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神妙の域

葛飾北斎の言葉としてあまりにも有名な『富嶽百景のあとがき』にこのような一文がある。

『一点一画が生き物のごとくなるであろう』

この言葉は優れた絵師なら一度は必ず目指す境地を表している。

北斎はこの境地に百十歳で到達すると、自ら宣言していた。

しかし、「天が私にあと十年の時を、いや五年の命を与えてくれるのなら、本当の絵描きになってみせるものを。・・」という言葉を残して、北斎は九十歳でこの世を去った。

あの北斎にして到達できなかった境地、それを北斎は『神妙の域』と言っている。

白紙はただの紙に過ぎないが、そこに思いを込めて筆の先から落とした墨の一点が、無限の宇宙を創造する。

『無』は神の領域。「神の領域に人間が限りなく近づける最高の有」、それこそが北斎が目指した境地であろう。

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