LL.M.出願校の選定(2023年改訂版)〜ロースクール2校を修了して〜
はじめに:2校卒業して分かった出願基準
私は、2022年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のLL.M.を修了、翌年2023年に同大学アーバイン校(UCI)を修了しました。この留学開始前の段階で、以下の記事を書いています。
自分自身、どのように出願校を選んで良いか分からない中、手探りで書いた内容です。2校のロースクールを卒業した今、改めてこの内容をアップデートしたいと思います。たいぶ考えが深まりました。官庁職員の方を除きLL.M.を2校通う日本人は少ないと思われ、貴重な経験をさせていただいたと思っています。せっかくの経験から得た考察、留学の総まとめを兼ねてここにシェアさせていただきます。
結局留学から何を得たいのか?
今改めて思うのは、留学から何を得たいのかによって行くべきロースクールは全く異なるということです。留学は多くの人にとって人生に一回きりの重要な期間です。ここで通うべき学校を間違えると、貴重な時間とお金の投資に成果が見合わずに後悔ばかり残ることになるでしょう。まずは、ご自身なりの留学の目的を明確に(複数ある場合は優先順位をつけて)整理することが極めて重要です。勿論その目的は人により千差万別ですが、大きな視点では、次の5点を含む場合がほとんどなのではと思います。①とにかく英語力を伸ばしたい、②特定の分野を極めたい、③人脈を広げたい、④キャリアの休憩期間にしたい、そして⑤米国司法試験に合格したい。
私が卒業したUCLAとUCIは、学校の規模や日本人の数、プログラムの内容について全く異なる対照的な学校でした。もちろんこの経験から全てを語れるとは思っていませんが、それでも2校を比較することで感じたことはたくさんあります。これらを上記の目的別に照らして、整理しようと思います。
とにかく英語力を伸ばしたい:小規模校へ
多くの方にとって、英語力それ自体の向上が一つ大きな留学の目的になるのではないでしょうか。結論から申し上げると、英語力、特にアウトプットの能力を高めるなら、なるべく日本人が少ない小規模校に行った方が良いです。
私は1年目に通ったUCLAは、いわゆる大規模校で、LL.M.生だけで250名超、日本人も50人以上在籍していました。このような環境で、英語での発信力を高めるにはかなりの努力がいると思います。授業は数十名から100人以上で構成されるものが多く、一人一人の発言の機会はそう多くありません。勇気を出して手を挙げても、一回の授業で一回指名されるかどうかでしょう。また、日本人が多いとどうしても日本語でのコミュニケーションがたくさん生じてしまいます。中には日本人とは距離を置いて国際交流に専念している学生もいましたが、それはそれでエネルギーがいることと思います。さらに、LL.M.生だけのクラスも多いのて、本場のアメリカ英語というよりは各国の訛りのある英語に慣れていくことが必要だったりもします。
一方、2年目のUCIは、LL.M.生は30名弱、日本人も私しかいませんでした。JDを含めた人数も限定的で、数名から10数名の小規模クラスの授業が多く展開されていました。そのような中、むしろ発言を求められない授業の方が少なく、グループワーク等を含めてかなり喋りました。また、レポートや小論文の課題も多く、教授は一人一人丁寧にコメントをつけてくれました。ライティング能力もかなり上がったと思います。なお、LL.M.の人数が少ないが故にほとんどのクラスがJDと合同で、アメリカ英語に慣れるにもはとても良い環境でした。
おそらく上記のような違いは多くの大規模校と小規模校に共通して生じるものと思われ、英語力に重きを置いた留学であれば、是非人数の少ない学校を選ぶことをお勧めします。
特定の分野を極めたい:なるべく大規模校へ
話は変わりますが、特定の分野を極めたいのであれば、まず目星をつけた学校で公開されているシラバスを熟読すべきです。やはり学校によってビジネス法に強いのか、公法系に強いのか、はたまたタックスロイヤー向きなのか等の特色があります。大部分の情報はウェブから入手できるでしょう。
その上で、規模の観点から一つ言えるのは、小規模校だと希望する科目を取れないリスクがより高まるということです。そもそも科目の数が比較的少ない上に、LL.M.は少数派なのでJDの科目登録に劣後してなお余裕のあるクラスのみ登録可能ということもあります(UCIがそうでした)。そうすると、ある特定の科目がすごく良さそうでも、結果履修さえできない可能性もそれなりにあるわけです。例えばUCIでは交渉術の授業がすごく人気で、この授業の履修も入学を決めた一つの理由だったのですが、残念ながら科目登録は叶いませんでした。
