いかさまの女
ウィキペディア、イカの項目より引用――
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%AB)
<引用開始>
イカの墨は一旦紡錘形にまとまってから大きく広がる。紡錘形にまとまるのは自分の体と似た形のものを出し、敵がそちらに気を取られているうちに逃げるためと考えられている。
<引用終わり>
【ハッミー!! 海夏です! ファンの諸君! いつもブログ見てくれてありがとぉ~】
私は本當の私じゃない。私は海夏。みか。みかに戻らう。
繪文字、繪文字、改行、改行。
【今日超面白い事あってー】
……私は此處でフリック入力の手を止めた。
面白い事なんかない。無い。無いッたら無い!!
今日見た事、物、人――
分解し再構成し、如何にネタとして昇華するか。
インターネットの海で、私の影は私の實體になる。
深呼吸して、何も考えずに取敢ず手を動かした。
意味があるようで無意味な文章を書いては消し消しては書く。
インターネットにアップロードする寫眞は勿論「ホンモノ」だけれども、私は他のブロガーよりも、自分が可愛く見える角度、メイク、そして何よりも、寫眞補正のアプリケーションの遣ひ方を熟知してゐた。
幾重ものフィルタを透して見える私は、輝いてゐる。可愛い黶は残す。嫌ひなパーツはスタンプツールでフリー素材のハートを貼って誤魔化したり消去する。私の理想の實體はインターネットの中に居る。
可愛い服はオークションで幾らでも安く買へる。痩せてさえいれば、それで良い。
ブログとツイッターで有名になる爲に、瘠せる過程すらも私はネタにした。
アクセス數が落ちかけたら過激な発言を態と書いてブックマーク數やプチ炎上を引き起こす。
匿名掲示板で單獨スレッドが立つてゐるのも知つている。
知らぬ振りを通す。
書きかけた文章を一度下書きとしてブログを保存し、掲示板を覗く。
【顏面詐欺】海イカ15【評論家氣取り女】
相ひも變らずセンスの無いスレ名。適当にチェックするが特にネタはない。
完全にループ状態だ。ブスだとかもう少し瘠せろだとか。そもそも此處のスレの連中は私の年齡すらきちんと把握してないらしい。
ヲチスレの連中も質が落ちたのか人間が變はつたのか……猿でももう少しきちんとした文章が書けて良いと思うのだが、そんな頭の良い人間はこんな場所には居ない。馬鹿の推測と嫉妬の捌け口をさらつと読み流してスレを閉ぢた。
とは謂え――そろそろアクセス數が落ちる頃合だ。さあ、そろそろネタでも書かうか。
たまにはアニメネタも惡くないだらう。コスプレだって何囘もしている。
烏賊の女の子が出るアニメがあつた。氣がする。
中身は知らない。青い髪で、白いワンピースで、快活そうな顔をした――
綾波レイのコスプレをした時に買つた短髪の青いフルウィッグがある。
取敢ず是を被る。手鏡を視る。惡くない。是で行かう。
後ろの觸手のような感じの髮の毛は、後から別色のロングウィッグの毛束を烏賊らしく、數ブロックに分けて広げて撮影したものを合成し、色合わせすれば良い。
別に合成だって、元ネタなんか知らなくたつて、見た目が良ければ良いのだらう?
畫像はブログにアップされ転載され、拡散する。複製され拡大縮小を繰り返し劣化し偽造された畫像の辿り着く先は何處だらう? 判らない。モザイク状にグリッチされて、屑のようなものになるのだらうか。
あんなすつとんとんで裾が広がる樣な無地の白いワンピースなんか手元に無い。
作るのも面倒なので、手持ちの服で何とかする事にした。
中學生の頃の何の特徴もない體操着が出てきた。
百円ショップで買つたゼッケン生地に「イカ娘」と書くと云ふ如何にも安易な手法を、敢へて使ふ。
コスプレの體操着と慣ればブルマだらう。ブルマなんて持つて居る訣が無い――と云ふ訣でもないもので、雑誌の附録には最近コスプレの衣裝もある。ブルマのある雑誌は通販で取り寄せる事が出來た。準備は完了。
準備が出來れば後は體操着の上にパーカーを羽織り、スカートを穿いて、カメラと小さめの三脚、後は脱いだパーカーとスカートが入る位の鞄を持ち、近くの公民館へ行く。住所が特定出來ないように、なるべく特徴の少ない建物の場所を、私は何箇所も知つて居る。幸いにして特定厨も○○縣○○市近辺、までしか特定出來ていない。
公民館の裏で素早くパーカーとスカートを脱ぎ、鞄の中に放り捨てる。
デジタルカメラの自動撮影と自分撮りの為の機能は便利だ。何もかもすべて私に向かつてゐる。誰の手も借りないでいい。
空に向かうやうに腕を大きく伸ばして、先づは自分撮り寫眞の下地を作る。
實體の私の腕が、寫眞の影になる。少し位置をずらす。完全に顔を遮る影が消えた場所でシャッターを何囘か切つた。
そして全體像を三脚とオートシャッター機能で、素早くポーズを取つて一枚。もう一枚。
パーカーだけ羽織つて寫眞を確認する。概ね良し。くしやくしやのスカートも拾つて穿く。下地が出來たし、家に歸らう。本物の自分にならう。インターネットの海の中で。
私は、鞄の外側のポケットから煙草を取り出し火を付け――ゆつくり大きく肺へ煙を送り込んで、味わいながら吐き出した。
烏賊の墨とは違う真つ白い煙は、直ぐに空に溶けて消えた。
あれー、お買い上げありがたうございます。
私の書く世界線ではとにかくみんな愛煙家です。
ちなみに私は持病の藥と相性が悪かった時にやめてしまいました。
あと、単純に服が臭くなる……。
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