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テレビ番組が伝える「嘘」① - 街頭インタビューを観るときの注意点

注:私は民放の情報番組のアシスタントディレクター(いわゆるAD)を2017年より2年弱していたものです。他の番組には当てはまらない内容もありますので、あくまで参考になれば幸いです。

テレビ番組では、よく街頭インタビューを行っている。今回は、その街頭インタビューが伝える「嘘」についてお話してみたい。

街頭インタビューとは?

皆さんも、以下のような光景を街で見かけたことがあるだろう。街頭インタビューとは、街行く一般人にテレビマンがインタビューをすることををいう。これを業界では、通称「街録(がいろく)」という。主に、渋谷、新橋、有楽町、巣鴨、上野などの駅前で、よくこの光景が見られる。

当然だが、このように撮影されたインタビューは、番組のVTRに使われる。

街頭インタビュ ー= 街録(がいろく)

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街録とは、通行人に何時間も"ナンパ"し続けるようなもの

街録は、結構過酷だ。番組のVTRに必要なON(オン)が撮れなければ、帰れない。場所や時間帯、質問内容にもよるが、大体インタビューに答えてくれるのは、10人に1人くらいだろうか。答えてくれる、かつ撮影OKな人が見つかるまでは、延々と通行人を"ナンパ"し続けることになる。断られたからと言って、凹んでいる暇はない。

ON(オン):取材対象者の回答、声のこと。その撮影素材。

ちょっとした街録なら20〜30分かもしれないが、何かのテーマに沿った個人的なエピソードを話してもらう場合には、大変だ。(例えば、『月曜から夜ふかし』は大変)私は最長10時間、道に立っていたことがある。途中でコンビニに行くことも、よくある。

悲しいことに、必ずしも撮影した全ての素材が、VTRに使えるとは限らない。街録にも「撮れ高」というものがあるのだ。つまり、つまらない(視聴率がとれないだろう)と判断された場合には、撮り直し(再撮)をしなければいけない。(取材させて頂いて、申し訳ないのだが...汗)

・撮れ高(とれだか):取材で撮影できた内容の良し悪し。視聴率が取れそうで、テレビ的に面白い取材ができれば、「撮れ高がいい」と言う。
・再撮(さいさつ):撮れ高が悪い時に、再度撮影に行かされること。

これが、真夏のビーチだったり、真冬の街頭、ということもある。取材する10〜20分(長い時にはそれ以上)膝をついていたら、膝を火傷して水膨れができたり、コンクリートが食い込んで跡がつくこともある。寒くても痛くても、カメラが揺れないように、苦痛を忘れて我慢するしかない...

街録が伝えてしまう、"嘘"とは

ここまでは、街録とは何か?という話。では、街録がどのように"嘘"を伝えるのか。

よくうちの番組で起こったのが、放送日の前日にADが街録に駆り出されるケース。例えば、出勤すると、以下のようにディレクターから頼まれる。

ディレクター:「まだ賛成派の意見が撮れてなくて、やばいんだよね。明日放送だから、今日の夕方までに賛成派のオンを撮ってきて欲しい。今日の夜から箱(はこ)だから。」
箱(はこ):編集所のこと。よく古いビルの複数フロアに入っている。色/音の調整・テロップ入れ・モーション入れなど、最後の編集をするために箱に入る。

うちの番組は月曜〜金曜放送の番組だったので、よくオンエアの前日に箱(編集所)に入り、VTRを完成させることが多かった。しかし、オンエア前日になっても、街録部分のみ撮影できていないことがあったりする。つまり、街録が撮れないと、明日放送のVTRは完成しないのだ。そういう時に、番組ヒエラルキーの最下層・ADが駆り出される。

当然ADは、撮る以外に、道はない。必死である。

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しかし、こういう賛成・反対意見のオンを撮る場合、トピックによっては、そもそも賛成派・反対派の割合に偏りがあることがある。例えば、このようなトピックならどうだろう。

最近、政府は夏休み廃止を検討していますが、あなたは夏休み廃止に賛成ですか?反対ですか?

