「そして、バトンは渡された」読了。
久しぶりに、小説というものを読んだ。
普段はどちらかと言えば自己啓発本だったり、ノンフィクションのものを読むことが多いので、
本屋で何となく手に取ったこの本は、自分の中では珍しいジャンルだった。
瀬尾まいこ著 「そして、バトンは渡された」
帯には「2019本屋大賞受賞作」と書かれていたので、
好みはあるにせよ、よほどつまらんということはないだろうくらいの気持ちで購入した。
大きく言えば、優子という一人の女の子を中心に描かれる家族の物語なのだが、
母が2人に父が3人という、少し歪なカタチをしている。
これだけを聞くと、何だか不幸な人生を想像してしまいそうだが、
優子はこの歪な家族の中で、沢山の愛情を受けながら育っていく。
その成長過程が、なんとも言えず心地よく描かれている。
読み終わったあとの清々しいほどの多幸感。
家族の物語に抵抗がない人には是非読んでみて欲しい。
ここからは少し自分語りになってしまうかもしれない。
当然だけど、私にも家族がいる。
母、父、兄、妹だ。
ただ、父とは一切の血のつながりはなく、兄とも異父兄弟にあたる。
母にとっては最初の夫が兄の実父にあたり、私が生まれる前には離婚をしていたので、私は顔も名前も知らない。
兄は覚えているのかもしれないが、そんな話をしたことも聞いたこともない。
母と兄にとっては思い出したくない過去なのかもしれない。
母にとって2番目の夫が、私と妹の実父にあたる。
この2番目の夫と兄は養子縁組をしているため、
戸籍上は兄が最初の夫の長男、私が2番目の夫の長男というわけの分からないことになっている。
ちなみに母は最初の夫と離婚したときには苗字を旧姓に戻したらしいが、
2番目の夫と離婚をした時には兄や私や妹がいたため、
苗字を旧姓に戻すことなく30年以上使い続けた。
そのため、兄は2番目の父の苗字を継ぐことになった。
つまり、自分とは一切血のつながりのない人の苗字を継いだことになる。
幸い、どちらかと言えば覚えやすい特徴的な苗字だったため、
兄も特に気にせず受け入れたと思われる。
そして、母が50歳を過ぎたころ、
長年お付き合いをしていた男性と籍を入れたと報告があった。
このお付き合いをしていた男性というのは、
私が中学入学前から大学を卒業して家を出るまで、
ずっと一つ屋根の下で暮らしていた人で、
家族という意味では一番長く一緒にいた人だ。
ただ、母が家に連れてきて一緒に暮らし始めた日から今日まで、
父だと思えたことは一度もない。
彼は私に父らしいことを沢山してくれたし、
愛情をもって育ててくれたことはひしひしと感じている。
血のつながらない私と妹を、本当の子供のように接してくれたし、
基本は優しく、時には厳しく接してくれた。
それでも、私はどうしても父とは思えなかった。
母と彼が籍を入れることなく、10年以上が過ぎ、
私が大学を卒業して一人暮らしを始めてからも、一向に籍を入れるような素振りもなかった。
しばらくして、母から彼と別れて滋賀の田舎に帰ると連絡があった。
寝耳に水だったが、子供3人はもう自分の手から離れているので、
自分の人生を楽しんで欲しいと思い賛成した。
それから1年後、母から、別れたはずの彼と籍を入れることになったと連絡があった。
わけが分からなかったが、母の破天荒ぶりは今に始まったことではなかったので、
私は半ば呆れながらも、もう好きにしてくれと思った。
母は今、正式に正式に籍を入れて、彼の苗字を名乗っている。
今では3兄妹が全員結婚をしたので、
実家の苗字=誰とも血のつながらない苗字
兄と私の苗字=2番目の父の苗字(兄とは一切の血のつながりは無し)
妹=結婚して旦那さんの苗字
家族が集まっても見事に苗字がバラバラという面白現象が起きている。
先の話に戻るが、私自身がこういった少しややこしい家庭に育っているため、
この小説を読んだときは他人事だとは思えなかった。
ただ、主人公の優子と同じ感情になれたのは、
優子と同じく私も「不幸だと思ったことは一度もなかった」からだ。
時代時代に振り回されてきた母や父を可哀想だと思うことはあっても、
私自身が不幸だったことは一度もないように思う。
母が汗水垂らして働いてくれたおかげで私は大学まで卒業することができたし、
血のつながらない父も私にとっては大切な心の拠り所だった。
家族の在り方なんてそれぞれで、きっと正解などない。
そんなことを再確認できたような素敵な小説に出会えて良かったと思う。
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