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【Anyplace内藤聡】「ソーシャル・ネットワーク」を見てシリコンバレーで起業した話

シリコンバレーでスタートアップAnyplaceを展開する内藤聡さん。同社は2018年に米国著名投資家から資金調達をし、現在では14カ国43都市で利用できるホテルの賃貸利用サービスを展開しています。
日本に一時帰国しているタイミングで、彼がシリコンバレーで起業した経緯と、Anyplaceの成長過程について聞いてみました。
内藤聡
Anyplace共同創業者。1990年山梨県生まれ。大学卒業後に渡米。サンフランシスコで、いくつかの事業に失敗後、2017年にホテル賃貸サービスのAnyplaceをローンチ。同年ウーバーの初期投資家であるジェイソン・カラカニス氏から投資を受ける。

映画「ソーシャル・ネットワーク」を見て起業を目指す

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):まずは自己紹介と事業の説明からお願いします。

内藤聡(Anyplace CEO。以下、内藤):Anyplace(エニープレイス)というプロダクトをつくっている内藤聡です。エニープレイスは、ホテルなどの空き部屋を利用して簡単に賃貸を予約できるオンラインサービスです。現在は14カ国、43都市でご利用可能です。

朝倉:ホテルをマンスリーマンション感覚で利用できるんですよね?

内藤:はい。ホテルやマンスリーマンションと提携して、入りたい時に入れ、出たい時に出られるという賃貸サービスを提供しています。家具を揃える必要もありませんし、電気・水道・Wi-fi契約など、通常の賃貸契約時に発生する面倒な手続きなしで、ホテル感覚でご利用いただけます。

朝倉:利用者は出張で現地に来る人が多いんですか?

内藤:そうですね。ご利用者の約半分は出張や留学時の仮住まいとして、残りの半分はデジタルノマド(ITを活用して仕事をしながら旅をするライフスタイル)やミレニアル世代の方達です。

朝倉:なるほど。内藤くんはシリコンバレーで日本人起業家として活躍されているChompKiyo(Chomp Co-founder and CEO 小林清剛氏)やRamenHeroのヒロくん(Ramen Hero CEO長谷川浩之氏)などとも親交が深いですよね。

内藤:はい、Kiyo軍団の一味です(笑)

朝倉:サンフランシスコ界隈で起業している日本人コミュニティーの中核的存在なのかなと思うんだけど、なんで米国で起業したのかを聞かせてもらえますか?

内藤:米国やシリコンバレーに興味を抱いたきっかけは、大学2年生の頃に見た「ソーシャル・ネットワーク」という映画です。

朝倉:日本では2011年に上映された、Facebookのマーク・ザッカーバーグらを描いた映画ですよね。あれが大学2年生の頃だったんだ?

内藤:はい。自分と同じくらいの年齢の人が、世界にインパクトを与えるものをつくっていて、シリコンバレーにはそうした人が沢山いるということを知り、衝撃を受けました。それをきっかけにシリコンバレーに興味を持ち、最初は語学留学として渡米しました。

その後、すぐには米国で起業しようとはならなかったのですが、シリコンバレーのスタートアップ事情を伝えたいと思い、「シリコンバレーによろしく」というブログを書き始めました。

それが、イーストベンチャーズの松山太河さんの目にとまり、「うちでアソシエイトとして働かない?」と誘っていただき、籍を置かせてもらったのをきっかけに、スタートアップの世界に入り込んでいきました。

朝倉:語学留学をしていた頃にブログを書き始めて、帰国後イーストベンチャーズで働き始めたんですね。大学は卒業したんでしたっけ?

内藤:はい。卒業できる単位はあらかじめ取得していたので、「卒業式を待たずにとにかくシリコンバレーに行こう」と思い、シリコンバレーに渡ったのが2015年の1月1日です。

無い無いづくしの「暗黒の2年間」を経てAnyplaceに

朝倉:その時には具体的な起業内容を決めていたわけではないんですよね?

内藤:全く決まっていませんでした。「いつか起業できたらいいな」とは思っていましたが、具体的な事業内容などはなく、「シリコンバレーの空気を吸おう!」くらいの気持ちで渡米しました。その時に、たまたま同じタイミングでシリコンバレーに移住していたのが、「シリコンバレーの兄貴」と呼ばれているKiyoさんです。

その頃、Kiyoさんも時間があったので構っていただいて、Kiyoさんと過ごしているうちに、気づいたら会社になっていました。

朝倉:Kiyoに会った当初はまだ起業してなかったんだよね? 「いつか起業できたらいいなと思ってます」と言ったら、Kiyoになんて言われました?

