再び俺の耳に届いた。
「身も蓋もないわけじゃあない。手間も暇も掛けず、とにかく百発撃つ。百本の動画という名の貴様が放った弾丸が、いずれ勲章をもたらす。再生回数という勲章も、チャンネル登録者数という勲章も、そしてバズるという王冠も。貴様が何の手応えも感じないままとにかく真正面に我武者羅に撃ち続けた弾丸が、すべてをもたらしてくれる。
とにかく撃て。撃つんだ。投降する暇があったら投稿だ。恥ずかしがらずに何度も何度も。YouTube砂漠で動画を撃ったら、Twitter沼でチャンネル登録お願いしますと書かれた杭を打て。そしてインスタぬかグラム床を掻き回し、TikTokの暖簾を押せ。そうやって何度も出たり入ったりすると「またこいつか」と思われる。そうなったらしめたもんだよ兵隊さん。SNS晒し者の歌を歌いながら、気の利いた動画タイトルを打ち込み、百発の弾丸を撃ち込め。歌を歌うという言葉の違和感を抱きながら。」
助言か、戯言か、揶揄か。ふっと消えた声。我に返ると俺はサムネイル画像を作るためにPhotoshopを起動していた。
(終)
※投稿本数の目安は50〜100本。まずは自分の時間の許す中で動画を作って、TwitterやInstagramほかSNSやWEB・動画メディアなどあらゆる媒体に何度も投稿していくのが動画を浸透させていく基本的な手法なんだそうです。良いことを聞きましたので纏めておきました。せっかくなので劇的な文章で。
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