これは架空の議題だが、現在の状況では夏休み廃止に賛成する人は、おそらくほとんどいないだろう。しかし、番組では、賛成派と反対派の意見を同数に近い形で、VTRに出す必要があると考えている。その方が、視聴者の目には"公正で健全な番組"に映るだろうと考えるからだ。

もうお分かりだろう。番組ヒエラルキーの最下層であるADとして駆り出された私は、数少ない賛成派探しのため、街頭を行き交う人々に、死ぬ気で"ナンパ"を開始する。

次々と人を捕まえ、VTRで扱うテーマを説明し、賛成か反対かを聞いていく。反対派とわかり次第、「そういう方のご意見はすでに頂いてるんですよね〜。貴重なお時間、ありがとうございます!」と言って、効率よくスルーする。

時々、意見が曖昧で「この人は賛成派かな?」ということもある。その場合には、想定される賛成派の意見を伝えて、賛成派になってもらえるように努力してしまったこともある。これは不健全な"誘導"だとわかっていても、このタイムリミットが与えられた以上、コミットしてしまうのが人間である。

このように、汚い手も使いながら、汗を流し、要求された内容のオンを撮る。そして、その素材をディレクターに渡すと、ADは評価されるのだ。

もう、お分かりだろう。実際のオンエアを見てみると...

今回用意した「夏休み廃止に賛成?反対?」という架空の議題において、例えば、本当の割合が賛成:反対=1:9だったとしても、VTRを見ている視聴者からは、賛成:反対=1:1のように見えてしまうのだ。

しかも、その賛成派は、もしかすると誘導され絞り出して得られた、数少ない賛成派かもしれない。(実際には、もはや賛成派ではないかもしれない)

当然、例えばアテレコして偽の意見を作り出しているわけではないし、確かにその取材対象者が話したことを放送してはいる。しかし、これはメディアとして、"真実を伝えている"と言えるだろうか。

もう一つの"嘘" - 取材対象者にも偏りがある

街録をするには、簡単なコツがある。以下のような特徴の人に、話しかけるのだ。

・複数人で楽しそうにおしゃべりしている
・オシャレしていて、派手目な服装
・歩行速度が速くない(急いでいない)

なぜなら、このような人がよく取材に答えてくれるからだ。オシャレな中年女性グループに話しかけると、このような会話が想定される。結果、取材を受けてくれるケースが結構多い。

AD:「○○テレビなんですが、今お時間ありますかね?」
女性A:「あら、いやだ〜、テレビ?私もう歳だからいいわよ。もっと若い人がいいんじゃないの〜?」
AD:「いえ、全然お母さん、お若いですよ!是非お話を伺いたいんです!」
女性A:「そう〜?じゃあ出ちゃう?どうする?」(友達に聞く)
女性B:「まあ、こんなことも中々ないんだし、出ちゃえば?ほら、だってしゃべっても(VTRに)使われるかわかんないんだし!」

しかし、オシャレしている人に話しかけようとすると、必然的に女性らしく着飾った女性になってしまう。おそらく彼女たちは、ジェンダー的な観点で言えば「かなり女性的な意識の強い女性」で、金銭的に余裕のある、世帯所得の高い人たちである。さらに、平日の昼間に友人と優雅に例えば銀座を歩いているとなると、おそらく既婚者で、夫の方が働いているのだろう。

一方、地味な色の服を来て、一人で早足に去っていく人には、テレビマンは話しかけない。このように、取材対象者には、かなり偏りが出てしまう。

また、外国人が取材対象になるケースにも、偏りがある。例えば、「外国人に聞いた!〇〇の実態とは?」というVTRでは、番組は必ず白人をVTRに出したがる。なぜなら、私が聞いた演出担当のディレクターによると、「日本人は外国人を白人だと思っているから」だそうである。つまり、白人を出した方が、視聴率が取れると考えているのだ。

しかし、2020年現在、実際に日本にいる外国人の上位4カ国に、ヨーロッパ・アメリカ系の白人はランクインしていない。5位にブラジルがランクインしているが、全体の7%程度だ。つまり、日本にいるのは、圧倒的にアジア人が多い。当然、外国人の街録となれば、白人探しに苦労することになる。(白人が多い六本木に行けば、あまり苦労しないのだが。)

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▲2020年の在日外国人の数や割合(出典:インバウンドNOW

まとめ

この"嘘"を一言で言ってしまえば、テレビにとって都合の良い人を選んで取材している、ということだ。まとめると、以下のような点である。

・取材対象者に偏りがある(所得・ジェンダー・家族構成・人種など)
・世論の真の割合が反映されない

私には嘘をついているように感じることが多く、言葉にはしないけれど「辛い」と感じることが度々あった。このように「"嘘"を伝えてしまった」という事実をnoteで表に出すことで、少しは自分も本当の意味で世の中に役立っているかもしれない、と思わせてもらっている。noteに感謝したい。

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