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松本人志に見る芸人のエスタブリッシュメント化問題

芸能人の言動を臨床医学的な視点からつぶさに観察し続ける男、サブカル産業医・大室正志と、地上波はすっかりNHKとテレ東しか見なくなってしまった朝倉祐介による、内角高めギリギリストライクゾーンを狙った放談企画。
第5回は年明けに話題になった「まっちゃん騒動」について、ああだこうだ言っています。
ディスクレーマー:毎度のことながら、最後まで読んでも特に得るものはありません。
本稿は「論語と算盤と私とVoicy」の放送に加筆修正した内容です。

(編集:代 麻理子)

日曜朝の惨劇・まっちゃん事件

朝倉:前回は『SPA!』についての話題でしたが、今回は何ですか?

大室:今日は少し前に話題になった『ワイドナショー』という番組で、松本人志さんが炎上してしまった騒動について話したいと思います。

朝倉:ダウンタウンのまっちゃんといえば、我々世代のヒーローですよね。

大室:そうですよね。NGT48のメンバーの方がファンの男性から暴行を受けたという事件に対して、AKB48グループである指原さんが、まさに当事者として他人事ではなくシリアスな感じでコメントされたんですよね。あの方は元々勘がすごくよくて笑いが分かる方なんですが。

朝倉:バラエティ番組とかによく出ているもんね。

大室:そう。でも今回は割とシリアスな調子で言っていたんですね。

朝倉:事件が事件だからね。

大室:松本さんは彼女が話す改善プランに対し、いつも通りの感じで茶化すような発言をされていて。

朝倉:僕、番組見てないんだけど、実際にはどういう話の流れだったんですか?

大室:指原さんが一生懸命喋っている時に、松本さんが「そこはお得意の体を使って何かするとか」と、要するに「(普段)枕営業してたんでしょ?」みたいなことを匂わせるような発言をして。完全に指原さんのキャラ的にも無いだろうし、松本さんの言い方も、女性を口説く時のセクハラという感じでは全くなくて、明らかに今この瞬間に笑いが欲しいという、どちらかというと「人」では無く「コト」である「笑い」に向かっていましたね。

朝倉:なんかオチをつけなければいけないっていう使命感だったのかな?

大室:シリアスだけだとちょっと……という、松本さんのある種の使命感だったんじゃないかと思うんですけど。指原さんっていうのは勘がいい人だから、いつもだったらすぐそこに対して「おいっ!」って言える人なんだけど、ただ今回は余りにもその件に入り込んじゃっているので、一瞬ちょっと困っちゃったんですよね。で、その時に古市憲寿さんが隣にいて、「その顔で上がってきたんだから、そういうこともしてきたよね」みたいな感じで、さらに茶化したんですね。

朝倉:まっちゃんの滑った発言に乗っちゃったんだ。

大室:すると指原さんがまた「あっ、あっ……」って困惑されて、結果的にいじめの構図に見えちゃったんですよね。

朝倉:なるほどね。それは惨事だ。

美しい日本のあいまいなポリティカル・コレクトネス

大室:今回のこれは非常に間が悪いし、それだけ切り取ったら確かにすごくひどいことを言ってます。ただちょっとこの辺りはなかなか難しいなと思いまして。セクハラとかパワハラっていう概念ももちろんそうなんだけど、やっぱり考えなきゃいけないのはPCなんですよね。

朝倉:はい。ポリティカル・コレクトネスね。

大室:アメリカなんかだと当たり前な、「政治的な正しさ」ですよね。例えば、メイドさんを映画で描く時は黒人やヒスパニックだったり、ある意味、統計上多いのは事実なんだけど、そうした偏見を助長するような表現は止めていこうというような。

朝倉:ステレオタイプね。

大室:そう、ステレオタイプは止めていこうという動き。で、そういうようなポリティカル・コレクトネスの動きが強い国では、『WASP』と言われるホワイトアングロサクソンプロテスタントという、アメリカの元々支配階級にいた人達はすごく言葉に気をつけなければいけない。日本の場合はWASPと黒人という程、分かりやすい社会的コードは無いんですけど、男性は女性に対して、というような、なんらかのコードがありますよね。

朝倉:はい。

大室:例えば男性が「この辺にいい女いないの?」と発言したら、最近だったらアウトになる。「いい女」っていう言い方が上から目線っぽいので。
でも、キャリア女性が「ちょっといい男いない?」って聞くと、これはアリな感じになるように。

朝倉:たしかに。かっこいいお姉さんみたいなポジティブな感じに響くな。

大室:他にも、関西の芸人さんがキー局について「こないだ東京で〇〇テレビに行ってきたけど、マジ冷たくて最悪やったわ〜」って関西に帰ってTVで文句言っても許されるけど、東京の芸人が地方局に行ったことを「マジしょぼかった」って言ったら多分問題になると思います。

朝倉:そうだね。

いつの間にか権威化していた職業としての芸人

大室:っていうような、なんらかのコードがあって。それで言ったら、元々の芸人さんの出自っていうのは、地位が低いっていうことを前提に作られた装置ですよね。

朝倉:まぁ、そうだねぇ。伝統的に芸をする人というのは、かつては「河原者」と称されていたわけだしね。

大室:昔、山城新伍さんなんかは、『河原乞食考』なんて本も書かれていますが、芸人さんというのは、トリックスターや道化と言われたりするような、歴史的には世の中の地位の番外地にいることによって王様や大名のことをからかったりできるというような、それによって庶民の権威・権力に対する緊張を和らげるような作用もあったわけです。

朝倉:吉本の芸人さんでも、ちょっと上の世代だと、なかなか凄惨な生い立ちの方も多いですもんね。

大室:そう。だから女優さんとか、銀幕の大スターみたいな方がいて、そんな中で芸人というのはちょっと地位が低いが故に言いたいことを言ったり、茶化すことを許されるというのがある種の役割だったんですけど。

朝倉:地位が低いからこそ権威や権力がある人に対して「何言ってんだ」とツッコむことが出来たわけですね。

大室:だから色んな発言も許されてたんだけど、難しいのは、途中から芸人さんの地位が非常に上がり過ぎて、結果的に芸人さんが権威になってしまったんですよ。

朝倉:そうだねぇ。

次回に続く)



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