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トランプが被告人である4つの刑事事件の大統領選への影響

ドナルド・トランプ前大統領は現在、4つもの刑事事件の被告人である。これら刑事事件の詳細と大統領選への影響、およびトランプが大統領に就任した場合の赦免の可能性について解説して行く。


トランプはどのような刑事事件に巻き込まれているの?

①トランプの会社が間接的に元ポルノ女優に支払った口止め料について、当会社は虚偽的に「弁護士費用」として計上した
②大統領退任の際、トランプは政府の機密文書を持ち出した
③大統領選で敗れたにも関わらず、トランプは選挙の結果を覆そうとした
④大統領選においてジョージア州で敗北したにもかかわらず、トランプは同州の結果を覆そうと集計作業に介入した

これら刑事事件の他にも、トランプは、名誉毀損や会社の決算粉飾等に関連する複数の民事裁判の被告人となっている。

①口止め料違法計上事件の詳細と今後の見通しは?

2016年の大統領選中、トランプは元ポルノ女優ストーミー・ダニエルズとの不倫関係が公になって選挙に影響を及ぼすことを懸念し、自身の弁護士にダニエルズに対して口止め料として13万ドルを支払わさせ、大統領就任後、自身の会社から当該弁護士にこれを払い戻した上で、その払い戻しを虚偽的に「弁護士費用」として計上したとされる。

この事件で重要なのは、口止め料の支払い自体は違法ではないこと。責任を問われているのは会社記録の虚偽記載であり、通常ならこの罪は軽犯罪(misdemeanor)であるが、検察は選挙法違反と絡めて重犯罪(felony)に格上げしようとしている。

もともと大した犯罪ではないため、たとえこの事件で有罪となっても、懲役の判決が下される可能性は低い。

②機密文書持ち出し事件の詳細と今後の見通しは?

大統領退任の際、トランプは国防に関わる機密文書を自宅に持ち帰り、その後、当局からの返却の要請を拒んだとされる。また、側近に文書を移動させ、監視カメラのデータを消去するよう命じることで、証拠隠滅を図ったともされる。

トランプは自分が機密文書を保有していたことをテレビ局や作家のインタビューで認めているようであり、この事件で有罪になる可能性は極めて高い。他方で、本事件を担当している連邦裁判官はトランプが大統領時代に任命しており、これまでの裁判の進行や判断がトランプ寄りだと批判されていることから、裁判官の判断がトランプに有利に働く可能性がある。

有罪となれば、最長10年の懲役の判決が下される可能性がある。

③選挙結果覆し事件の詳細と今後の見通しは?

トランプは2020年11月の大統領選でバイデンに敗れたにも関わらず、大統領にとどまるために、関係者と共謀して選挙の結果を連邦議会が承認しないよう圧力をかけ、支持者を煽って連邦議会を襲撃するよう仕向けたとされる。

これは選挙結果の覆しという民主主義の根幹を揺るがす行為で、トランプの側近も起訴内容を裏付ける証言をしているため、トランプは十分有罪になり得る。他方で、大統領本人が当事者であるという前代未聞の事件であるため、罪がどのように判断されるか見通しにくい。

有罪となれば、最長20年の懲役の判決が下される可能性がある。

④ 集計作業介入事件の詳細と今後の見通しは?

トランプは2020年11月の大統領選においてジョージア州でバイデンに敗れたにも関わらず、同じく起訴された18人と共謀して、大統領を正式に選定する”選挙人”の偽物をでっち上げるなどして、ジョージア州における選挙結果を覆そうとしたとされる。

選挙管理を担う州務長官(Secretary of State)に対してトランプが「私は1万1780票を見つけたいだけだ」と迫った電話の録音は有力な証拠であり、共謀者とされる18人のうち4人が既に司法取引で有罪を認めていることから、トランプは十分有罪になり得る。ただ、この事件の首席検察官が本事件のために起用した弁護士と不倫関係にあったことが発覚し、裁判の進行は複雑化している。

有罪となれば、最長20年の懲役の判決が下される可能性がある。

11月の大統領選前に判決が出る可能性はあるの?