一方、大規模LL.M.はJDと同じ優先順位であるか(UCLAがそうでした)そうでなくとも科目の選択肢が多いので代替案を作りやすいです。例えば、私はM&Aの実務系科目を取りたかったところ、UCLAでは似たような科目が通年で4、5科目あり(ゼミ形式、講義形式、税法観点、裁判例の分析中心等、切り込み方を変えて提供されます)総じて得たかった知識は十分に身につけることができました。
そもそも一般論として希望科目を全て履修することはどの学校でも難しいものですが(必修科目と時間割が被っている等)、極めたい特定の分野があるのであれば、より授業の選択肢が多い学校にした方が良いでしょう。
人脈を広げたい:大規模校へ
あえて書くまでもないかも知れませんが、全世界的なネットワークの作りやすさで言えばはやり大規模校です。世界各国から優秀なロイヤーが集まりますので、彼らとの交流は大変刺激的で自分のキャリア形成や今後の仕事にも役にたつ人脈を構築できるかも知れません。
また、日本人が多ければそれはそれで、ネットワーキングの面ではとても有益です。日本で仕事を続ける限り、公私共に日本人ロイヤーとの繋がりが最も重要と言っても過言ではないと思われ、仕事抜きの環境でじっくり親交を深めることができるのは何にも代え難いものがあります。私は授業外でもゴルフとテニスで多くの友人を作りました。
なお、アメリカ人の友人を増やしたいならこの限りにあらずです。小規模校でJDと一緒の科目をどんどん取って顔を売りましょう。
キャリアの休憩期間にしたい:大規模校へ
特に決まった目標はないが、せっかくの留学なのでプライベートを充実させて米国ライフを満喫したいという方もいると思います(全く間違った目的だとは思いませんし、私も子連れだったので強く賛同する側面もあります)。その場合、上記「英語力を伸ばしたい」の裏返しになりますが、大規模校がお勧めです。やはり小規模校は小規模の授業が多く、準備不足で発言もせずに授業に出てくるとかなり目立ちます。そしてこれを避けるため毎回授業の準備を完璧にこなそうと思うと、非ネイティブの我々にとっては私生活の多くの時間を費やす必要があります。また、一般的に出席要件も厳しいので連休取って旅行に行ける期間は限られてきます。
ところが大規模校になると、教授が生徒を当てずに一方的に喋る授業も多くあり、またLL.M.専用の授業では予習の要求水準も高くありません。日々のタスクは少なくしようと思えばかなり少なくすることができる授業が多いと思います。また出席をそもそも取らない授業も多かったようです。
したがって、旅行をたくさんしたい、ゴルフを上達させたい、または家族との時間を第一に考えたい、といった希望が強い方は、なるべく小規模校は避けた方が良いと思います。
米国司法試験に確実に合格したい:下位校にメリットあり
この点は大学の規模というより、US Newsのランキングや司法試験合格率等から分かるロースクールのレベルが重要です。上記校では、総じて司法試験対策は行わず、一般的なガイダンスが行われるのみという所が多いようです。ロースクールの授業では合格後の実務を見据えて発展的な内容を扱い、司法試験科目について、網羅的に判例や条文を潰すようなことはなされません。そもそも司法試験科目のほんの一部しか履修できないこともままあります。
一方で、中堅から下位のロースクールでは、卒業生の合格率を上げるために、司法試験科目の授業が手厚いそうです。UCIもUCLAに比べると各ランキングの順位は下の方の学校で、確かにMEEプロパー科目含め司法試験科目は取りやすい環境でした。また、本来の授業とは別に司法試験対策講座が正式な授業としてあり、過去問を授業中に解いて教授が添削してくれたります。
米国司法試験に留学の大きなウエイトを置かれている方は、あえて上位校に行かずに、早い時期からロースクールの授業を利用して司法試験対策を始めてしまうのも有用な戦略だと思います。なお、私の個人的なニューヨーク司法試験の合格体験記はこちらをご覧いただければ幸いです。
おわりに
以上、私の2校の留学体験から感じたことをまとめさせていただきました。留学前には全く分からなかった気づきも多く得られましたので、これから米国ロースクール出願を考えられている方の参考になれば幸甚です。私にとっての米国留学は異次元と言って良いほどに視野を広げ、視座を高めてくれたものでした。貴方が検討されている留学についても、これがより実り多いものになるよう祈念しております。
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