内藤:「今すぐしたほうがいいよ」と。「起業家の筋肉は起業して失敗しながら学んでいくから、はじめない限りは起業家として成功できない。やりたいなら今すぐやるべきだし、日本じゃなくてこっちで起業したほうがいい。もし自分が10年前に戻れるとしたら、最初からシリコンバレーでやる」という話をしていただきました。

それで、僕もはじめからシリコンバレーでやったほうがいいのかなと思い、Kiyoさんに事業のアイデアの壁打ちをしてもらっていたら、「いいじゃん。僕がお金を出すから会社にしなよ」とエンジェル出資をしてもらい、会社を設立しました。

朝倉:今のAnyplaceのサービスに至るまでに紆余曲折があったんですよね?

内藤:起業後最初につくったプロダクトは、Airbnbで売れ残った部屋を直前で割引して安く販売できるサービスでした。Airbnb版の「Hotel Tonight」です。しかし、ローンチ後すぐにAirbnbから運営を禁止されてしまったり、部屋を獲得するコストと収益が見合わず、事業内容を変更したりしました。

朝倉:家具の引き取り事業を試していたこともありましたよね? 2トントラックを運転して、僕の家の家具を引き取ってくれたことがあったよね。

内藤:はい。中古家具のレンタルサービスを試したこともありました。トラックを運転して、家具を搬送して。あれはつらかったですね。もうやりたくないです……(笑)
起業後、そういった事業をいろいろ試していたんですが、結局、2年間は「プロダクト」と呼べるようなプロダクトが無い状態でした。僕にとっての闇歴史です。そうした時を経て、最終的に今のプロダクトに行き着きました。

朝倉:その間、結構大変そうでしたよね。収入も無かったわけだもんね。

内藤:そうですね。エンジェル投資していただいた資金で事業を試していましたが、自分たちは最低限のところで食いつなぐという生活をしていました。

朝倉:ガッツがありますよね。その頃に、一緒に試行錯誤していたのがRamenHeroのヒロくんなんですよね?

内藤:はい。彼はその頃に渡米してきました。当時はまだ金髪じゃなかったですけどね(笑)

「自分が本当に欲しいもの」をプロダクトに

朝倉:シリコンバレーに渡ってから起業して以降も試行錯誤があったようですが、なぜ現在のAnyplaceのようなサービスを始めようと思ったんですか?

内藤:いくつか事業を試してはうまくいかず、を繰り返した結果、自分がすごく欲しいけれどまだ世の中にないものを探すことにチャンスがあるのではないかと考えました。

その思いを突き詰めた時に、当時の僕は頻繁に引越しをしていたので、その度に家具を揃えたり、水道や電気、Wi-fiの契約しなければならなかったりすることが、自分にとっては結構なストレスだと気づいたんですね。

加えて、アメリカの賃貸事情では、1年契約がミニマムで、それよりも短い場合は解約が難しかったり、解約はできても違約金が発生したりするなどの事情に不自由さを感じていました。

朝倉:アメリカの賃貸契約ってすごい強気ですよね。日本だと1年契約よりも2年契約とか長期にしたほうが、家賃が安くなることが多いと思うんだけど、向こうだと逆で、長期にしようとすると、月々の家賃が高くなるんだよね。その頃には家賃相場が上がっていくからだと。
「これがインフレってやつか」と僕も驚きました。特に都心部では強気だし、家賃もすごく高い。

内藤:そうなんです。僕自身もそのことが結構な苦痛で……。これだけいろんなものがオンデマンドでフレキシブルになっているのに、賃貸住宅には柔軟性が全く無いのが当時の実情でした。そこをホテルを予約する感覚で利用できるようにしたら、チャンスがあるのではないかと思ったんです。

そう思いついてから、「ホテルに住めるようにする」ということは、そもそもホテルに住んでしまえばいいのではないかと思い、サンフランシスコのホテルに電話をかけまくりました。「1ヶ月契約をするから安くしてください」とお願いをして。
すると、いくつか「Yes」と返答をくれたホテルがあったので、まずは僕自身がそこに住んでみました。

そしたらめちゃくちゃ快適で! 好きなときに入居できて、好きなときに退居できるし、面倒なインフラの契約も必要無いし、「これはいいな」と思いました。僕以外にもこういったサービスを望む人がいるだろうと思い、この事業でいこうと決めました。

小さくはじめて、まずは反応を見てみる

朝倉:事業内容を決めてから、どんなアクションを起こしたんですか?

内藤:はじめに、Weeblyというホームページ作成サービスを利用して、簡単なWebサイトをつくりました。このサービスでは月額8ドルで、コーディング不要で簡単にサイトが作れるんですよ。

朝倉:僕も内藤くんに教えてもらって、利用したことありますよ。パワポ感覚でホームページが作れるんだよね。

内藤:ドラック&ドロップで簡単に作れます。ホテルの写真や料金、住所、問い合わせ先などをWeeblyを使って記載し、craigslist(ローカル情報を交換するアメリカのサイト)の掲示板に載せてみました。そうしたら2、3件問い合わせがあったんです。僕も内見に立ち会って、実際に契約をしてもらい、「これならいけるぞ」となったのがAnyplaceの出発点です。

朝倉:自分の稼働時間はもちろんあるけれど、サービス立ち上げ時にかかった初期コストってWeeblyにかかった8ドルくらい?

