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工場実習のリアル

4月も終わりに近づいてきた。

新社会人は5月に入ると研修も終わりOJT形式で実業務に入っていく時期だ。GWがある5月は連休後に五月病になりやすい時期だし、メンタルは一度壊すと中々元の状態に戻らない。

心を壊してまで働くぐらいなら、無職になってみるというのも至極真っ当な選択肢であると自己肯定してみる。僕は現在無職だが案外何とかなっている。ただその選択を決断するまでに激しい自己葛藤があるのも事実で、なかなか社会人1年目で決断することが出来ない人も多いかもしれない。

人生って思ったよりめちゃくちゃ長い。若い世代は一生働かないといけない時代かもしれない。そんな時代だからこそメンタルヘルスが一番重要だと僕は思う。少しくらい休憩してもたぶん誰も気にしていないと思う。(そう思うまでには長い時間がかかったが)長い目で見て自分の精神にとって最良な選択を常に決断したいものだと考える。

前書きはこれくらいにして今回は僕が社会人1年目の時に経験した工場実習の話を書きたい。これからメーカーで働く人や実際に工場実習に行かれる方が読んでくれたら嬉しいかもしれない。

品質検査

僕が一社目に勤めていたメーカーはとあるJTC機械メーカーだった。本社でエンジニアとして働いていたのだが、新入社員は全員3ヵ月の工場実習があるためいったん職場を離れて独身寮や一人暮らしの近くの工場に配属されることになっていた。

普通は自分が担当する製品に近い現場に配属されることが多いのだが、システム関係の仕事だったので、製品という括りはなくシンプルに人手不足の現場だったと思われる品質管理部門で働くことになった。本社は独身寮から電車で1.5時間ほどかけて通っていたので、ギリギリまで寝ていられるんだと喜んたことが今も鮮明に思い出される。

クソレガシー言語とにらめっこしてたなぁ。

品質管理部門では主に中間製品検査や過去に不良を出した型の2重チェックという作業がメインだった。管理職を含めた社員が数名、後は派遣社員といったメンバー構成で、他部署には海外の方もちらほらいる職場であった。

僕が初めて配属された時の班の方の反応は「また、来よったで!」というような反応だった。同期から「実習生はどうせ元の職場に戻るから期間中はこき使われる」という話を聞いていたので、実際に班の方の反応を見て「なるほど」と思った。

「実習生、また来たで」

しかし不安をよそに作業自体は慣れてしまえば非常に簡単であった。

  1. 中間製品が品質基準を満たしているかを測定器でチェックする。

  2. 不良品を出した型の2重チェックとして、製品にゆがみがないかを1つ1つ見ていく。(単調すぎて眠気で気が遠のく、、、、)

これが基本の作業であり、

ラジオ体操⇒作業⇒昼飯⇒作業

で8時間勤務するというルーティンが3ヵ月間続くという話であった。

時がたち、仕事に慣れてくると作業にも余裕ができ空き時間が発生する。しかし何もせずにしていると怒られるので掃除ばかりすることになり、職場はピカピカであった。この空きの掃除の時間で班の方と話すようになり、随分と工場実習での毎日が楽になったことを覚えている。

3時間残業デフォルトと初めての夜勤

作業に慣れてくるとリーダーから「残業してくれんか?」と言う話が舞い込んできた。「ついに来たぞ!」と内心でガッツポーズ。工場実習で稼いだお金を車の頭金にするというのがこの会社ではポピュラーで、当時の自分は車を買いたいと思っていた。

工場は2交代制でした。なので交代が来るまで誰かが残業しないといけない。恐らく僕が作業を問題なくこなせるようになっていたので、残業させてもよいという判断に至ったのだと思う。残業はマックスで月に60時間だったが、基本立ちっぱなしだったので体力的には結構大変であった。

当時欲しかったmurano


残業もこなすようになった後にリーダーから「ついでに夜勤もやるか!」と提案された。同期が言ってた言葉の意味が肌感覚で段々と分かってくる。経験として絶対に積むべきだろうと思っていたので快諾したがこれが結構きつかった。

まず生活リズムが逆転する。朝6時30分に起きていたが、夕方の6時30分に起きないといけない。そこから退勤する人々を横目に出勤。工場ですれ違う時の挨拶は夜でも「おはようございます!」。なぜならその人にとっての朝がいつか良く分からないからだ。昼食は日付が変わる頃に頂く。夜の食堂は限られたライトしか付いていなかったので悲壮感があった。

その後朝5時まで働き、残業を終えて寮に帰ると大体朝の8時30分。夕食()を食べてお風呂に入り正午ごろまでには就寝。これを2週間続けた翌週は日勤である。さすがにつらかった。休日も外に出かけようという気分にもならず家でひたすら資格の勉強をしていました。

ギンギン!


「おい、殺すぞ」

この言葉は工場実習中で僕が聞いた一番のパンチラインだ。残業時間も2時間ほど経過したある朝、いつも通り中間製品を検査中のことであった。中間製品が品質基準を満たしていないとその後の製品も同様の可能性がある。なので基準を満たしていない場合は、別の班の人に機械を調整してもらう必要が発生する。そこでZさん(強面)にお願いをしに行ったのだが、突然耳元で

「おい、殺すぞ」

と言われたのであった。頭が一瞬真っ白になり、なぜこんなことを言われなければならないのだろう、、、、、という気持ちになった。冗談とかではなくボソッと言われたので本気で思っているのが伝わったことも余計にショックであった。

後々他の人に聞くと、この中間製品の合格さえ貰えれば、残りのロットの関係から残業を切り上げてすぐに帰れたそうだ。だとしても言い方あるやん?という気持ちといい大人がこんな言葉を使うんだという驚きが交差し、気付けば帰り道に泣いている自分がいた。今でこそ笑い話だが、当時は心底ショックを受けた出来事だった。


「おい、殺すぞ」


派遣の現実

班には派遣の方も数名在籍していた。Aさんは凄く気さくな方で一緒に昼ごはんを食べたり非常に仲良くさせてもらった。作業もとても早くて正社員の誰よりも作業が早かった。ある日Aさんに

「明日でお別れやなぁ」

と言われた。派遣社員は契約期間があり、期間更新がされない限りいわゆるクビという形になるようであった。Aさんは派遣元の契約期間終了後に正社員になれればと考えていたそうだが、声が掛かることはないようであった。「明日からどうするんですか?」と聞くと、「とりあえずブックオフやなぁ!」と全く悲壮感のない笑顔だったので安心したが、社会の縮図や怖さを垣間見たような気がして、その日は作業が上手くできなかった。翌日出勤するとAさんは本当にいなかった。


現場実習で学んだことは?

工場実習で学んだことはたくさんあった気がする。「夜勤の辛さ」「現場のやんちゃな人」「派遣の現実」。一番は「現場の人のおかげ仕事をできていることを忘れてはならない」という事に尽きる。製品を売るのは営業、しかし製品を作るのは現場の人。それぞれの仕事の役割に上も下もない。各々が役割に応じた仕事をすることで企業が上手く回っている。お互いのリスペクトを欠いたら終わりだと学ぶことが出来た。

「大卒のワイがこんなことできるか!」と言って辞めた新卒が昔いたらしいが辞めて正解だろう。リスペクトできないやつはリスペクトされることも多分ないだろうから。

Aさんが最終日にかけてくれた一言が忘れられない。

「元の職場で偉なって俺のことを雇ってくれ!」

すいません、Aさん。仕事を辞めちゃってます。なんならその後に転職した会社も辞めちゃってます。
でもAさんなら笑顔で「大丈夫や!何とかなるぞ」と言ってくれますよね。