最も軽い罪となる「口止め料違法計上事件」については、初公判の日が4月に設定されていることから、大統領選前に判決が出る可能性がある。

最も有罪になる可能性が高い「機密文書持ち出し事件」および「選挙結果覆し事件」と「集計作業介入事件」については、これまでの進行を踏まえると、大統領選前に判決が出る可能性は極めて低い。

トランプ側はすべての刑事事件においてとにかく進行を遅らせる戦略を取っており、それが功を奏していると言える。

トランプは前大統領として罪から免責されないの?

トランプ側の弁護士は、元大統領はありとあらゆるすべての罪から免責されると主張している。

現在は連邦最高裁による最終的な判断を待っている状態だが、トランプが責任を問われている行為は「大統領としての正式な業務の執行」と見做すことが難しい(機密文書の持ち出しは大統領退任後の行為であり、選挙関係は「大統領候補」としての行為である)ため、この主張が認められる可能性は極めて低い。

刑事事件の大統領選への影響は?

民主党支持者と共和党支持者の間では影響がなく、無党派層の間でどう見られるかが鍵になりそうだ。

民主党支持者はそもそもトランプが起訴される前からトランプに対して強烈な忌避感を抱いていたので、起訴も有罪判決も彼等の意見を変えることには繋がらないと思われる。

共和党支持者の間では、これら4つの刑事事件は民主党やバイデン大統領による陰謀だというトランプの主張が浸透しており、有罪判決が下されても何ら影響がないと思われる。実際、2022年の中間選挙で共和党が苦戦した後、共和党内のトランプの支持に陰りが見えたものの、2023年にトランプが起訴された途端、トランプの党内の支持率が急上昇し、トランプは大統領選の予備選で独走した

無党派層の中には、トランプに批判的ながらもバイデン政権に不満を持っている人が一定数いると思われ、これら投票者の投票行為が、トランプが有罪になるか無罪になるかで変わる可能性がある。

刑事事件はトランプの選挙活動に影響を及ぼすの?

刑事事件の場合、公判中、被告人は出廷していることが求められる。よって、たとえ大統領選前に判決は出なくても、初公判が大統領選期間中であれば、出廷する必要があるトランプは選挙活動に制約がかかることになる。

一見、これはトランプにとって大きなマイナスであるように思えるが、これまでのトランプは、出廷する度に法廷前でスピーチをすることで注目を浴びてきた。法廷自体が実質選挙演説の場となっていることから、トランプにとって出廷=選挙活動と考えられ、実際は制約とはならないかもしれない。

トランプが当選したら、大統領として自分を赦免できないの?

赦免できるかは、どの事件かによる。

アメリカ連邦憲法は、大統領が「アメリカ合衆国に対する犯罪」について赦免できると定めている。

連邦制であるアメリカでは、連邦政府と州政府に主権が認められており、起訴する権限も双方にある。大統領に与えられている赦免の権限は「アメリカ合衆国に対する犯罪」に限定されているため、ニューヨーク州の検察が起訴した「口止め料違法計上事件」とジョージア州の検察が起訴した「集計作業介入事件」については、大統領は赦免できない。よって、これら刑事事件については、トランプが大統領に就任しても継続し、トランプ大統領に対して有罪判決が出る可能性がある。

「機密文書持ち出し事件」と「選挙結果覆し事件」は連邦政府の検察官が起訴したものであるため、理論上はアメリカ連邦憲法上の大統領の赦免権限の対象となり得る。ただ、大統領が自らを赦免することは事例がないので、実際に実行された場合、有効性に関して裁判所による判断が求められる可能性がある。

[注:この記事は2024年4月に自分のアメリカの政治に関するサイトに載せた投稿に微修正加えた上で再掲したものです]


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