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「15%」を信じて受かった、ニューヨーク州司法試験

多くの人に信じてもらえないが、僕はニューヨーク州(とニュージャージー州)の司法試験に受かっている。

そもそも米国の司法試験というのは合格するようにできているのだ。ニューヨーク州司法試験の合格率は85%。日本の司法試験の35%とはエライ違いである。

(余談になるが、85%はあくまで米国弁護士協会(American Bar Association)が認定するロースクールに3年間通った人の合格率だ。外国の人の合格率は50%弱なので、日本から留学してニューヨーク州の資格を取得することは、それはそれは大変なことである)

僕の周囲に司法試験に首席合格した人がいるが、現代っ子である僕にそんな大それた野望があるはずもなく、司法試験の勉強をするにあたって僕が常に意識していたのは、「15%」という数字である。

僕と同じ立場の受験者で落ちるのは、たった15%。

回避すべきは、下位15%。

いくら体調が悪くても、不運でも、勉強不足でも、起こるはずがない15%。

僕はもっぱらこの「15%」を信じて司法試験に挑んだ。

とはいえ、それなりの努力はした。「15%」になっちゃうかもしれない、という危機感があったのだ。

なにせ僕がロースクールで受けたのは、「米国の法律の歴史」や「米国憲法の歴史」、「教育の政策と法律」や「州の憲法」といった、大学生が趣味で受けるような授業ばかり。ニューヨーク州司法試験で出題される15科目についてほとんど知識を持っていなかったので、僕は予備校に勤勉に通い、指導されたとおりに勉強した。

予備校は刑事法とか家族法など、法律家としての基礎を初めて学んだ貴重なところだった。しかし、何より参考になったのは、出題されるであろう科目の予想。「この科目は試験範囲内だからとりあえず教えるけど、前回の試験で出題されたから多分次回は出ないよ」とアドバイスしてくれたのだ。
そう言われては、当然僕としてやるべきことは、その科目を切り捨てることである。3年間ましな法律を学ばなかった遅れを、2ヶ月間の追い込みでリカバーしようとしているのだ。出題されない科目を勉強してる余裕などない。

万一出題されても、「15%ルール」があるのだから致命的にならないはず。そう割り切って大胆な戦略に出たくせに、小心者の僕は、土壇場になって不安になった。試験の前の晩、焼け石に水と思いながらも、切り捨てたはずの科目の資料にさらっと目を通して、就寝した。

こうして迎えた試験の当日。

早めに試験場に向かって自分の席に座り、「15%」のおまじないを唱えていたら、可愛さなら確実に上位15%に入る小柄の可愛い子が隣に座った。この子の存在でいい気分になれたところで試験開始となり、最初の問題を読んでみると、なんと、昨晩寝る前におさらいした科目ではないか。

「ラッキー」と上機嫌になったところで、なんか隣から不穏な空気が流れてきた。ちらっと目をやると、可愛い子ちゃんがたった2分目ですでにパニック状態に陥っている。「かわいそうに、この子の受験の能力は、可愛らしさとは真逆の15%に入るんだな」と競合の品定めをして、この瞬間、僕は一問も解いてないのに自分の合格を確信した。

そしてそのとおり、僕はニューヨーク州の司法試験に合格。可愛い子ちゃんの合否は知らない。

こうして受かった司法試験だが、先日ひょっとしたことで、最近どんな問題が出題されてるのか調べてみたら、全てがちんぷんかんぷんだった。

受験した当時、僕は15%の確率にだけ頼って合格したと思ってたけれど、ちゃんと勉強した効果はあったようである。

[注:この記事は2020年8月に自分のブログに載せた投稿に微修正加えた上で再掲したものです]

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