内藤:はい。それで十分だと学びました。Anyplaceの前に立ち上げていたプロダクトでは、自分たちでアプリを作って、世に出すまでに数ヶ月はかかっていたんですが、結局うまくいきませんでした。その経験を経て、あの時間は無駄だったと気づきました。

今だと、Weeblyに限らず、簡単にサイトやアプリを作れるサービスが色々あります。それらを利用して小さくはじめて、実際に顧客がつくかどうかを試すことができますし、まずそうすべきだと思っています。

朝倉:これは起業に関心がある人にはとても参考になる点だと思います。初めて起業する方のお話しを伺っていると、みんなめちゃくちゃ壮大なビジョンを抱いていて、そのビジョンを実現するために、かなり慎重に準備をしてからローンチをしようとしている方が多い気がします。

大きなビジョンを描くこと自体は素晴らしいんだけど、まずは小さく試してみるという姿勢から学ぶところは大きいように思います。

内藤:僕も自身の経験から、小さく試すことが一番大事だとの思いに至りました。小さく試すこと自体には時間もコストもほとんどかからないですし。ジェイソン・カラカニス(米国の著名投資家)から投資を受けたときも、プロダクト説明時に彼に見せていたのはWeeblyで作ったサイトでした。

仕上がりの見た目も、デザイナーがデザインしたようなサイトに見えるので、見せた人から「このサイトのデザイナーは誰?」と聞かれたことがある程です。シード期やエンジェル・ラウンドの調達段階では、それで十分なのではないかと思います。

朝倉:よく、「最初はペーパープロダクトを作って、いろんな人に聞いてから」と言われるけれど、自分でコーディングができない人でも簡単にサイトが作れるわけだから、サイトそのものをサクッと作ってみてリアルな人で試せばいいのではないかということですよね。

内藤:そうですね。今のテクノロジーをうまく利用したら、エンジニアでなくても、ペーパープロダクトより一歩踏み込んだ最適に動くものをユーザーに提供できるので、そういうことをしていくべきだと思います。

英語は苦手でも商売の相手として認めてもらえる

朝倉:craigslistに問い合わせがきて、「ビジネスとして成立するかもしれない」となってからのプロセスを教えてもらえますか?

内藤:Weeblyで簡易的なサイトを作成した次段階として、自分たちのWebサイトを作り、掲載するホテルを増やしていこうと試みました。その過程で、アメリカに「Co-living」という新しい形の賃貸ムーブメントが興り始めました。Co-livingは「住む・働くに境を作らない新たな暮らしと仕事の形」のことで、「Co-working」のlive版といった感じです。

Co-livingを推奨する会社が長期で物件を借りきって、内装に手を加えたり、家具をモダンなものにしたりして、それを短期やフレキシブルな期間設定で貸し出すことがトレンドになりました。

ピーター・ティールのファンドもCo-living事業を行う会社に投資をしたりと、Co-livingに注目が集まり、運営会社も物件も急増しました。個々の運営会社や物件が増えても、それをまとめあげるマーケットプレイスがまだ存在しなかったので、そこにチャンスがあるのではないかと思ったんですね。

「Anyplaceのサイトに物件を掲載しませんか?」とCo-livingの事業会社に営業を行なっていったら、「掲載したい」と言っていただける会社がいくつかあり、そこから掲載物件が一気に増えていきました。

朝倉:自分たちで直接営業をして掲載している会社ももちろんあるけれど、Co-livingを提供しているスタートアップの部屋を掲載するインテグレーターといった感じですか?

内藤:そうですね。契約は利用者と掲載者の直接契約にしていて、掲載者から手数料として売り上げの10%をいただくというビジネスモデルです。

朝倉:プラットフォーマーですね。そこに至るまでが結構大変そうですよね。掲載許可をもらうために、ホテルとかに自分でテレアポしてたんだよね?

内藤:はい。今は社内にセールスチームがいますが、初期の頃は全ての物件に自身で営業をしに行っていましたし、今でも重要な物件や海外の物件には僕自身が現地に行って営業をしています。

僕は、英語に関してネイティブではないですし、得意でもないんですが、僕の英語力でもきちんと商売の相手としてみてくれるということを実際に海外で試してみて知りました。

朝倉:今Anyplaceが賃貸物件を提供している地域や利用者層を教えてください。

内藤:掲載物件の多くはアメリカで、あとはカナダやメキシコ、ヨーロッパの主要都市やシンガポールやバリといった東南アジアなど14カ国で展開しています。ユーザーはアメリカ人が7、8割で、あとは渡米する海外の方といった感じです。

朝倉:グローバルですね。

本稿は、Voicyの放送を加筆修正したものです。

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