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冒険との生活【掌編小説】
冒険旅行への招待状が来ていた。
毎日、毎日、私のポストに届いていた。
招待状をくわえて靴を脱ぐのが、日課になった。それをリビングのテーブルにおいて、片づけものをすませて、珈琲を淹れて、ゆっくり封を切る。
内容は、いつも、大体同じ。
『冒険の旅に出ませんか。見たこともない場所へ行きませんか。あなたをお待ちしております』
そういう決まり文句の後、日程や行き先についての詳しい情報が載っている。
こんな具合に。
『出発日時 思い立ったが吉日
帰着予定 なし
行き先 不明
宿泊 未定
食事 生きるためには必要
料金 無料(ただしある程度のリスクを支払っていただきます)
注意事項 責任はすべてあなたにあります』
白地図が同封されていたり、真っ白なチケットが入っていたり、文章の所々が穴埋め問題みたいに欠けていたりする。毎回、趣向を凝らして、予定の未定っぷりをアピールしている。
ミステリーツアーなんてものじゃない。本当に何も決まっていないのだ。
『あなたのための冒険旅行です』
私はいつもそれを隅々まで読んだ。
そして、読み終わったものはふたつきの小箱にしまっておく。いつそれが必要になってもいいように、ちゃんと順番に全部取っておく。
もしかしたら、明日、どうしても行きたくなるかもしれない。日常のすべてに別れを告げて、ハンカチと帽子だけ持って出かけたくなるかもしれない。
招待状があるということは、いつ決断してもちゃんと出かけられるということになる。
明日の分の珈琲を買っておかなければ。招待状を読むひとときのために。
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